一突き
――狙い通りだ。
吉仲はすぐさま地面に仰向けに寝転び、串におたまを突き立て、心の中で伸びろと強く念じる。
串の下端は脇の下から地面に突立ち、上端はヒポグリフの胴体に向かう。狙うは胸の中央部分。
仰向けになったことでヒポグリフの狙いは逸れた。
胴体が軽々と吉仲を飛び越える。串が伸びきるのは、それとまったく同じタイミングだった。
串を握る手に、衝撃が走る。串が大きくたわんだ。
「キェェェェェ!!」
ヒポグリフの鳴き声が轟き、吉仲の顔すれすれで土に汚れた蹄が飛びかった。
吉仲は目を瞑ることすら忘れ、食い入るようにヒポグリフの様子を見る。
着地の衝撃でまだ動けない。一瞬の間。後脚で立ち胴体が浮いた。
その瞬間、串を抜き去る。吉仲は転がり、離れ、急いで立ち上がろうとする。しかし腰が抜けて上体を起こすだけで精一杯だった。
ヒポグリフの胸から血が、激しく迸った。離れたはずの吉仲の顔に、火傷するかと思うほど熱い返り血が掛かる。
もがくように翼を羽ばたかせ、巨大な身体が揺れる。四本の脚は行き場を求めてたたらを踏むが、やがて力を失っていく。
鳴き声は、ついには断末魔となる。
吉仲の目の前で、ヒポグリフが地面に打ち伏した。
「や……やった」
吉仲はつぶやくと、緊張の糸が切れる。身体中の力が抜けるように、地面に仰向けに横たわった。
「吉ちゃん、すごいじゃない!どうしたのあの棒は?」
「あ、ああ。リヨリからもらって。うわ……!」
駆け寄ってきたナーサが吉仲の肩を掴み揺する。ナーサには珍しく興奮している。
伸縮自在の魔法の串。
つまようじ程度の長さからバーベキューの金串まで、自由に長さ、太さを変えられる魔法道具だ。通常はリミッターのため三十センチ程度しか伸びないが、おたまの力で暴走させたのだ。
魔法金属のために頑丈で、ヒポグリフの衝撃を受け切ることができた。もし折れていたら吉仲は脚の餌食になっていただろう。
しかし、血に濡れた串は伸びきったせいでもろくなったか、吉仲の手の中でパラパラと崩れ去った。
「伸びろと念じておたまを当てれば伸びるなら、これで心臓を貫けば倒せるじゃないかって……」
ヒポグリフの心臓は馬と同様、胴体前方中央に位置する。
全身にくまなく血を行き渡らせるために通常でも大きいが、走ったり飛んだりする際は一際大きくなる。
それが幸いした。正確な場所を知らない吉仲にも貫くことができたのだ。
細い串だったことで肋骨に阻まれることは無く、さらに、太めの串程度の小さな穴でも、興奮状態の激しい脈動が失血を加速させる。
運が良かったと、吉仲は改めて思った。
「吉仲!やったね!」
「無茶すぎだぞリヨリ……」
店からリヨリが飛び出し、吉仲に駆け寄る。
興奮して、痛みを忘れているようだ。
「はぁ、どうなることかと思ったわ」
「ホントですねぇ……」
「いや、アンタが原因でしょ……」
「これは大物じゃのう」
「いやいやヒポグリフなら、これくらいが普通じゃよ」
「まさか目の前で魔物退治が見れるなんてねぇ」
フェルシェイルとマルチェリテ、老人達も近づいてきた。それぞれ思い思いのことを言っているが、どの顔も一様に安心した表情だった。




