カラシをそえて
吉仲がしっかり味わい、首を振る。
「……いや、そうじゃない。ツタの甘みとは違うのは、肉自体の味が引き立ってるからだ。あくまでこれは腕肉とツタだけの天ぷらだよ」
フェルシェイルがもう一口味わう。吉仲の言葉で想像は確信に変わった。
「やっぱりね。腕肉とは思えないほどジューシーだから、脂を足したか揚げ油をよく吸わせたかと思ったけど、それじゃここまでサッパリとした後味にはならない。揚げも最小限に行われたからこその味なのよ」
吉仲が頷く。
「衣の中でツタの水分は蒸気となり肉に染みる。その風味と水気がパサパサした腕肉を劇的に変えたんだ。だから塩で食べると噛むほどに甘味が感じられる」
もう一口。
「それに腕肉は歯ごたえを保ちつつも、硬くなりすぎないようにスライスされているから、二つの食感が合わさって一体感を増しているんだ」
「ご名答!さすが吉仲とフェルシェイル!」
「ねぇ、食材を冷やしに行ったのはなんだったの?」
「正確には食材じゃないよ。天ぷらはフライと違ってパン粉を使わないからね。サクサクに揚げるために、衣の材料を冷やすと良いんだ」
揚げ物の衣が重くなるのは、小麦粉に含まれるグルテンが原因だ。
その結合を防ぐために、衣の材料を冷やすと良い。
「なるほどね……」
「それとね、こっちで食べても美味しいよ!」
リヨリがもう一つの調味料をカウンターに置いた。ボウルに入っていた黄色いペーストが入っていた皿だ。
一同がペーストを天ぷらにつけて食べた。
カラシだ、ただ辛味自体はそんなに強く無い。鼻から抜ける清涼感が心地よい。
そして噛んだ瞬間、全員の表情が変わった。
濃縮されたような強い甘みが、じゅわっと口中に溢れたのだ。
「こ、これは……美味いのう!」
「ああ!同じ料理なのに雰囲気がまるで違うよ!」
「塩は肉とツタの甘味をじんわりと引き立てていたけど、こっちはもっと直接的に、ピリ辛さの後の甘味が際立っているんだ!」
誰かが言うでもなく、塩味とじんわりとした甘味、カラシの辛味とその後の際立った甘味、そして箸休めのように何も付けずに食べ、味を比べ始めた。
同じ料理の調味料違いで、ここまで味が変わると驚きを通り越して感動を覚える。
「へへ、ビックリしたでしょ?」
リヨリは胸を張る。元はヤツキが作った料理だったが、ツタと調味料のアレンジは元の料理を遥かにしのぐインパクトに満ちている。
あっという間に、山のようにたくさん作られた天ぷらが無くなった。
フェルシェイルを除いた全員が口福のため息をつく。フェルシェイルは空になった皿をジッと見つめ、リヨリに尋ねた。
「ツタの火の通し方。揚げ物なのに蒸すなんていうのは、朝のお返しってわけ?」
「まあね。ツタステーキに負けない工夫になったかな?」
リヨリが水の入ったコップを配りつつ答える。フェルシェイルは、ニヤリと笑った。
「さすがですね、リヨリさん」
リヨリと入れ替わりに、マルチェリテの人形達が皿を並べる。
黄白色の天ぷらと対照的に、こちらは黒いタレをまとった焼肉だ。その黒光りする輝きも、香ばしい焼けた脂の匂いも、こってりした料理であることを主張している。
「トカゲのバラステーキです。そのままお召しあがりください」
マルチェリテの柔らかな雰囲気に似つかわしく無い、そして、マルチェリテの好み通りのガッツリ系だ。




