愛しき世界への帰還
なんちゃって異世界転移物。毎度ながら生暖かい目で何卒お願い申し上げます。
帰りたい。あの場所へ。帰れないのなら死んでしまいたい。だけど、日々の生活。迫る現実に帰れないと知る。あれから七年だ。
私はもう二十五歳になる。疲れた。駄目だと無理だと諦めながらもまた祈る。帰りたいと強く強く。すると何とあの時のように体が光り出したのだ。気を失い目を覚まし周りの景色を見て息を飲んだ。気付けば帰っていたのだ。あの愛しい世界に!
目の前にはあれから見た目は多少変わっているが、懐かしいメンバーが居た。慌てて皆を揺り起こす。帰って来たんだ。と、誰かが泣きながら言う。それにつられて泣きながら皆で抱きしめ合った。
私達は帰って来たんだ。辛く生きづらい元の世界から、愛する。この異世界に!
私達はこの世界を救うために異世界から召還されて見事成し遂げだメンバー。元伝説の勇者一行だ。元の世界に馴染めなかった私達は帰りたくないと召喚した国の大臣に懇願したが用無しと無残にも返された。
そう、帰りたかったのは世界はあの残酷な世界では無い。この異世界だ。
「久しぶりね。それにしてもここ、荒れすぎだわ。管理を頼んだのに何故かしら?」
そう静が呟いた。ここでメンバーを紹介しよう。
キツく縛った髪に少し鋭い瞳に眼鏡。シワ一つないスーツ姿のクルーな美人。契約の魔術師。静。
「う、うん!静ちゃん。お家。見に行こう?」
気弱そうな見た目に似合わない豪華なスーツ。ホストみたいな姿に容姿だか、数年前は女の子みたいに可愛かった。身体を操り癒す魔法使い。新太。
「お前の畑も荒れ放題だな。英子!……畑も可哀想だ。森の獣も泣いている。何があったんだ。待ってろ!取り合えず畑のデカイ岩や木をどけてやるよ」
数年前よりの筋肉質になり、厳つい見た目でタトゥーだらけだが優しい力持ち。動物との会話も出来てしまう。純真な心の持ち主。その凄まじい力と自由に操れる拳で戦う驚異の怪力男。猛。
「酷い!畑も木もボロボロ。家畜達もいない!」
……これと言った特徴は無いが猛獣使いと言われた。この濃いメンバーを纏めていたせいか、勇者と呼ばれた。自然に愛され緑を操る。わたし、英子。
とりあえず、元私達の家には静と新太。家の周りを私と猛が見に行く事にした。森に囲まれているこの家。草も生え放題。木も伸び放題で監理されていない。この世界を救ったお礼にと帰るまで永遠に管理すると近隣の村の人々が約束してくれたのに所詮は子供だと守られなかったみたいだ。
「おい。誰か助けてくれって叫び声がする。あの声は……ドラウルフだ。ドラだ!」
森の入り口から、どこか悲し気な鳴き声がする。耳をすますと特徴のある聞き覚えのある声。嫌な予感に二人で頷き。そこへ向かう。その声を辿れば鎖に繋がれ魔力を封じる首輪を嵌められたかつての仲間がいた。
「ドラゴ!何て酷い!」
「ドラ!?待ってろ!それぶち壊してやる!」
大きな体に大きな耳。大きな翼。紺の輝く体に美しい金の瞳。大きいが気が弱い。でも賢くて優しい。私達のでっかいワンコ。ドラゴンとウルフのハーフ。希少な獣。ドラゴ。
「良いこね。ごはん食べてらっしゃい。好きなだけ食べてくるのよ?」
「うぉん!」
じゃれたいし擦るよりたいが自分が汚れているので、遠慮してるドラゴはしっぽをパタパタさせて、森の奥に消えた。あんな優しい子を封じ、その力でモンスターを狩らされて、ろくに食べさせてやらなかったのだろう。酷く痩せていた。
怒りでここら一帯を嵐にしそうだ。私は以前より気が短くなっているらしい。元の世界でセクハラ、パワハラに耐えてきたのがこの世界では無いのだ。力が有り余っている。久しぶりの魔力の帰還に体が反応して雲を呼んでしまう。
「ドラのやつ家に帰ったら洗ってやろうぜ?あんなけ荒れてても家に石鹸くらいはあんだろ」
その怒りに気付いたのか、優しく肩を叩く猛に雨雲は晴れていく。彼は見た目は厳ついヤンキーだか優しい。ヒステリー持ちの両親の間で育ったので誰かの気持ちの変化に敏感だ。
彼は帰る道で自分の今までを語る。妊娠し名前まで彫った惚れた女の子が自分の子ではない。無職だが愛してる男の子だと告白された。子供に罪はないと自分と別れては三人で暮らせないだろうと貯金と家を渡し気付けばここに居たらしい。優しすぎる男。そんな奴らに優しくする必要ない!猛は優しすぎると泣いてしまう私の頭を乱暴に撫で、そして豪快に笑う。
「オレの代りに泣いて怒ってくれてありがとな。やっぱオレら最高のダチだな!」
優しすぎる男。そのせいでこの世界の一番厄介なメンヘラに目をつけられた。恋には鈍感すぎた彼はそれに気付かず元の世界へ。彼女、諦めているといいけどね?……猛には今度は幸せになって欲しい。
「家財も盗られてるわ。部屋もぐちゃぐちゃ……さぁ、どうしてやろうかしら?」
魔力で封じ彼女しか開けれない机にあった大量の紙を手ににやりと笑う。静。優秀な成績でそのまま夢だった弁護士になれたは良いが、キツイ口調と態度に同僚、仕事 相手に恨まれる日々。ストレスで険しくなる顔。荒んでいく心。お前せいで負けたと相手側の弁護士に刺されかけ、最後に帰りたかったと目を閉じて気付けばここに居たらしい。
ぎゅとその体を抱き締めれば真っ赤になって、下手くそな笑顔で微笑まれた。彼女は分かりにくい。だけど、知れば知るほど本当は可愛いと気付くのだ。元の世界が分からなくても私達が知ってる。
「あ、あのドラゴ。帰って来てるよ。ごはん前だし、ちょっとしか回復させてあげれてないけど……お土産までくれたよ!」
新太はあれから、いじめられる日々に逆戻り。冒険の日々で強くなり言い返せばなくなったが、ずっと一人ぼっちだったらしい。両親も従順だったのに意思を持った息子を否定。高校卒業後は捨てられ容姿を利用し高額だからとホストになった。その金でなんとか生活し皆を探して、泣いていたらこの世界に居たらしい。
気弱な彼には向いてない仕事で心も体もボロボロだ。顔色も悪いし眼の隈が酷い。あの頃一番、頼りなく泣いてばかり新太を叱り心配していた静の背を押してやると静が「馬鹿!」と泣きそうな顔で叱った。静が大好きな新太は叱られたのに嬉しそうだ。
「さて、ドラゴのお土産の獣肉にハーブを詰めて血抜きね?適当に無事な畑と木を回復させて野菜と果物を作るわ」
「おい。英子!何か知らんが新品の石鹸あったぞ!皿も無事なのあるから、ついでに洗って使おうぜ!」
とりあえず、力を貯めて木を回復させ蔦で木の実を取り配る。この世界のMPは腹へり&気力ゲージなのだ。復活したゲージを見てある程度の回復を確認してそれぞれの作業に移る。
私は夏の暖かな雨をドラゴに降らし、石鹸とブラシの形の蔦でごしごし洗った。料理は静担当だ。ちょっと手術みたいに淡々とするのは相変わらずらしい。それをにこにこ助手として手伝いながら、ドラコも含む皆の体力。病気、怪我を新太が回復。胃痛も怠さも隈も綺麗に消えた。
大工の猛はわしわしと大木に登り鳥巣と野生動物が住んでない無いのを確認し、その大木を薙ぎ倒し、復活の砕けぬ最強の鋼の手刀で真っ二つ。倒れて周りに被害が出ないように倒れる前に回収。
大工の仕事で学んだ技術で四人がけのテーブルと椅子を制作。あと、手を器用に変化させてドラゴの巨大な木のおもちゃとお水の器も作ってくれた。
残った木屑は欲しがった動物達へ。他の木は鳥に頼まれた巣箱。雨宿り場所に変えてやった。思えば小動物に愛され何故か言葉の通じる彼はいつも動物に囲まれていたと思う。動物達にこれかもらよろしくと伝え。動物の病気や怪我の治療を新太に依頼する。
ドラコ曰く。あれからこちらでは十五年経ったらしい。そう言いながら軽々と持ってた巨大なテーブルの置いた。ずしんと揺れる地面。慣れたものの皆。
今は夏の日差しで乾き。栄養も戻りキラキラの紺の毛に戻ったドラゴに木の特大おもちゃをぶんと投げて遊んでやっている。ドラゴが飛び付いてじゃれてもびくともしないのは凄い。ドラコは二メートル近い獣だ。
他、三人は吹っ飛ばしてしまうからと遠慮して飛び付かないが猛には全力だ。その度に衝撃で地面は抉れるが踏んで直している。ドラゴも体調も病気も呪いも回復し目付きも変わり。まん丸おめめの翼の生えた巨大ワンコに戻っている。
「ドラちゃん、辛かったわね……後はまかせて?」
そう静が優しく撫でてやるとしっぽをブンブンとさせ、皆にすりすりとした後で私達のテーブルの横でふせをした。
モンスターの血抜き。皮剥ぎも調理も終わり。火を囲んだ食事タイム。皆で思い出を語り、デザートの果物を食べ。立ち上がる。
復讐の始まりだ。静は魔力で作られた契約の紙を片付けられたテーブルに広げた。
「まずは大臣ね……あら。まだあの王子の国にいるみたい。行きなさい」
文字とその名から紡がれる情報。紙に書かれた文字達は赤く光り浮かび上がる。そのまま何処かに凄いスピードで飛ぶ。彼女の能力は相手の名を知れば作れる魔法だ。大臣の物は一応、この能力が開花した時に保険の為に彼の名前で作った物らしい。
契約内容は私達に何かあれば責任を取る。何かはあった。つまり契約違反だ。彼女が悪い顏で文字の無い契約書ぐしゃりと握る。これの意味。……この契約書は心臓と繋がっている。つまり何とかしないと彼の心臓は握り潰されたみたいに痛む。
「さて、ここの管理を任せろと言った。村長。あら?町長になっているのね?あと、その意見に賛同した人間全て……とてもお偉い立場になられたようで光栄だわ。でも、約束も守らない偉い人間て嫌い」
笑顔で契約書も書いて良いと言った大人達。彼女の能力を舐めていたのだろう。最後にその飛んだ文字を私の台風達に追わせる。次に静の書いた台詞を猛が受け取り。身体を操れる新太にドラコを含む私達と適度にモンスターが退治されないせいで少なくなった動物達の耳を封じてもらう。
巣も頑丈な振動に強い物に変えてたらしい。猛曰く。許可済み。皆、衝撃に備えドラコにしがみ付いた。
無音になったのを確認し、大きく猛が息を吸う。小動物達は猛の体。ドラコや大きな動物にしがみ付く。血管が浮き出るくらいに息を吸った後で猛が叫んだ。
「『我らは世界を救った勇者一行だ。世界を救った恩を忘れたかぁ!語り継ぐとの言葉は偽りか!我らとの契約を破る者には天罰を!モンスターも満足に倒さず、森の物達も傷つけた貴様らを我らは許さぬぞ!可哀相だろうが!』」
最後の台詞はアドリブだ。その爆音で辺りは衝撃で揺れる。激しく揺れる地面と家。揺れる木々。塞がれたが危機を感じて逆立つドラコの毛。新太に耳を戻してもらい一応、特大回復をかけてもらう。鳥も獣もその心配もなく無事だ。
「お前ら!悪かったな。ほら、栄養のある。木の実だ。たんと食えよ」
どすんと木を殴り、どさどさと落ちる木の実。それぞれそれを動物達は感謝しながら持っていく。肉食獣達もドラコのおすそ分けで回復したらしい。皆、森に帰った。が、一部の獣は猛を気に入ったのか離れない。つまりはメンヘラ属性。いや、動物とメンヘラに好かれるからと決めつけてはいけない。
それから数分も経たない時間で村、今は町の方から松明を持って人が集まってきた。この家の近隣の町なら聞こえると計算した静の考えは正しかったらしい。
「お願い致します。嵐を……この心臓の痛みをどうか……」
……さあ、現れた裏切りの町の人間達。言い訳を聞こうか?この世界では私達は神なのだ。
メンバーの名に何か既視感や違和感を覚えても内緒でお願いします。




