翼膜の捌き方
「……うん、決まり」
三分も経たない内に、リヨリは再び動き出した。
吉仲に指示を出し、翼の付け根を抑えさせる。
「で、どうするんだ?」
「翼はこのままで、翼ごと皮を剥ぐよ。手足と尻尾は翼膜と一緒に落とす」
「なんで?」
「翼膜だけ切るより、皮や手足ごと取った方が広げて乾かしやすそうだし、構造がそのままだったら自然な張りも残るんじゃないかな?」
「ほっほっほ、正解じゃ。大蝙蝠の翼膜は美味いぞぉ。……ただ強靭な皮じゃからな。調理直前まで手脚を広げてそのままの形を保って置かないと、縮んで使い物にならんとランズ、初代が言っておったわい」
「へー、これが……」
吉仲は蝙蝠に視線を落とす。あまり美味そうには見えなかった
「よし!じゃあ吉仲いくよ!」
「ああ」
内臓を取り出した時の腹の切れ目からさらにナイフを入れ、胸の皮を直線に切り裂く。
首の部分にだけ切り込みを入れ、そのまま皮を剥ぎ始めた。
「脂肪が少なくて皮が剥ぎやすいね」
「そうなのか?飛ぶためかな」
ナイフを肉と皮の間に入れ、少しずつ引っ張りながら削ぐように動かすと肉から皮が剥がれていく。
吉仲も内臓が無い分、昨日よりは見ていられた。
「そうさな、空を飛ぶ生き物は軽くなければならんからのう。全体的に骨が軽く、手足も落としやすい。翼膜がついた手足は細くて食べられる部分もほとんどないしの」
「吉仲そっち持ってて」
手際よく片方の首元まで皮を剥ぎ、慎重に右肩の関節を外し、皮をつけたまま右の翼手を落とす。
吉仲は抑えた翼が自由になるのを感じた。
「ふむ。今思い返してみると、ヤツキは蝙蝠は持ってこなかったのう」
吉仲に指示をして身体を裏返し、翼膜の付け根ごと裏側の皮を剥いでいく。
リヨリの手際は、カチの力を借りる必要がないほどに熟達していた。
「そうなんだよね、なんでだろ」
「……あんまり美味くないんじゃないか、俺の故郷じゃ食わなかったしなぁ」
「そんなことは無いぞ?、ヤツキの持つ道具では捕まえるのが難しかっただけとかなら分かるがの。ワシらは魔女殿から道具を借りたが、ヤツキはダンジョンで手に入れた道具だけを使ってたおったし」
吉仲が身体の半分から毛皮を剥がれた蝙蝠を見る。皮の下の肉は、たしかに普通の肉にも見えた。
「それに、お父さんからは結構ゲテモノも食べてたって話聞いてたし、やっぱり捕まえられなかったのかなぁ。この蝙蝠も、吉仲がよく分からない力で倒したんだよね」
「ほほう?吉仲にそんな力が?」
「ま、まあ、それは良いじゃん。俺も良く分かってないし……それよりゲテモノって、どんなの?」
吉仲は、スライムを食べるような世界でのゲテモノ、というのがものすごく気になった。
「うーん。ゴーレムとか、ウィスプとか食べたって聞いたかな。食べ方は聞かなかったけど」
会話しつつもリヨリは手際よく背中の皮を剥ぎ続ける。剥がれた皮は、蝙蝠の身体の半分を越えていた。
「ほっほっほ、さすが食の革命児だの」
「……それは、そもそも食材として認識できるのか?ゴーレムは石とかだろ?……ウィスプって……なんだろ、火?光?」
「だよねぇ。どうやって料理したか聞いておけば良かったー」
ゴーレムやウィスプを料理して食べるような人間が、大蝙蝠を食べないのは不思議だと、たしかに吉仲は思った。
「カチさんはナーサの師匠みたいな人の道具を借りてたって言ってたけど、どういうの使って蝙蝠獲ってたんだ?」
「魔法の道具はほとんどランズが使ってて、ワシは自分の銃と山刀を使っておったからの、全部は分からんよ。ただ、大蝙蝠は……たしか自動で追尾する魔法の矢で倒していたな」
「へー、便利そう。ナーサさん持ってるかな?」
背中の皮をあらかた剥ぎ終わった後、もう一度裏返し、今度は左胸の皮を剥いでいく、このまま翼膜をまで行けば皮を剥ぎ終わる。
「言えば作ってくれるかもしれんが、ナーサのは高そうじゃのう」
「はは、たしかに」
「むー……」
カチは他の魔法の道具のことも軽くは話してくれたが、ダンジョンの魔物については教えてくれなかった。自分達の力で進んだ方が良いとのことだ。そうしている間に皮は全て剥がれていた、頭と胴体、手足と翼膜と毛皮の二つに分けられる。
東屋の天井に垂らされたフックのついたロープを使い、蝙蝠の毛皮を吊るす。
広げられた翼膜は、傘のようにも見えた。




