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異世界グルメ王 牛丼屋バイトが最強味覚を手に入れて、料理バトルの審判に!  作者: トラウマ未沙
ダンジョン:ジャイアントバット
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蝙蝠解体

リヨリはナイフと作業台を布で手早く拭き、頭と胴体を見下ろす。


「ほら、吉仲。続きやろう」

「あ、ああ。次は?」

「うーん、猪と同じなら首を落として、骨を外して、枝肉を取っていく作業かな」

「首を切るのか……」

「首、というより、これじゃ頭の付け根って感じかな。頭の方押さえてて」


蝙蝠の首は太い。

ほとんど頭と同化していると言っても過言ではない。

その肉も余さずに取るなら、顎の真下、エラに当たる部分に刃を入れて頭を外す必要がある。


吉仲は噛まないよな?と聞きたくなったが、バカにされそうだったのでやめ、大人しく蝙蝠の頭を押さえる。

大きな耳の前から目を覆うように両手で押さえる。

押さえているのは同じ蝙蝠でも、頭は身体より気味の悪い感じがする。


リヨリはそんな吉仲を意に介さず、何度か首にナイフを当てて、少しずつ切れ込みを入れていく。

脂肪の薄さで刃はあまり曇らないが、何度も何度もナイフを入れる必要があった。

筋肉が強いため一気に切り落とすことができないのだ。


「大変だな……」

「イノシシも似たようなモンだよ?ねえカチじぃ」

「はっはっは、リヨリは物心ついた時からヤツキとここに遊びに来てたからのう。普通、動物の解体は大変なモノなんじゃよ?料理より解体の方が上手くなったんじゃないか?」

「ちょっとカチじぃ、そんなことないよ!」


軽口を叩きつつ、切り進めたナイフはやがて頸骨に到達した。

リヨリの指示で吉仲が首を持ち上げると、ぶらんと首の骨だけで繋がっている胴体が垂れ下がる。


頭を持った吉仲には、その揺れる胴体の感触がショッキングだったが、幸いにも蝙蝠の頭の陰となり断面を直視せずに済んだ。

二人掛かりで蝙蝠を裏返し、リヨリが再びナイフを入れる。

頸骨を外し頭を取り、その後慎重に背中にナイフを入れていき、脊椎を取り除く。


作業台の上には蝙蝠の首と、肉や筋がこびりついた脊髄と、そしてそれらが取り除かれた胴体。


「そういえば頭を割らなかったんじゃな。もう脳みそは食えんぞ?」

「え?食うの?蝙蝠の脳みそ?食うの?」

「あ……忘れてた……昨日内臓抜いた時点で気を抜いちゃったんだ……」

「なんじゃもったいない。獲物の命をいただくのに、気を抜くとはまだまだ狩人としての修行が足りんのう……」

「料理人だけど……まあ同じだね……食材無駄にしちゃったし。ごめんね蝙蝠さん……」


カチは割と本気で呆れていて、リヨリは割と本気で気落ちしているようだ。

謝りながら蝙蝠の頭をなでる。


「え?いや?だから、脳みそ食うの?」


そして、吉仲は無視されている。


「獲物に捨てる所など無いぞ。吉仲も美食王を名乗ろうと言うのなら、蝙蝠の脳みそくらい笑って食わんか」

「……え?いや美食王とか名乗った覚え無いんだけど……」

「そうだよね。後で食べさせてあげるね、ごめんね吉仲」

「いや、いいよ?蝙蝠の脳みそ食べなくても大丈夫だよ?」

「そんなに遠慮しなくて良いよ?いっぱい食べて舌を磨かないとね。じゃあ続きをしようか」

「遠慮とかじゃないんだけどなぁ……」


胴体の脊髄があった部分からナイフを入れ、胴体を二つに割る。肋骨を取り除く。骨を抜いた後の肉は、皮を剥いだ後よりかなり縮んだようにも見えた。


作業が進むにつれて、死体だった物が食材に見えていくのが吉仲には不思議に感じられた。

頭と脊髄を視界に入れなければ、すでに店で見る肉とほとんど変わらない。


リヨリはカチが持っていた白布を受け取り、肉と頭、脊髄を包む。


「これでよし、と。やっぱり胴体は結構小さいね。ここら辺が限度かな」

「そうさな、これ以上切っても捨てる所が増えるからのう」

「じゃあ吉仲、蔵に運び込むから、頭と脊髄持ってくれる?」

「くら?」


吉仲は言われるままに、頭を持ち上げた。

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