02話
「あら、ルーちゃん! もうそろそろ店を閉めようかなぁと思ってたのにどうしたのかしらー?」
「あらごめんねママ、ちょっと相談したい事があってさ」
「わかったわ、ちょっと待っててくれるかしら? あ、お靴を脱いで、座って待ってて?」
私達がやってきて事情を察したママはそそくさと店のカーテンを引き、表にも『支度中』の看板を掲げる。そして裏からお茶と簡単なお菓子を出してくるとテーブルに並べたのだ。
「あら、かわいいお嬢ちゃん。この子が今日のお客さんかしら?」
「そう、実はね……」
ラフェルちゃんを連れて行ったのは、私がよく行く仕立て屋です。このシュトレーメに駆けて来た私には衣服など最低限しか持ってこなかったので、なるべく近くで腕の良い仕立て屋を探してました。
それで見つけた仕立て屋ですがしかし、色んな人からは「腕が良いけどママが濃い人だからねぇ」となんだか奥歯に何かが詰まったかのような評判だったので、興味本位に伺いました。そしたら店主がかなり立派な体格のオネエだったのです。
フリルやレースをふんだんに奢った鮮やかな夏ドレスを着ており、縫製の良さや生地の厚み薄さをよく考えたバランスの良いデザイン、本当に芸の細かさが伺えるドレスでした。
「あらお嬢ちゃん、この夏ドレス気に入ったかしら?」
「えぇ、なかなか気合いが入ってるわね」
「お目が高いわね! ちなみに───よ?」
店主が呈示した金額は一品物として仕立てたにしてもかなり手頃な価格でした。
「でしょ? まぁ値段については企業秘密だけど、けっこう勉強してるつもりよ? お嬢ちゃんの体格なら在庫も有るし」
「買うわ店主! あと数着程見繕ってくれるかしら?」
「うふふ毎度! 気に入ってくれたら今度からママと呼んでね」
───と、乙女学長ジャニスによく似た店主は腰をふりふりして私に行ってました。なお、親戚とかでもなくただのオネエでした。しかし、妻子が居るのを知らされた時は度肝が抜けましたが……。
「じゃあ、このラフェルちゃんってお嬢の衣装を作ればいいのぉ?」
「そうなのよ、───出来る?」
「もちろんよ! じゃあ採寸するわね? ちょっと立ってくれるかしら、ラフェルちゃん」
「あ、はい」
今までポリポリお菓子を摘んでたラフェルを真っ直ぐ立たせて背筋などを伸ばしたり肩首を確認すると、「うん、終わったわ」と言います。そう、ママの凄いところは巻尺などを使わなくても採寸するところなんです。
「ラフェルちゃん、身長は百六十二で間違いない? 体重は───で、上から××、××、××でしょ」
「あの、そんなに大きくは……」
「でしょ? 急に大きくなると姿勢が悪くなるもんね、少し猫背になってたし、お靴の減り具合見ると重心が傾いてるもの。大丈夫、ママに任せて?」
そう言いながらママはクロッキー帳を広げて木炭ペンを走らせる。真っ白な紙面に浮かび上がるのは幾通りものシルヴィ像でした。
「こんな感じで胸元をふんわりさせて、腰にこんな紐で腰回りを強調させて……こんなのどぉ?」
「ママ、素敵じゃない!」
「で、ナゥルィズまでに間に合わせれば良いのね?」
「えぇ!」
☆ ★ ☆
ことの発端はこんな相談だったそうだ。
『シルヴィ役の衣装、駄目にしてしまいました』
顔役の一人に言われシルヴィ役を言い付けられたラフェルだったが、衣装合わせの時より暗雲が立ち込めていたという。
今まで三番街でシルヴィ役を仰せ付かったのは小柄な乙女達だったのだが、ラフェルは比較的背が高いのだ。しかも胸も随分と大きめのため、衣装を渡された時はこれは無理だと悟ったという。しかし、
「衣装はこれしか無いから、時間も予算も無いから造ることも出来ないから」
と言われ、しかも彼ら顔役に逆らう事も出来なかったラフェルはなんとか袖を通したと言う。
しかし予想通り胸は溢れ太ももは露わになり余りにも扇情的な様だったとラフェルが言う。こんな姿を衆目に晒すなんて破廉恥だと思った彼女は慌てて胸や足を衣装に押し込んだところ、思い切り裂けてしまったのだという。
僕らに相談したときは気乗りしないとは言ったがその言葉の裏は、余りにも大変な事をやらかしてしまいどうすればいいのかと相談したかったのだ。言葉の裏を察したルーチェはラフェルの為に一肌脱いだと言う。
「んで、衣装代どうしたんだ?」
「シルヴィ役の体格とか考えずに勝手に指名しといて勝手な言い分並べてケチろうとするな、って顔役らに対して腹に一物持ってる大店商家と一緒に抗議したわよ。でも言った言わないの平行線だったからね、『シルヴィの衣装は以下の商家さんたちの提供です』って花馬車に書かせたのよ!」
「ど、通りでそんな看板が付いてたのな」
「裂けた衣装はこちらの責任だから直して返したけど、あのラフェルちゃんの衣装が話題になってママの店がウハウハなんですって!」
「そ、そか……んにしても顔役達の顔、潰してないか?」
「そろそろ世代交代なんじゃない? 脳味噌が硬直化したジジイはいい加減後進のために勇退すべきだったのよ」
そう言ってワインを呷るルーチェは一つ伸びをしてそろそろ寝るよと言う。
まぁこう言ってたがきっと衣装代はルーチェが出したのだろう、まさに一肌脱いだのだ。
「姉御肌、だもんな」
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