バラステーキ
一同が水を飲み干し、バラステーキを一切れ食べる。
全員が、目を見張った。リヨリの味を上書きするような強烈な料理だ。
タレの塩気、脂の風味、それらを何倍にも引き立てるスパイスの香り。口に運ぶごとに力がみなぎるようだ。
「こ、こっちは塩辛いのう!」
「脂が口の中で爆ぜるようじゃ!食べ応えがあるのう!」
「うんうん……だけど、なんというか、後を引くねぇ……すぐ飽きそうな味なのに」
思わず、もう一切れ手が伸びる。
一口目以上の肉の味が脳にガツンと衝撃を与え、目が醒める。
「これはうまい!うまいのう!」
カチが立ち上がった。老人達も呼応するように立ち上がる。
「まったくじゃ!人形達がここまでうまい料理を作るとは!」
マルチェリテはにっこりと微笑んだ。マルチェリテの作品はあくまで人形で、料理ではない。
整列する人形達の姿勢は変わらないが、どこか誇らしげだ。
「食ってると……ご飯が欲しくなるな……」
白米の上に敷きカルビ丼にされたら、絶対に止まらない。
どんな男ですら屈服してしまう料理になっただろう。
「吉仲、とっとと解説せんか!」
肉を味わう吉仲の背中を老人が叩く。肉の味で魂までもが鼓舞されているようだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
フェルシェイルもナーサも目を見張り、バクバクと食べる。リヨリの天ぷらと違い、こちらの料理はとてもじゃないが上品に食べることができない。本能が、刺激されていた。
「さっき漬けてた黒いタレに、ヒポグリフの内臓がペーストされて入ってたのねぇ」
「たしかにバラ肉の脂とスパイスだけじゃ、この味の深みは出ないわね……他にもっと……」
「脳みそだよ、でもそれだけじゃないな……」
吉仲はジャイアントバットほど、ヒポグリフの脳への抵抗を感じなかった。脳そのものが見えないからか、蘇生させる所を見たわけじゃないからかは分からない。
だが、それ以上に分からないことがある。
内臓と脳みそ、そこまでは吉仲も食べたことがあるから分かる。でもさらにもっと味に深みを与えている存在がいる。
一番近いのはかつて居酒屋で食べた白子だ。だが、何か違うと感じる。
少なくとも、吉仲が食べたことのない食材だった。
「ヒポグリフの目玉と、脊髄ですよ」
マルチェリテは静かに微笑み、妖精が囁くような声音で呟いた。
眼球はゼラチン質で、コラーゲンが豊富に含まれる。そして脊髄も同様にタンパク質の塊だ。
人類は進化の過程で、肉食獣の食べ残しの骨の残骸から、石で脳髄を取り出し主な食料にしていた時代があったのは有名な話だ。
人は脳と脊髄で生を食いつないでいた。その本能は、文明が、美食がどれだけ発達した後でも変わらない。
脳と脊髄は特別美味しく感じるという法則は、もちろん人間との共通祖先から、深い森の環境と森に蓄えられた魔力に適応し、分岐進化したエルフにも当てはまる。
特別な調味を施さずとも旨味を感じられる脳髄は、エルフにとっても垂涎の美食だ。
もっとも普段から美食を食べるのは、エルフの流儀からすれば忌むべき貪食であるため、祭儀の時のみ味わえるご馳走ではあるが。
「ペーストにした内臓、脳、目玉、脊髄で作った特製のタレにバラ肉を漬け込み、そのタレごと焼いたんです」
全員が皿を注視する。
肉がまとった焦げ目が付いた黒いタレが照明をテラテラと反射し、ガッツリとした料理なのに気品があるように見えた。




