秘策
荒ぶるヒポグリフが前脚を高らかに上げる。まさしく暴れ馬だ。
「ナーサの所まで行けたとして、あんなのどうやって攻撃を当てれば良いんだ……」
店内の吉仲が思わず呟く。
近距離からのフェルシェイルの炎をかわす相手に、投げたロープが通用するとは思えない。
そもそもナーサの位置に行くまで、縦横無尽に駆けるヒポグリフに襲われそうだ。
「あ、そうだ。吉仲……ちょっと待って……」
リヨリが気づいたように、キッチンに向かう。そして、すぐに戻ってきた。
「昨日ナーサさんから買ったんだった、これ持ってって」
「これは……」
「多分、使えると思うから」
リヨリの手の中には、銀色の串。つまようじの長さしかない。
「これで何を?」
「うん、えっとね……」
リヨリの策を聞いた吉仲は、うんざりしたような顔になる。しかし、他の道もどれも同じくらい危険だろう。
「はぁ……やるしかないか……」
「気を付けてね」
銀色の串を握りしめる。
扉を開けると、ナーサ達が吉仲を見た。
「フェルシェイル、ナーサ!今からそっちに行くから、ヒポグリフが俺を飛び越えるように誘導できるか?」
「え?何言ってんのよ!?」
「吉ちゃん?」
「いいから!さっきの炎の壁みたいなヤツでいい!」
こうなったら一か八か、勢いだけの勝負だ。
吉仲がフェルシェイルとマルチェリテの近くに駆け寄る。ナーサからはやや離れているが、フェルシェイルならなんとかしてくれるだろう。
ヒポグリフは再び現れた人間の様子を伺う。
逃げ回っていた人間がまっすぐこっちに向かってくるのだ。それも、殺気を込めて。
ヒポグリフがわなないた。
前脚で何度か地面を打ちならし、そのまま走り出す。
吉仲はフェルシェイルとマルチェリテの位置を越え、ヒポグリフと二人の間に立ちはだかった。
串を握る。チャンスは一瞬。
猛烈な勢いで突進してくるヒポグリフの方は見ないことにした。フェルシェイルに任せて空中に意識を集中させる。
「吉ちゃん!」
力強い足音が近づく。見ないのも、それはそれで怖かった。
「死んだら、蘇生してあげるわ!」
フェルシェイルが炎の壁を張る。熱風が身体を打つ。全身から汗が吹き出すのを感じる。
「遠慮しとくよ!」
ヒポグリフが再び大きく跳躍する。
フェルシェイルの炎の壁を軽々越えて、吉仲の頭上に迫る。
馬の蹄が地面の頭に向かっているのが、吉仲の目にはっきりと見えた。




