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おたまの力

足取りの覚束無いリヨリをナーサが支え、吉仲とフェルシェイルが先頭に立つ。


「はぁ……焼き払えないと、アタシって無力なのね。ダンジョンのパーティに入れないワケが分かったわ」


フェルシェイルが自分の手を眺めつつ、大きく溜息をつく。


「そんなことないだろ。今日の獲物もフェルシェイルがいてくれたお陰で無事取れたし、今だって魔物に襲われないのはフェルシェイルの力だしさ」


フェルシェイルは微妙な顔で吉仲を見た。


「気を使ってくれてありがと。でもそれ言ったら戦況を逆転させたのもトカゲにトドメを刺したのも、アンタの力じゃない」


「俺の力かは微妙だけどなぁ、何してるか自分でもよく分かって無いし」


吉仲がおたまを見る。

フェルシェイルはそれを横から取り上げ、無造作に灯りの魔法陣に突き立てた。


「え?おい!?」


しかし、何も起こらない。


魔法陣が描かれた壁に当たり、カツンと甲高い音が響いたのみだ。


フェルシェイルがおたまを吉仲に投げ渡す。


「吉仲以外使えないんなら、それは十分アンタの力よ」

「俺以外使えないって知ってたのか?」

吉仲はおたまを弄びフェルシェイルに尋ねる。


「まあ正直、アタシも使えれば良いなとは思ったけどね。持った瞬間、ただのおたまだって分かったわ。持ち主以外に真の力を見せる気は無いみたいね」


ヒラヒラと動かす手に合わせて、炎が揺らめいた。


「真の力つったって、魔法陣を暴走させるだけじゃあなぁ」


「あらぁ、それはどうかしらぁ」

二人のやりとりを後ろで見ていたナーサが口を挟む。

二人は振り返った。吉仲には、口を利く元気も無さそうなリヨリが目に入った。


「吉ちゃんが、闇雲に使ってるから暴走しているだけかもよぉ」

「……というと?」

「本質的には魔法式の書き換えだものぉ。その理が分かればもっと自由に魔法陣を操れるかも、ってことねぇ」


魔力を持たない吉仲は、本来であれば、一般人でも使える魔法の道具を使うこともできない。


起動すらできない物を無理矢理暴走させるのだ。

並大抵の力では無い。


「ねぇナーサ、アタシはそこまで魔法道具に詳しくないんだけど……そんな魔法道具、ありうる?」


フェルシェイルは表情も口調も呆れ果てていた。ナーサはにこやかに笑う。


「ふふ、外部から魔法式に干渉をするのは不可能ねぇ。一度魔力が流れてた物に手を加えると、必ず壊れて使い物にならなくなる、それは絶対的な摂理よぉ」


使っていないスタンバイ状態の魔法道具にも、魔力の流れはできている。

使用者の微量な魔力のオーラが魔法道具に干渉し、道具は発動するのだ。


その流れを無理に変えようとすると、魔力の流れは行き場を無くし、魔法式そのものを破壊する。

魔法式も魔法道具も、正しく使わなければすぐに壊れることが一種のセキュリティとなっている。


「そうよね。普通、暴走させることすらできないはず、アタシも自分の目で見るまで信じられなかったわ」


ナーサの熱っぽい視線と、フェルシェイルの呆れた視線が吉仲の手に集まる。


「だからこそ、すごいのよぉ」

「これって、そんなとんでもない物だったのか……」


吉仲には相変わらず何の変哲も無いおたまに見えた。

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