88◇先代宮廷魔術師第六席『魔術騎士』
◇
そういうわけで、学校が終わり、馬車に揺られて三千里…というわけでもなく、大体30分。
モルの森や元セルグヌ領方面でもない第三の方向なので見知ったものがなくて新鮮…!
なんて言ってる暇はなかったです。
アリスに絶対戦闘になるからって言われてポーションを飲まされて若干グロッキーなう。
流石に吐くのは女子としての尊厳を吐き捨てることになるから寸前で耐えたけど…あ、吐くだけにね?
───ガタン!
うえっ、…くぅー、危ない危ない。
私の冗談を否定するかの如く馬車が揺れて、胃にダイレクトダメージを与えてくる。
落ち着け、私の胃…!アリス曰く後数分…っていうか普通にもう見えてるじゃん。
さて、気を取り直して乗り込み…じゃなかった。カチコミ…でもない。先輩宮廷魔術師第六席兼英雄に挨拶しに行かなきゃ!
…何だろう、この漢文かっていう位漢字が並ぶ肩書きは…あれ?落ち着いて考えてみたら私も人のこといえない?
異世界転移者兼宮廷魔術師第六席兼子爵…うん、私のがひどかったわ。
さて、そうこう騒いでる間に館に着いた。
予想より大分大きいけどまあそれはいいか。
いざオープンザプライ────
あ、メイドさん、開けてくれてありがとうございます。
いざとなったらアリスを盾にできる…じゃなくて、身分の高い人を前に置くという貴族常識に従って行動する。
すると、メイドさんに『この部屋で待ってて下さい』的なことを言われたので素直に待つ。
…調度品一つ取っても私の部屋とは比べ物にならない位豪華だ。
豪華、といっても金銀ピカピカー、みたいな感じではなく、どちかといえば侘寂的な感じの豪華さ。
まあ要は下品にならない程度に豪華ってこと。
待つこと5分…ではなく、待つこと1分位。
老練な英傑…みたいな感じの人が入ってくる。
何と言えばいいんだろうか。
ギルマスみたいに最前線で切った張ったの戦いを潜り抜けて来た…みたいな感じも宮廷魔術師団員みたいに後方からチマチマ殴ってました!みたいな雰囲気でもない。
…貧相な語彙力で評するなら、魔術師兼騎士兼指揮官みたいな感じ。
又の名を戦闘万能屋ともいう。そして胡散臭さというか狡猾さも持ち得てそうな感じだから…割とアリスと似てるところがある、っていう総評が正しそう。
「私が元宮廷魔術師第六席のシガム・エールハムだ」
何でこの世界の人って、一人称が私の人が多いんだろう。
「ふむ…儂と言った方がいいか」
前言撤回、この人もアリスと同類だわ。
「私はシガム・エールハム様の後任に就きました、ハナ・カタセと申します」
このシガムさんは宮廷魔術師第六席ってだけじゃなくて元『宰相』でもある。
つまり、そういう駆け引きが得意だろうからなるべく素を出さない様に気を付ける。
「第二王女、どれぐらい教えた?」
「…まだ」
「なるほど…」
私には判らない範疇の何かがやり取りされてる。
一応張本人なのに蚊帳の外…ってこんなこと多くない?
後地味にアリスを『第二王女様』じゃなくて『第二王女』って呼んでる所に権力の強さとかを感じる。
「少し話しがてら外に出ようか」
そう言うとシガムさんはおもむろに立ち上がる。
アリスの方を確認すると首肯してくれたので、着いていく。
「どうして儂が宮廷魔術師と宰相を同時に勤められたか謎だろう」
まあそうだ。
頭を使って陰謀とか考える宰相と戦闘ガチ勢である宮廷魔術師を兼任出来るなんて生半可な人じゃない。
それこそアリスみたいに複数方面に才能を持っているでもないと…
「儂はそこの第二王女みたいに才能に恵まれた訳ではない。僥倖にも戦闘方法と宰相という仕事が噛み合っただけだ」
…この人、もしかして秀才って言われるタイプの人では?
シガムさんのその発言から私は秀才の匂いを感じ取った。
きっと膨大な経験や学習を自分の物にし続けた『秀才』なんだろう。
あの話し方や心理戦、そして権力…端から見れば『才能』という言葉で片付けられもしそうな『努力』で身につけた数多の技能やその副産物なんだろう。
最初に私はアリスと同類だと評したけど、あれは間違い…それもほぼ真反対の間違い。
勿論アリスが努力してないっていうわけじゃないけど…それでもアリスの努力が、それこそ霞むレベルで努力をしたんだろう。
「ハナ殿は一見するとあの第二王女と似ているが…それでも儂の様な面もある」
ちなみにアリスは気付いたらどっか行ってた。
あの王女様、部屋出た瞬間に真反対の方向に向かったからね。方向音痴とか?…まさかね。
…シガムさんの発言は、私はアリスみたいな天才型ではなく、秀才型だという事を暗に示しているんだろう。
確かに私は異世界転移や神域や呪域の印象が強いだけで根は凡才だろう。
学校で優秀な成績が取れるのも元の世界の貯蓄があるからだし、宮廷魔術師になれたのも半分アリスのお蔭だろう。
唯一『才能』だと言い切れるのは、それこそ【御伽之城主】という特殊技能だけだ。
しかもそれは魔法や魔術が蔓延るこの世界でしか役に立たない才能。
だから───
「しかし、ハナ殿からは第二王女の様な感覚もする」
…ほう?それは私がアリスみたいな天才だと言いたい、と。
それは捉え方によっては私に喧嘩を売ることになるよ?
だって──
「天才というのはその人の努力を見ないことにするのと同義だから…だろう?」
…やっぱりわかってるじゃん、この元宰相。
「だから安易に決め付ける訳にはいかない。そこでハナ殿にも判り易い方法で判別しようと思ったわけだ」
…ああ、やっぱり模擬戦か。
本物の試合じゃない模擬ならゲーム感覚で楽しめるから嫌いじゃないけど…って、大分思考が異世界に侵されてきたなぁ。
まあいいか。細かいことは帰ってから直せばいい。
「胸を借りさせて頂きます」
相手は前宮廷魔術師第六席『魔術騎士』シガム・エールハムさんだ。
一応先輩だから胸を借りる、という表現が適切だと思う。
それに…直感だけど、この人シルクエスさん以上に強い気がする。
…というか下手したらアルカトスさんよりも…
まあ戦えばわかるか。
それが肉体言語の利点、ってね。
「後、そんなに畏まんなくて良い。堅苦しいのはそんなに好きじゃないからな」
「わかりました」
まあ流石にはいそうですか、って頷く訳にもいかないので、若干敬語を崩す位にしてとどめておく。
これがアリス直伝の目上の人の命令に従いながらも貴族常識を守る方法…!
◇
さて、そうこう話してる内に模擬戦場…もとい外に着いた。
表の庭…入ってきた所の庭は四季折々の花が植えてあったりして風情というかエモさというか、そんな感じのなにかを感じさせる庭なのに、こっちはかなり殺風景。
武骨な岩が辺りにちょくちょく転がってるし、回りにある木にも傷痕がある。
「ハナ殿からは歴戦の猛者という感じはしないが、いつから戦い始めたんだ?」
いつから?
そりゃあこっちに来てからよ。
つまり…えーと?
「大体1ヶ月位ですね」
「1ヶ月で宮廷魔術師第六席か…やっぱり第二王女側ではないか?」
「そんなことありませんよ」
軽口…と言っていいのかはわからないけど、軽口をお互い言いながら少しずつ距離を取る。
「それじゃあ始めましょうか」
「ルールは…致命傷なし、降参あり、最大でも10分。これでどうだ?」
うわぁ、きちんとしてる。
私が宮廷魔術師団員達と模擬戦…というか戦闘訓練?した時はこんなしっかり考えてなかったよ?
次からはしっかりしよう。こういうのが事故防止に繋がるんだよね。
「致命傷なしについては少し緩目でお願いします」
本当になしだと『死帯享楽』や呪域が使えないからね。
模擬戦だからといって使わなくていい理由にはならない。それも先輩宮廷魔術師との模擬戦だ。
全身全霊、全力を尽くして食らいつこう…!
「わかった。こっちにも回復用ポーションは沢山あるからhpが0にならなければ大丈夫だ」
私が全力で打ち込めない可能性を考慮しての発言だろう。素直にありがたい。
「お気遣いありがとうございます」
「それじゃあ先輩として、先手は譲ろう。何処からでも掛かって来たまえ」




