魔傀儡師
「ん……じゃ、気を取直して……」
マルチェリテを見つめるリヨリの表情が、引き締まる。
「リストランテ・フラジュ、料理長リヨリ!この店と、父の名に賭けて、料理の勝敗に異論を挟むことなし!」
「喫茶ノノイ、店主マルチェリテ。私の店と人形達に賭けて、勝敗に異論を挟むことはございません!……吉仲さん、審査をお願いします」
「ああ、須磨吉仲、自分の舌に賭けて厳正に審査する」
吉仲は二人を見回した。
「今から三十分、一品勝負で良いか?」
リヨリは頷き、マルチェリテは首を傾げた。
「六十分にしていただいても良いでしょうか?最高の美味をお届けしたいのですが」
「え?まあいいけど……どうだリヨリ?」
「うーん、そうだね、良いよ!」
本気のマルチェリテと戦えるなら、リヨリに異論は無い。
「じゃ、六十分勝負、はじめだ!」
吉仲の号令と共に、リヨリがまな板にトカゲの腕を乗せた。
腕から骨を抜き、そのまま切りさばいていく。
「マルチェの店は喫茶店なんだな」
「それに、もう勝負は始まったのにコックコートに着替えないのねぇ」
「まあ……マルチェが料理人かというと、微妙な所ね」
吉仲とナーサの素朴な疑問に、フェルシェイルがため息混じりで返した。
マルチェリテは、作業台に鞄を置き、ゆったりとした動きで開く。
調理器具かと吉仲は思った。
しかし、その中には、小さな人形が入っていた。旅行鞄の片側に六体ずつ、合わせて十二体。
顔こそ何も無くのっぺりとしているが、巧みに縫製されたコックコートを着て、骨格といい指先などの細部といい、本物の人間のように精巧だ。
十五センチそこそこの人形が転がらないように革のバンドで止められているだけだが、どこか人間が縛り付けられているような生気を感じる。
「……人形?」
厨房にふさわしくない物に、思わずリヨリも動きを止めて見つめた。
「さあ、目覚めなさい」
マルチェリテは意に介さず、白い指で宙に文字を描く。
一拍の間の後、旅行鞄の中の人形達がけたたましく動き始めた。
「え!?」
やがて動きが収まった人形達は、自ら拘束を解き、鞄の外に出てくる。
伸びをする者、屈伸をする者、肩を回す者。それぞれが滑らかに動く、まるで本物の生きている人間が戒めから解放されたようだ。
「いっつも思うんだけど、その動き、いらないんじゃないの?」
「ふふ、雰囲気は大事ですよ」
吉仲とリヨリ、老人達が絶句する中、フェルシェイルとマルチェリテのやり取りが響いた。
「……魔傀儡師?」
ナーサがようやくそれだけ呟くと、マルチェリテはにっこりと微笑んだ。




