ジャイアントバット解体
蝙蝠を持ち帰るのは、思った以上に重労働だった。
重さ自体は二十キロ程度だったろうか。
足を持って背中で担げばなんとか持ち運びができるレベルだった。
しかし、片方だけでもリヨリよりも大きな羽根が至る所に引っかかる。
その度にナーサが、翼膜に傷をつけるなと注意する。
一応注意を払ってくれているみたいだが、吉仲はそれどころじゃなかった。
その上、地上に戻った途端重量が増したような感じもした。
散々な思いで村に戻る頃には、空は夕暮れかけていた。
本格的な解体は、明日行うことにして、リヨリが手際良く蝙蝠の内臓を抜きだす。
大腸を傷つけないよう肛門の周囲と腹に切り込みを入れ、引っ張ることで内臓は簡単に引っ張り出せる。
「うわぁ……心臓大きい……」
「そうねぇ、飛ぶために大きくなるって聞いたことはあるけど、これは子供の頭くらいあるわねぇ」
しかし、吉仲が同じことをやれと言われてもできる気がしない。
解体の場を見ているだけでも気分が悪くなり吐きそうだった。
運んでいる最中は自分ばかり不公平とも思ったが、改めて考えると運搬は吉仲で、解体はリヨリ、道具はナーサと役割分担ができていた気もした。
切り出した内臓の口を縛り中身が出ないようにしてから、体から完全に切り離す。
身体は買った縄で近くの沢に沈める。
こうすることで肉が冷やされ、残った体温で肉が焼けることを防げるのだ。
「ねぇナーサさん。蝙蝠の内臓って食べられるかなぁ?危ない病気とか持ってない?」
ナイフを沢で洗い、内臓を見つめてリヨリが尋ねる。吉仲は、ぎくりとした。
「え?病気?」
「そりゃそうでしょ?野生動物だし。ノミとか細菌とか寄生虫とかいるんじゃないの?」
吉仲は、顔から血の気が引く感じがした。
沢にダッシュしゴシゴシと手を洗う。背中が何やら痒くなる感じもした。
不思議そうな顔で見つめるリヨリに尋ねる。
「……それを俺に、そのまま持たせてたの?」
「え?……あ、ごめんね!」
リヨリは、今気づいたらしい。
やっぱり不公平だったと吉仲は不満を露わにする。ナーサは楽しそうに二人のやり取りを見ていた。
「まあまあ、ダンジョンの生物は魔力を糧にするものがほとんどだし、寄生虫も細菌もダンジョンの外で時間を置いて魔力を抜けば大丈夫じゃないかしらぁ?」
「……俺の体は?寄生されない?」
「ふふふ、吉ちゃん、魔力無いでしょう?魔力を持たないのが最高の免疫で、一番の予防よぉ。ダンジョン由来の病気には掛からないと断言できるわぁ。私は対策してるし、この中だとリヨちゃんが一番心配なくらいねぇ」
「え?そうなのナーサさん?」
今度はリヨリの顔が青ざめる。吉仲は不謹慎だと思いつつ、半分はざまあみろとも思う。
「そうねぇ。……この予防薬。これを飲めば安心よ?」
「……いくら?」
「まあまあ、後で道具一式で清算しましょうねぇ。大丈夫よぉ、そんな高い物じゃないわぁ」
リヨリが青い薬を飲み下す。あまり良い味ではなかったのが表情からわかった。
渋い顔のままリヨリは吉仲に地面を掘らせて、大腸と膀胱を切り取り埋める。
大腸は糞の処理をするのが難しく、膀胱は食べられないと、苦い顔で語る。
薬の味のためだと分かっていたが、まるで糞か尿の臭いを嗅いだかのような顔だった。
胆嚢も苦く料理には向かないが、捨てようとした所をナーサが薬にすると欲しがったため渡し、それ以外の内臓を持って帰ることにした。




