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第1撃 「始まりの雨」 ーConversation d'homme et chat


雨が街を包みこみ、路地裏のこの鬱蒼とした空気を余計に濁す。空を遮られたここでは、雨が体に掛かる心配はいらない。

黒い衣を纏った猫の金色の眼は、人間を前にして臆する事なく悠然と俺を見据えている。手を出してやると、身を預けて俺に甘えてきた。


殴られた頬が雨の中の雫に疼く。小針に刺されたような痛みが、絶えず体を巡っている。

どんなに回数を重ねて慣れたとしても、殴られれば、やっぱり痛い。何とも言えない屈辱感と倦怠感が、俺の神経を逆撫でる。

こんな時こそ、煙草を吸いたい気分なんだが、昨日のうちに切らしていたところだ。今さっきまでに買っていない、結局は1本も煙草はない。

ポケットには、オイルライターだけがある。ソレが滑稽で、思わず冷たい笑みが零れた。


人間は嘘をつくが、猫は正直だ。自分で自分の道を拓き、孤独に生きて死んでいく。

何故か俺は、そんな猫達に懐かれる体質らしい。特に言えば、黒猫にはよく懐かれる。俺は俺で、猫と一緒なら何も苦にならない。喉を鳴らしてが、座り込んでいた俺の膝に登ってきた。居心地を確かめるように動き、やがて良いポジションを見つけたのか丸くなって座った。

コイツは、俺の家の近所をテリトリーにする野良猫だ。

名前は知らないし、名付けようとも思わない。

名前を付ければ、コイツは孤独じゃなくなってしまう。コイツがソレを望むなら、名付けない事もない。だが、俺の見た限りその気はなさそうだ。


自分の時間を持って、遊びたい時に遊ぶ。傲慢とも言えるが、ソレで構わない。ソレでこそが、猫の醍醐味と言えるだろう。俺の利己的な考えだけで、コイツの自由を奪う権利はない。俺は猫が好きでコイツも俺と一緒で楽しいのなら、ソレだけでいい。利害関係が一致している。

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