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20話

 軽い水入りのあと、僕は木剣を突き出し構えるデリッカと対峙する。


「アンジェ先生との剣闘(デュエル)……、この合宿で最終試練なんですよね」


「そうだな。色々あったが楽しかったか?」


「えぇ、終わりよければ何事もすべてよしですわ。先生は?」


「お前らのパワーに振り回されっぱなしでとことん疲れたよ。今度からはもっと短い期間でやりたいな」



 僕らは木剣を構えながら笑い合う。



「二人共準備いい?」


 主審ルーチェが僕らの顔を見やる。僕もデリッカも了承の意味を込めて右手を上げてと返事とすると、主審の剣闘(デュエル)への合図が入る。


 開始の合図と共に打ち込みながら飛び込んできたデリッカは、間合いをグイグイと寄せて鍔迫り合いに持ち込む。

 デリッカは『引き打ち』が得意で、相手に肉薄して鍔迫り合いに持ち込みバックステップを踏んだときに打ち込んでくるのだ。他にも体格に劣る相手を突き飛ばして倒伏させるなど荒っぽい行為も見せるが、引き打ちを狙って間合いを詰めたのだろう、僕はそう思ってた。


「アンジェ先生……、キスの報奨はまだ、有効ですか?」


 鍔迫り合いの最中にデリッカが僕に話しかけてきたのだ。一瞬の出来事で僕の足が止まり、デリッカの顔をまじまじと見てしまう。その隙を狙っていたのだろうか、デリッカは引き打ちで防面を鋭く狙う。たまたま木剣に遮られて不発に終わったがこんな嫌らしい技を使うとはなかなかの策士だと思った。

 何度も僕の懐へ飛び込んでは鍔迫り合いに持ち込み、意識を逸らそうと呟き、引き打ちをを繰り返す。言わばワンパターンだ。何度目かの鍔迫り合いで、僕は敢えてデリッカには引き打ちをさせないよう打ち込み、再び鍔迫り合いに持ち込むようにした。つまりデリッカの作戦を封じたのだ。


「アンジェ先生、またお茶……」


 囁いてきたデリッカを見計らって僕が敢えて引き籠手を放った。



「籠手あり、一本! そこまで」



 主審ルーチェの宣言でデリッカは崩れ落ちた。


「もう一回! もう一回駄目ですか?」


 と四つん這いになりルーチェを睨みながらデリッカが言う。


「だめー。てか、デリッカちゃん鍔迫り合いからの引き打ちばかりじゃん。デリッカちゃんは攻撃の手数を増やすって課題はどうしたの? 使えそうな勝ち筋ばかり伸ばしても対策されたらどうしようもないのも、剣闘術よ。学校に戻ってからは苦手な打突対策や籠手対策、秋の公式戦までに攻撃手数を増やすことを考えようね」


と、ルーチェが応える。



「囁くのはいい考えだとは思ったけどなぁ。あのときは思わず打たれたかと思ったもん」


 僕がそう言うとルーチェはにやりと笑って


「どんな愛の言葉を囁かれたの?」


とからかって来た。放っておけと応えておいた。




「最後にジョルジェちゃんとアンジェリカ、準備いい?」


 主審ルーチェからの声掛けに僕らは手を挙げて応える。


「この最後の稽古は、みんなちゃんと刮目しておいて?」


 そうルーチェが皆に言うと、試合開始を宣言する。



 剣先をカチカチと合わせて互いに間合いを取る。ジョルジェはちょこちょことこちらに近づきつつ間合いを取ってるので、僕は少しずつ後ろに下がっていた。

 ジョルジェの剣先は基本通りで防面にも籠手にも打ち込みづらい。ただ打突対策をしていないのか左手を押し出せば先程のミノン同様きっと決まるだろう。僕は剣先をある程度払い、打突に向けて木剣を握る左手を突き出す。

 ジョルジェは打突が来るのを読んでいたのだろう、僕の木剣を巻き込むよう自身の木剣を動かして籠手に打ち込んできたのだ。

 慌てて僕は後ろに飛んでジョルジェから離れるが、それも読んでるのだろう飛び込み打ちを重ねてきたのだ。

 鍔迫り合いに持ち込まれ、ぐいぐいと押されるときに主審から『止め』の指示が入る。



「アンジェリカ、場外。そこまで!」



 え? 足元を見ると僕の左足が線を踏んでおり、反則負けの宣言だった。


「みんな、今のジョルジェちゃんの籠手狙い、あれが正しい『木剣落とし』って技ね。よく木剣を叩き落としたりもぎ取ったりする技と勘違いされてるけど、本当は打突に対しての籠手狙いなのよ。ちょっと身長差があるからジョルジェちゃんには不利に働いたけど、有効な技だから覚えておいてね。どうも三回生たちも終わったっぽいから、皆でお風呂入って、ご飯食べて最後の夜を楽しもう」


とルーチェが言うと、隣の闘技場(コート)ではラバトが三回生たちを徹底的に叩きのめしていた。あとあとラフェルから聞いた所によると、三人がかりでかかってこいと言い、ラバトが一人で応戦していたらしい。相変わらず血の気の多いエルフだ。なお、三回生はラバトから一本も取ることが出来ず、強引に打ち込まれ、一本取られ続けたそうだ。


「キュリル先生よりやばい人ですよ、ラバトさんって」


と、ラフェルが言ってたが、面白かったとも続けている。それなら良かったと僕は総評しておいた。



 しばらく使っていた道場を皆で掃除をし、皆で公共温泉でひとっ風呂浴び、皆でワイワイと食事をしてその日は皆早めに寝た。今夜は不思議と皆は馬鹿騒ぎすることは無い。ラバトも自室で少しだけ飲んで寝たらしい、いつも深夜まで人の部屋で管を巻いてたのでゆっくり寝られた。



 帰りでの馬車は、行きと同じメンバーとなった。

 騒動屋のルーチェやジェイリー、三回生たちは客車に乗り、きっとワイワイ騒いでカードゲームなどに高じてるのだろう。逆に僕やラバト、ジョルジェ、ミノン、デリッカは貨車で静かにいた。


 トコトコと馬車が揺れる。

 しばらく僕はラバトと合宿について話し合っていた。この合宿を通じて伸びた子、伸びしろが出来た子、弱点が見えた子、戦い方が見えてきた子、などとラバトから見えた彼女たち、僕から見た彼女たちの意見を擦り合わせていた。


「この合宿で一番成長したのって、ミノンじゃないか?」


 ラバトは酒瓶を傾けながら言う。「あの子さぁ、また身体が大きくなってない?」


「あぁ……、また大きくなったよな」



 ミノンはこの合宿では本当によく食べていた。ここまで気持ちよくもりもり食べる女の子は僕は嫌いじゃないし、ラバトもルーチェも目を見張っていた。ケーキバイキングでも直前にバーベキューを楽しんでたのに、どこにケーキが収まっているんだとも皆で話したぐらいだ。あとミノンとジョルジェは早起きで、よくジョルジェと二人町中をランニングをしていたのだ。そのときパン屋で大きなパンを買い、二人で食べてランニングして戻ってきて、朝ごはんを食べていたのだ。とにかくひたすら食べ、ひたすら頑張っていたのだ。


「早朝のパン買い食いランニングって自由な子だなほんと」


「あぁ。あまりにも良い食いっぷりだから、パン屋の奥さんがミノン君用パンを焼いてもらってたからな。しかもミノン君の事を好青年と思っていたらしいぞ」


「まぁぱっと見、中性的な顔つきだもんね、胸もぺったんこだし」


「そこらへんは何も言えんが……、あれだけ食べて寝て動いてたら、身体も大きくなるよな」



 そのミノンは貨車に寝転がり高いびきをかいていた。



「あたしも寝るわ。なんかあったら起こしてくれ」


「僕ももう少ししたら寝るよ」


 しばらく論文集を読んでたが、暑くもない日だったので僕も微睡みに沈むことになった。




     ★     ★




 私が目を覚ました時、貨車内はみな寝息を立ててました。私の横に居たアンジェ先生も、その向かいのラバト先生も、寝てました。ミノンちゃんは裾から出たおへそあたりをぽりぽり掻きながらいびきを掻いてます。


 そういえば、アンジェ先生から一本取ったらキスしてくれるんですよね?

 でもさすがにお願いしますだなんて()()()()()事は言えません。

 誰も見てませんので、アンジェ先生、失礼しますね。


 では、おやすみなさい。



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