料理作り人形
十二体の人形達は、仕事に追われ倉庫から荷物を搬出する人間さながら、忙しなく旅行鞄から調理器具を取り出していく。
鞄から荷物を出し、隣の人形に手渡す、それがまた別の人形に渡り、最後は調理場の一画に綺麗に並べられていく。
人形のサイズに合わせ小さく作られたミニチュアの調理器具だけではない。
まるで大工が二人で使う大ノコギリのような包丁、人間の指より細かい小さな凹凸がたくさん付いた菜箸やフライ返しなど、人間の調理場でも使えるような道具も現れた。
人形が全ての道具を出し終わったことを確認し、マルチェリテは鞄を閉じる。
すみません、これを、とカウンター越しにフェルシェイルに鞄を渡すと、フェルシェイルは自分の脇に鞄を置いた。
「そうですねぇ……私は、料理ができませんから」
マルチェリテは微笑んだまま呟く。その瞳は愛しい我が子を見る母のような、うっとりした慈愛を持って人形達を眺めている。
「え?料理勝負なのに?」
吉仲とリヨリは、同時に同じ言葉を発した。
マルチェリテは柔らかく微笑んだまま、踊るように宙に白く輝く文章を描く。
「ですから、かわいい助手達にお任せします」
流麗な筆記体。それも、人形を起動させた文字より遥かに長い。
「なんて書いてるんだ?」
吉仲は隣のナーサに尋ねる。ナーサは文字をしげしげと眺めた後に首を振った。
「……エルフ文字は、ちょっと読めないわねぇ」
「ふふ、なんてことありません。今回のメニューですよ」
マルチェリテが文字を書き終えると、人形達は一列に整列し、熟練の執事の動きでまったく同時に胸に手を当て、礼をした。
魔傀儡師とは、人形に命を吹き込み自在に操る魔術師だ。
自分の身体と人形の動きを同期させて操る者と、魔法の文字や印を用い命令を与えて操る者の二つに分けられ、マルチェリテは後者だ。
命令が下された人形達は、精鋭部隊のように統率された動きで、トカゲのバラ肉の解体を始めた。
マルチェリテ本人は、人形達の動きに見向きもせず、大鍋にたっぷりの水を入れ火のついた竃に置く。
人形達は大ノコギリのような包丁で切り出す者と、運び出す者、そしてそこからさらに食べやすい大きさに切り分ける者と別れ作業を進める。
完璧に統率された、一切無駄の無いマスゲームは見ていてとても美しい。
切り分けられたトカゲのバラ肉が流れるように次から次へと隣の人形へと渡り、小さな手で器用に砕かれた小骨を取り除き、一口サイズに切り分けられる。
じっと眺めていると、自分が小人の国の工場に迷いこんだ巨人となった気分だ。
思わず見とれていたリヨリも、その手際にハッと気づいて自分の料理に戻る。
人形だからって侮れない。調理方法が人間とは違えど、その動きは熟達の料理人と変わらない。危険だと、リヨリの勘が告げていた。
ナーサだけが、真剣な表情で食い入るように見つめている。吉仲が、ナーサの異様に気づく。
「ナーサ、どうした?」
「え?ええ……ここまでの術、初めて見たわ……」




