夜の時間
ほどなくリヨリがシャワーから戻った。
ラフなシャツ姿におなじみの赤いエプロンを身につけている。
「お待たせー、ありがとうね吉仲……んん?どうしてそんなに顔が赤いの?風邪?」
「え!?いや、そんなこと無いんじゃないかなぁ?」
「変なの……」
リヨリは吉仲への興味を失ったように調理に取り掛かる。吉仲はナーサの隣に座ってリヨリの調理を眺める。
血抜きをした内臓を鍋に入れ、刻んだ香草やスパイス、酒と共に煮込む。
作業自体はすぐに終わった。
「これでよしっと。ナーサさん、できるまでちょっと時間あるからさ、清算とか買い物したいんだけど」
「ふふ、良いわよぉ」
ナーサが鞄を開けると商品が現れる。
「あ、あと吉仲。アク取りできる?お願いしても良い?そんな厳密じゃなくて良いからさ」
「まあ、それくらいなら」
吉仲は鍋の前に立ちおたまを持った、元々店にあった木製の物で、ダンジョンで手に入れたおたまとの違いに違和感を覚える。
リヨリは吉仲と入れ替わりに魔女貨幣を持ちホールへ行く。
ダンジョンで買った縄とダンジョン病の予防薬、そこからナーサの今日の宿泊費を引いた額を清算し、リヨリは買い物を始める。
店中に浮かんだ商品を吟味し、時にナーサに聞いて買う品物を決めていく。眺めている内に鍋は煮立ち、吉仲はアクを掬い始めた。
「リヨちゃん、今お金持ちなんだからぁドーンと買っちゃえば良いんじゃなぁい?」
真剣な表情で商品を見詰めるリヨリに、ナーサは笑いかけた。
「必要な分だけで良いよ、いらない物買ってもしょうがないしね」
「あらあら、しっかり者ねぇ」
リヨリが一つ一つ商品をチェックしている間にも、次から次へとアクが出てくる。内臓はアクが多く出るのだ。
静かな店内に、鍋が煮立つ音のみ響く。吉仲はアク取りに没頭していった。
「……よし、こんなもんかな。ナーサさん、お勘定お願い」
不意に、リヨリの声で静寂が破られた。吉仲が気づくと、アクはほとんど出なくなっていた。
ただ、時間は二十分も経っていない。
ナーサが魔女貨幣のタブレットを受け取り、リヨリが買った商品を近づけていた。ナーサが品物に仕込んだ魔法式を書き換え、その分タブレットの金額が減少していく仕組みだ。
「毎度ありがとうねぇ。あぁ、魔女貨幣は清算が楽で良いわぁ」
「やっぱりそう?私あんまり使ったことなくて……」
「この辺の人は、国境近くの割に現金派が多いからねぇ」
「山で隔てられてるからか、隣国の人ほとんど来ないし交易もしないからねー。……最近だと吉仲が来たくらい?」
「ふふふ、そうねぇ……」
ナーサが含み笑いをして吉仲を見た。吉仲は少し焦る。
「ま、まあね。それよりリヨリ、アク取りこんなもんでどうだ?」
リヨリはナーサから魔女貨幣を受け取り、吉仲の隣に立つ。
「あ、綺麗に取れてる。吉仲やるじゃん」
吉仲の肩を叩き笑った、吉仲の態度は気にならなかったらしい。
ナーサはリヨリが買った品物をカウンターに残し、それ以外を鞄に戻した。
「あとは任せて。あと、買った物で置く場所分かる物があったら、しまっておいて欲しいんだけど良い?」
「ん。ああ、分かった」
吉仲はホッとしつつカウンターに向かう、微笑むナーサに微妙な表情で返事をした。
「あらまぁ、すっかり尻に敷かれてるわねぇ」
「ええ?だからそんなんじゃないってば!ちょっと手伝ってもらっ……あ!入れ過ぎた!」
リヨリが鍋に調味料を入れてる時にナーサの軽口に反論したせいで、調味料を入れる手が滑った。ナーサが苦笑する。
「あらあらぁ、ごめんなさぁい」
「……むー、ナーサさんが変なこと言うからだよ。煮込み料理だしフォロー効くから大丈夫だけどさー……」
リヨリは口を尖らせながら別の調味料で味を整える。
「……吉仲は大丈夫?片付け」
「あー、多分ね。いくつか分からないのもあるけど。居候は労働しないとな」
「分かんないのはそのままで良いよ。お願いね」
吉仲の返事と共に、再び店に静寂が訪れる。物を動かししまう音と、クツクツと煮込まれる音。
時間は緩やかに流れていく。
2020/6/24 誤字報告ありがとうございます、修正しました。




