晩ごはん
「ん!美味しい!美味しいよフェルシェイル!」
ナーサの手当てを受け、フェルシェイルの料理を食べたリヨリは、元気を取り戻したようだった。
「当然でしょ!」
フェルシェイルも胸を張る。
細かく刻んだほろ苦い内臓を、ピリ辛の赤い実や野菜と共に炒めた料理は空腹の身体に染み入る。一口食べるごとに力がみなぎるようだった。
「内臓を蘇生させたのには驚いたけどな……」
「さっきも言った通り、内臓は鮮度が一番なのよ。ちょうど心臓も繋がってたしね。それとも内臓も無理だったかしら?」
取り出してしばらく経過した内臓を蘇生させ、締めたての状態にしてから調理したのだ。
しかし吉仲も脳ほどには忌避感を覚えなかった。
新鮮さを取り戻した血の滴る内臓に、美味そうという感想すら抱いたほどだ。
「……まあ、美味そうだったし美味いけど」
「ふふ、吉ちゃん、脳で耐性ができたのかもねぇ」
ナーサもモツ炒めに舌鼓を打ちつつ答えた。
「へえ?じゃ、つまりもう一回戦えば勝てるってことね」
「ええ!?そんなのアリ?」
「今の所、挑戦権を持ってるのはアタシだもの。イサおじには勝っても負けても帰ってこいって言われてるけど、別に戦う回数は指定されてなかったし?」
「え~……店が懸かってなければ、いくらでもやるけどさぁ」
得意げなフェルシェイルに、リヨリが口を尖らせる。
「いやどうかなぁ……内臓は平気だけど、脳みその蘇生はあんまり見たいもんじゃないぞ?」
「大丈夫大丈夫、何度か見てれば慣れるわよ」
「そういう問題じゃない……」
「挑戦権か……。あ。そうだ……ねえフェルシェイル、他の挑戦者候補って知ってる?」
リヨリが何気なく聞く。トーマに教えられないと断られたことはすっかり頭から抜けていたのだ。
得意げだったフェルシェイルの表情が変わる。厄介ごとを思い出したような、面倒くささを内包した難しい顔になった。
「……少なくとも、一人はね。ま、でも多分しばらくは来れないわ」
努めて冷静に言うが、その響きにはなんとも言えない含みがある。
「来れない?来ないじゃなくてぇ?」
ナーサが楽しそうに聞く。
「そうね。方向音痴だし、放っておいたらどこまでも迷うから、まず一人で店まで来られないわね」
「なんでイサさんはそんな奴送ろうと思ったんだ?」
フェルシェイルが仏頂面になる。何か関わっているのは間違いなさそうだ。
「どんな人?」
「……さあね」
はぐらかされ話は終わる、それ以降は何を聞いても答えてくれなかった。




