帝女隊物語 〜その4〜
「お姫様」と聞いて何を連想するでしょうか?
綺麗なドレスにきらきらアクセサリー、美味しい食事に舞踏会! 女の子の憧れを全てぎゅっと押し込んだその世界の内情は、息苦しいんですのよ。
まずドレス。体型が綺麗に見せるようコルセットでお腹を締め上げるんですよ? 油断すると色んなものが上から下から飛び出しそうになるなんて序の口、実際に出てくるんですよ? え、何が? ――何言わそうとしてるんですか? へんたいですか?
それにあのドレス、超絶重いんです。だってよく考えて下さいませ、あんな落下傘型のフープスカートをパニエ履いただけで作れると思います? 動物の骨や竹材で作るんですよ?
ですから、昔話で舞踏会に紛れた謎のレディが正子の鐘を聴いて走って王子様から逃げる、そんな話が有りましたけどそれならすぐ捕まえられると思いますわ。よほど王子様がおデブちゃんで二、三歩も走ったら息切れるならともかく――。
アクセサリーだって沢山頂けますわ。でも頂いた方の顔や名前にどういうシチュエーションで貰ったかを覚えないといけないのですわ。しかも自分の趣味に合うものなんて殆どないし。こうなったら全員に同じのを強請っちゃえばいいって侍女が言いますがそんな恥知らずな事はできませんわ。
食事が豪華とか舞踏会がとか言いますが何か粗相があれば陰口の対象です、そのため必ず『マナー』というチェックに耐える日々なんです。市中で流行ってる『スイーツ食べ歩き』なんて絶対出来ないんですよ? 耐えられる方、いくらでも替わりますから手を挙げて下さい!
その「お姫様」の生活がもう飽き飽きの私に一つの夢が出来たのです、それは月に二度王宮へ来てくれる理髪師。
「ねぇあなたにお願いがあります」
「はっ、ルーナ殿下」
「面を挙げて下さい」
この女性理髪師は帝都で若い腕利きの髪切りと聞いており、私が声を掛けると跪きました。それでは話にならないので、面を上げさせると私は問います。
「ねぇ、私の師匠になってくださいません?」
「はっ、――はぁ?」
「私もあなたのような理髪師になりたいのです、ですから弟子にして頂けませんか?」
「―――お言葉を返すようですが、仰ってもよろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょうか」
「理髪師なんて下賤の仕事です、高貴なる方々がなるべき仕事ではございません!」
「でもあなたは私の髪を……」
「では、私が普段どうやって切ってるかを御覧くださいませ」
そう言って私の次だった妹・リーナの散髪姿を見せて貰ったのですが、その理髪師は目隠しをしているのでした。長く綺麗な髪を気に入ってるリーナは少し伸びた前髪と毛先を軽く払って貰っただけでしたが。
「ねぇあなた、なぜ目隠しなんか――」
「高貴なる方々を直視してはいけませんので。――これで下賤な仕事だと解って頂けたでしょうか」
「理解できませんわ! 職に貴賤なんか、労働基準令に反しますわ!」
「――法で心は縛れません」
「貴様、今まで黙って聞いてりゃ殿下になんて失礼な言い草を!」
そう言うと武装女官はレイピアを抜き理髪師を摘み出しました。そして侍女達は
「下賤なものが殿下に反論」「下賤のくせに図に乗ってる」「下賤の分際で」
と口喧しく批難するので私は彼女らを一睨みし出て行けと告げました。
その日の夜、私はパパに謁見の間へ呼び付けられました。私の与力であり乳母姉妹のアスパルテムも同時に呼び出されており二人で底冷えする中待ってました。
「ねぇアスパル、やっぱ昼の件だよね」
「殿下、判りかねます」
「そぉ。――アスパルは私の言ったこと、間違ってると思う?」
「……殿下の仰ってた事は正しいですが、理髪師の言葉は合ってます」
「じゃあ良いじゃない!」
「殿下、正しいと合ってるは一緒ではありません」
「そんなのわかんないわよ!」
私がアスパルテムに怒鳴りつけるとパパとママ、そして宰相トールが謁見の間に入り、パパは静かに玉座に座すると楽にしろと言いました。
「ルーナ、何故呼び出されたか解ってるのか」
「わかりません! もし昼間の理髪師の件なら、私は間違ってませんわ! むしろあの武装女官は理髪師にレイピアを抜く無礼を働きました、罰を与えるべきです!」
私は立ち上がり、叫んでパパに詰め寄ります。しかしパパは私を睥睨すると懐から一片の紙を取り出しました。
「その理髪師からお暇の請求が来た、ルーナに無礼を働いたのでもう登城できない旨が書かれている。――城下の理髪師組合からも脱退し廃業するそうだ」
「そ、そんな! 私はただ、理髪師になりたいって言っただけです。あの理髪師は何も悪くありませんわ!」
何で? 何でなの? 私は堪える涙のせいで鼻の奥がつんと痛む。私はただ弟子になりたいって言っただけであの理髪師が廃業するのよ! むしろ丸腰相手にレイピア抜いたあの武装女官を王宮警備法違反で解雇すべきだわ!
「あのねルーナ、あなたは洗剤とかで手がかぶれるでしょ? 理髪師は手が荒れやすい人には向かない仕事って聞くわ。――理髪師ごっこ遊びじゃ駄目かしら?」
「あのねぇママ……、私、もう十二よ? そんなお遊びでお茶を濁せると思ってるの?」
ママからの代替案なんか噴飯物、リーナぐらいの年齢ならそれで誤魔化せるでしょうが。――この手のママの提案は大概が的外れなので最近耳にしていないですわ、これも反抗期ってやつでしょうか。
「陛下、それなら私めに提案があります、――ルーナ殿下はもうそろそろパドゥルパ学院に入学で、そこの放課選択では『美容会』というのが昔からあります。そこにあの理髪師を呼んで指導させるのは如何でしょう?」
宰相トールの提案は私やパパたちが思う一番の落とし所だと思いました、私は我慢していた涙がぽろぽろと溢れ出します。そしてパパもうむと言って頷いたのです。さすが、幕閣から『とんちのトールさん』と陰で言われるだけはありますね。……ただ、それ褒めてませんよね?
「美容会は陛下のお母様が立ち上げた『美への追求研究会』ですから理髪を混ぜても問題ないでしょう」
「では、今日の理髪師には朕自ら書状を認める故、すぐに使者の準備を!」
★ ☆ ★
パドゥルパ学院に入学した私は、さっそくアスパルテムと二人で美容会に入りました。そこで私はあの理髪師・メィと再会します。
最初は髪の正しい洗い方や梳き方でした。直ぐに髪の切り方を教えてもらえると思ってましたが、まずは手に伝わる髪質を覚え、これが乾くとどのように撥ねたりするか。法力毛髪乾燥機での乾かし方やセットのやり方を勉強しました。
しかし……やはり私の手が荒れました。最初は指先の皮膚が裂けましたが、その手荒れが指全体に手のひらと徐々に広がっていったのです。これが誰かにバレれば大変です、ほれ見たことかとパパや周りが言うでしょう!
校医に極秘に頼んで治療をお願いしたのです、しかし校医が言います。
「手袋して施術されるか、諦めるかです。薬を塗っても治療は時間が掛かりますわ」
メィにも相談しました、しかしメィは悲しい現実を言いました。
「理髪師が廃業する理由の一つに手荒れや手のしびれといった商売道具である手が原因ってのもあるんです」
「じゃ、じゃあ私はどうすれば……?」
「しばらく洗髪やセットの練習をお休み下さいませ。――不本意でしょうが見学して勉強をお願いします」
と、私は皆が楽しそうにパーマネント液や染髪液を使った練習を横で見てメモするだけの日々でしたわ。悔しかったですがバレたら美容会を辞めさせられると思ってた私はイライラから爪噛みを再発させてました。
しかしただ見学してるだけはお辛いでしょうと言うので、メィは持ち込んだ模型を使ってブロッキングを教えてくれました。専用櫛やヘアクリップで髪を留め、そこを基準に巻いたりカットしたりするそうです。
美容会は楽しいんです、楽しいのですが気になるのは荒れた手でした。
「ねぇルーナ姉様……、最近おてて、けがしてる?」
「んー、大したことないから気にしないで?」
妹のリーナが私の手をじっと見つめた為にあっさりバレました。しかし彼女を言いくるめて口止めさせようにも「なんで? お医者さん呼ぶ?」と、妹の優しさが繰り返された為に侍女にもバレたのです。
「殿下は昔から敏感肌でしたからね。心配してた事が覿面ですわ」
侍女長のアリシア・フリードが、敏感肌の侍女御用達の軟膏をそっと塗ってくれました。すごく滲みますがひんやりと気持ちいい軟膏でした。
「これは陛下や皇后にお知らせしなければなりません」
「駄目! そんなことしたら辞めさせられますわ」
「ですが殿下の手がこのようになっていたら報告しなければ――」
「駄目よ! お願いだから」
結局パパママの耳に入ったのでした。
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