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スタンピード


老人たちの視線が二人に集中した。

吉仲は急いで扉を閉める。リヨリはその場にへたり込み、背中を抑えた。


「イタタタ……」

「あ、悪い。大丈夫か……?」

「うん……まあ、大丈夫……ありがと……」


吉仲がリヨリを支えて立たせると、リヨリは振り向き、扉の小窓から店の外を覗く。

すぐ近くに、ヒポグリフの身体が見えた。吉仲が引っ張り込まなければ踏み潰されていたかもしれない。


「なんじゃあの魔物!?なぜヒポグリフがここに!?」

「ちょっと!ナーサとフェルシェイルがまだ外にいるじゃないかい!」

「ん?あの娘は誰じゃ!?」

老人達もようやく外で起きていることに気づいた様子で、窓から覗き込み口々に叫ぶ。


「あんまり騒がないでくれ、こっちにいるのは怪我人と老人なんだから。見つかったら大変だぞ」

老人達は吉仲の声でハッとして、一斉にヒソヒソ声に変わった。

吉仲は、カウンターの上にあったおたまを持つ。しかし、肝心の魔法陣は外に無く、魔法道具を使うにはナーサの所まで行かなければならない。


ヒポグリフは方向転換していた。落ち着きなく地面を掻き、鳥の声でいななく。

標的は吉仲とリヨリではなく、あくまでマルチェリテらしい。

そのまま、マルチェリテ目掛けて飛び込む。マルチェリテは思わず身を背け、フェルシェイルが炎の弾をヒポグリフへ飛ばした。


しかし、ヒポグリフは余裕で方向を変え、炎をかわす。

「ちっ」

フェルシェイルはすぐに腕を振り上げ、店に当たる直前で炎の弾を消した。

ヒポグリフはそのまま駆けるが、フェルシェイルと同時に振り向き、地面を掻く。まるで隙が無い。

「これじゃあ、ちょっと準備できないですね……」

マルチェリテがつぶやくと、フェルシェイルは忌々しげにもう一度舌打ちをした。


馬の滑走力と鷲の滑空力を併せ持つヒポグリフを捉えるのは難しい。


地上は馬の脚力で駆け抜け、さらにはその勢いで短い距離を飛ぶこともできる。ヒポグリフの虚を突くか、よほどの至近距離で無い限り、飛び道具を当てることは至難の技だ。


そして、鷲の瞳は獲物を決して見逃さない。

他の鳥類や哺乳類と比べ、視野こそ若干狭いが、視力に関してはあらゆる動物の中で随一だ。

攻撃こそ嘴で突つく、脚で踏むか蹴るかに限られるが、興奮状態の時はそのどれもが逃げる時と同じ勢いで襲い掛かる。


勢いが付いたヒポグリフを止めることこそ、不可能の比喩として使われる。


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