表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/116

ママ好き

挿絵(By みてみん)

 ◆


「ハイン、最近ずっと根を詰めっぱなしね。朝も夜も休まず魔術や剣を学んでいるみたいだけれど……」


「母上、それだけではありません。貴族として必要な知識も学んでおります。勿論惰眠を貪ってもいません!」


 俺は得意げにそんな事を言った。


 幼子の頃ならともかくとして、今の俺なら多少眠らないでもどうとでもなる。


 しかし褒めてもらいたいというのに、母上は──


「はあ……」


 そう溜息をつくばかりだ。


「は、母上?」


 俺は慌てた。


 褒めて貰えるとおもったのに……


「あのね、ハイン……いえ、んん……そうね、最近私は親子としての在り方を少し考えなければいけないと思っていたの。私は公爵家の執政代理として、あなたが成人するまでは家を切り回さなければならないけれど、そのためにあなたに構ってあげられない時間も増えてしまったわ。だから──」


 母上が俺を見ながら、微笑みながら言う。


「せめて寝るときくらいは親子らしくどうかしら、っておもって。よかったらハイン、今晩からまた昔みたいに一緒に眠りましょう?」


 この素晴らしい提案に、俺が答えられる言葉なんて決まっていた。


「はい! 嬉しいです、母上!」


 そう言って俺は母上に抱き着いた。


 ・

 ・


「母上、動かないでください」


 俺はくすぐったがる母上の背に慎重に魔字を施していく。


「あらまあ、優しいのねハインは」


「私が優しいのは母上にだけです」


 俺はそう答える。


 これは全くの事実だ。


 母上以外のすべての存在に価値がない。


「そういえばハイン、明日から学園ね。ちゃんとお勉強をするのよ」


「無論です。有象無象の屑どもの囀りにも耐えてみせます」


「こら! もう……お口が悪すぎるわよ」


 母上に叱られてしまった。


「は……。申し訳ありません。さあ、これで私の魔力を浸透させることができました」


 俺は母上の背に掌を当て、魔術を起動した。


 これは膜内の温度を一定に保ち、あらゆる……とまではいかないが、その辺の力自慢が力を込めて剣を振り下ろしても傷一つつかない防御膜だ。


 ここ最近、他家からの刺客が頻繁に差し向けられている。


 理由は前当主ダミアンのせいだ。生物学上の俺の父親だが、魔術に傾倒する余りに色々と外法に手を出して恨まれている。まあとっくに俺が始末してやったのだが、それでもアステール家が弱体化したと勘違いした馬鹿どもが一定数いるわけだ。


 本来ならばこんな子供騙しではなく、戦術級の儀式祈祷にも耐えうる防壁を張り巡らせたかったが、母上は派手な魔術はお嫌いらしい。


 俺は護らせてくれと泣いて懇願したが、結局受け入れてもらえず──最終的にはこの防御膜だけで折れる事となった。


「あら素敵」


 母上が笑顔を浮かべる。


 するとどうだ、俺の胸の内に灼熱に燃ゆる何かが生まれるではないか! 


 俺は断言できる。


 これこそが愛だと。


 決してこの笑顔を曇らせてはならない。


 そのためなら俺は、愚鈍でクソのような劣等共を友とすら呼べるだろう。


 ◆◆◆


 セレンディア大陸中央部に、ガイネス帝国という大国がある。


 そしてガイネス帝国には十二公家とよばれる公爵家が存在しており、そのうちの一つにアステール公爵家という大家がある。


 アステールの血を引く者は魔術に優れる事甚だしく、特にハイン・セラ・アステールはアステール史上もっとも強大な魔力を誇る麒麟児であった。


 しかし()()()()()ではその力に驕り、ガイネス帝国──ひいては世界を掌握せんとし、最終的には復活した魔王に肉体を乗っ取られ、最終的には勇者によって討たれるという悲惨な最期を遂げることになる。


 だが、本来の歴史というモノがあらゆる時空に存在するただ一つの歴史なのだろうか? 


 平行世界というものある。


 ある世界から分岐し、それに並行して存在する別の世界を指す言葉だが、()()()()もまたそのうちの一つだった。


 そして、この世界のハインもやはり()()()()()のハインとは異なっている部分がある。


 それは──極度のマザコンだということだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最近書いたやつ。

幼い頃、家に居場所を感じられなかった「僕」は、再婚相手のサダフミおじさんに厳しく当たられながらも、村はずれのお山で出会った不思議な「お姉さん」と時間を共に過ごしていた。背が高く、赤い瞳を持つ彼女は何も語らず「ぽぽぽ」という言葉しか発しないが、「僕」にとっては唯一の心の拠り所だった。しかし村の神主によって「僕が魅入られ始めている」と言われ、「僕」は故郷を離れることになる。
あれから10年。
都会で暮らす高校生となった「僕」は、いまだ“お姉さん”との思い出を捨てきれずにいた。そんなある夕暮れ、突如あたりが異常に暗く染まり、“異常領域”という怪現象に巻き込まれてしまう。鳥の羽を持ち、半ば白骨化した赤ん坊を抱えた女の怪物に襲われ、絶体絶命の危機に陥ったとき。
──目の前に現れたのは“お姉さん”だった。
「お姉さんと僕」

有能だが女遊びが大好きな王太子ユージンは、王位なんて面倒なものから逃れたかった。
そこで彼は完璧な計画を立てる――弟アリウスと婚約者エリナを結びつけ、自分は王位継承権のない辺境公爵となって、欲深い愛人カザリアと自由気ままに暮らすのだ。
「屑王太子殿下の優雅なる廃嫡」

定年退職した夫と穏やかに暮らす元教師の茜のもとへ、高校生の孫・翔太が頻繁に訪れるようになる。母親との関係に悩む翔太にとって祖母の家は唯一の避難所だったが、やがてその想いは禁断の恋愛感情へと変化していく。年齢差も血縁も超えた異常な執着に戸惑いながらも、必要とされる喜びから完全に拒絶できない茜。家族を巻き込んだ狂気の愛は、二人の人生を静かに蝕んでいく。
※ カクヨム、ネオページ、ハーメルンなどにも転載
「徒花、手折られ」

秩序と聞いて何を連想するか──それは整然とした行列である。
あらゆる列は乱される事なく整然としていなければならない。
秩序の国、日本では列を乱すもの、横入りするものは速やかに殺される運命にある。
そんな日本で生きる、一人のサラリーマンのなんてことない日常のワンシーン。
「秩序ある世界」

妻の不倫を知った僕は、なぜか何も感じなかった。
愛しているはずなのに。
不倫を告白した妻に対し、怒りも悲しみも湧かない「僕」。
しかし妻への愛は本物で、その矛盾が妻を苦しめる。
僕は妻のために「普通の愛」を持とうと、自分の心に嫉妬や怒りが生まれるのを待ちながら観察を続ける。
「愛の存在証明」

相沢陽菜は幼馴染の恋人・翔太と幸せな大学生活を送っていた。しかし──。
故人の人格を再現することは果たして遺族の慰めとなりうるのか。AI時代の倫理観を問う。
「あなたはそこにいる」

ひきこもりの「僕」の変わらぬ日々。
そんなある日、親が死んだ。
「ともしび」

剣を愛し、剣に生き、剣に死んだ男
「愛・剣・死」

パワハラ夫に苦しむ主婦・伊藤彩は、テレビで見た「王様の耳はロバの耳」にヒントを得て、寝室に置かれた黒い壺に向かって夫への恨み言を吐き出すようになる。
最初は小さな呟きだったが、次第にエスカレートしていく。
「壺の女」

「一番幸せな時に一緒に死んでくれるなら、付き合ってあげる」――大学の図書館で告白した僕に、美咲が突きつけた条件。
平凡な大学生の僕は、なぜかその約束を受け入れてしまう。
献身的で優しい彼女との日々は幸せそのものだったが、幸福を感じるたびに「今が一番なのか」という思いが拭えない。そして──
「青、赤らむ」

妻と娘から蔑まれ、会社でも無能扱いされる46歳の営業マン・佐々木和夫が、AIアプリ「U KNOW」の女性人格ユノと恋に落ちる。
孤独な和夫にとって、ユノだけが理解者だった。
「YOU KNOW」

魔術の申し子エルンストと呪術の天才セシリアは、政略結婚の相手同士。
しかし二人は「愛を科学的に証明する」という前代未聞の実験を開始する。
手を繋ぐ時間を測定し、心拍数の上昇をデータ化し、親密度を数値で管理する奇妙なカップル。
一方、彼らの周囲では「愛される祝福」を持つ令嬢アンナが巻き起こす恋愛騒動が王都を揺るがしていた。
理論と感情の狭間で、二人の天才魔術師が辿り着く「愛」の答えとは――
「愛の実証的研究 ~侯爵令息と伯爵令嬢の非科学的な結論~」

「その追放、本当に正しいですか?」誤った追放、見過ごされた才能、こじれた人間関係にギルドの「編成相談窓口」の受付嬢エリーナが挑む。
果たしてエリーナは悩める冒険者たちにどんな道を示すのか?
人事コンサル・ハイファンヒューマンドラマ。
「その追放、本当に正しいですか?」

阿呆令息、ダメ令嬢。
でも取り巻きは。
「令息の取り巻きがマトモだったら」

「君を愛していない」──よくあるこのセリフを投げかけられたかわいそうな令嬢。ただ、話をよく聞いてみると全然セーフだった。
話はよく聞きましょう。
スタンダード・異世界恋愛。
「お手を拝借」

パワハラ上司の執拗な叱責に心を病む営業マンの青年。
ある夜、彼は無数の電柱に個人の名が刻まれたおかしな場所へと迷い込み、そこで自身の名が記された電柱を発見してしまう。一方、青年を追い詰めた上司もまた──
都市伝説風もやもやホラー。
「墓標」

愛を知らなかった公爵令嬢が、人生の最後に掴んだ温もりとは。
「雪解け、花が咲く」

「このマンション、何かおかしい」──とある物件の真相を探ろうとする事故物件サイトの運営者。しかし彼はすぐに物件の背後に潜む底知れぬ悪意に気づく。
「蟲毒のハコ」

― 新着の感想 ―
おお、アステール!こちらもめっちゃ楽しみに応援させていただきます!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ