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『少女世界攻略記録』  作者: けゆの民
魔導の神髄と最期の誓い
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89◇偽りの楽園に抗うは忘却の世界


「それじゃあ先輩として、先手は譲ろう。何処からでも掛かって来たまえ」


その発言をありがたく思いながら私は詠唱を始める。


「生命の輝きを従え、螺旋階段を越え、屋上へと突き抜ける舞踏会の開幕をここに宣言しよう」


「『舞踏城(タンゼンシュラウス)』!」


さて、いつもの『舞踏城(タンゼンシュラウス)』だけど…今回は特別仕様。

『魔法更始:詠唱組成』を使って100倍が限界だった効力を押しあげる。

勿論時間は模擬戦最大時間の10分。効果は100倍…に強化を乗せて、120倍。そしてきっちりmpが1200持っていかれている辺り、詠唱を増やして倍率無双…っていうのは無理そう。

それに『それらしい言葉』を倍率が跳ね上がる程長く連ねるのは事前に用意でもしなきゃ無理。


…良かった。まだ静観していてくれる。

これが攻撃系の魔術だったりしたら何かしら動かれてたんだろうけど…生憎『舞踏城(タンゼンシュラウス)』は完全補助魔術。

それに私が『魔術師である』という偏見を持っているからこの魔術は次の魔術のための準備…だとか思ってくれるとありがたい。


さて、次だ。


「此処は私の望む世界ではない…」


こっちは完全にいつも通りの『追憶の世界(ロスト・ワールド)』の詠唱。

やろうと思えば『魔法更始:詠唱組成』の効果を乗せることも出来るんだろうけど…丁度良い言葉が思い付かないので仕方なく諦める。


「ならば此処を我が世界へと変化させる…」

「科学よ!論理よ!私のために…」

魔法(せかい)を染め上げろ!」


「ほう、中々じゃないか」


何が『中々』なのかはわからないけど、詠唱からシガムさんは誉めてくれる…まあ妥当な所でいえば詠唱の長さだろうね。

基本的にこの世界は詠唱が長ければ長いほど強力な魔法になるようだから。


「そして今を以て此処こそが…」

「欺瞞でも仮初めでもない…正真正銘私の世界!」


「さて、そろそろ動くか」


どう動くのか気にはなるけど、取りあえず詠唱を完成させなきゃなんの意味もない。

私は半径75mに渡る私だけの世界を展開するために粛々と詠唱を続ける。


招かれざる(魔法世界の)来訪者よ…」

「科学と狂気に紐解かれる私の世界(いせかい)を存分に楽しめ!」


さあ、思う存分『異世界』を体感してほしい。

これぞ『夢幻空間』片瀬花奈の得意魔法である────


「『追憶の世界(ロスト・ワールド)』!!」


月明かりが射し込み、辺りの景色が一変する。

荒れ果てた大地はコンクリートで舗装され、見映えの悪い庭は電灯や街路樹によって彩られる。

いつものビル群はなくても、これが私の世界だ。


「これは…」


何やらシガムさんは考えている。

様子見したほうがいいのだろうか、それとも先手必勝で攻撃したほうが…


「生きとし生ける者共よ!」


なっ、シガムさんも詠唱か。

なら────


「手榴弾召喚!」


舞踏城(タンゼンシュラウス)』によって引き上げられたdex(器用さ)agl(素早さ)をフル活用して、それを投擲する。


シガムさんはそれらを左手で振り払って弾く。

無詠唱で障壁?どんな…


「無知蒙昧たる愚か共よ!」


牽制ついでに拳銃を召喚して、撃ってみるけど…相変わらず障壁に弾かれる。

取り敢えずあれを抜かなきゃ話にすらならない。


「我が造成の神髄の前に溺れて沈め!」


「『偽造生命体の楽園(メログラント・エデン)』!」


詠唱の完成と共に世界が塗り変わる。

人型の生命体…いや、魔法名に合わせるなら、人型のゴーレムが大量に産み出される。


なるほど、シガムさんの基本戦術はゴーレムの後ろからの指揮か。

それなら確かに宰相(参謀役)の仕事とも合う部分があるのだろう。


雪崩来るゴーレムの波を目の前にそんなことを考える。


でも、そんな簡単には負けられない。

ゴーレム一体一体は…『追憶の世界(ロスト・ワールド)』御披露目の時に戦った騎士達と同じ位、つまり異常に強いわけじゃない。


「『暴風礫招来』!」


いつぞやの宮廷魔術師団員戦と同じ様に暴風を私の周りに起こす…だけでなく、その中にまあまあ大きい石のつぶてを多めに含ませる。

そうすることで、風速数十m位の暴風圏内に入れば漏れなく石の塊による雨を体感出来る訳だ。


しかし、ゴーレム達は意にも介さず、暴風圏内に突っ込んでくる。

それだと壊れるだけ……え?


確かにゴーレムは壊れている。されどそれはゆっくりと風化する様にだ。

でもそれは暴風礫の都合上仕方ないもの。

それを利用してか、壊された端から回復…もとい再造される。

つまり、ダメージを気にしない不死の兵士(ゴーレム)を大量に召喚して、倒れたら再度復活させる。それがシガムさんの強みなんだろう。


まだ終わらない。確かにゴーレム達には最早5m位まで接近されている。

でもまだ手はある。

魔銅すら溶かした『炎焔の束縛(フレイム・ピラー)』を使ってもいいけれど…mp消費が大分嵩むからそんなに使いたくない。

60000少ししか残っていないmpの内50000も序盤から使うのは後に響き過ぎる。


「《三点再臨》!」


魔銅の手を使い、少しでも時間を稼ぐ。

そしてその稼いだ時間を使って次に繋ぐ詠唱をする。


「神影より我が断章を紡いだ虚像を産み出せ!」

「『影姫の誕生(オルタナティブエゴ)』!!」


7つの分身を作り、それぞれが思い思いに行動する。

ある分身は『純白の十字教会イノセンス・クレルモン』を使い、ゴーレム相手に接近戦。ある分身は 《三点再臨》を使い、ゴーレムの剣や槍を凌ぐ。

そんな風にゴーレムに対処する。

でも、全ての分身に共通することとしては、そこまでaglを出していないこと。流石に120倍フルで活動したらバフに気付かれる。だからこの後の作戦に気付かれない様にagl控えめ(倍率2、3倍)で足止めさせる。


ビルを落として、囲まれている約100体のゴーレムを蹴散らしたいのは事実だけど…今それをすると自分にまで被害が出るから使えない。『死帯享楽(ファイナル・リゾート)』の使用を前提とすれば出来るけど…まだmpも余ってるからそれは勿体ない。


だから…昨日セリアがやっていた様に不意を付く!


「神域『科学支配世界(オーバーロジック)』!」


魔法絶対許さない領域を展開しながら正真正銘の全速力で駆け出す!

そしてゴーレム包囲網の隙間を抜けて…


「押し潰せ!建造物(ビル)群よ!」


興が乗ってるのか知らないけど、つい口から言葉が出てしまう。

自分の分身ごと押し潰すというそんなにしたくはない体験をしながらも、何とか力業で包囲網を抜け出す。


これでゴーレム達は既に消えているビルの下敷きになって圧壊した…まあでも後数秒しない内に全て復活するんだろう。

今の攻防で全速力逃亡を見せちゃった以上次も同じ手は使えない…だから術者本人を狙うしかない!

神域を展開したままだと私も録な行動(魔術行使)が出来ないので解除しつつ、どうやって攻撃しようかと悩む。

最初は神域を解除せずに突っ込もうと思ったけど、この神域は対人間には絶大な威力を発揮する…というわけではない。

長時間至近距離で浴びせて体調を著しく悪くさせるのが限度…だと思う。

まあ細かい検証が出来てないから不確定ではあるんだけど…それでも有効打にはならないだろう。

それに展開したまま突っ込むとお互い魔術が使えなくなって接近戦になるわけだけど…私の剣技のゴミ性能を思い出せば勝ち筋がないのがすぐにわかる。


次に一回自爆(hpを0に)して呪域っていう案がある。

確かに神域と違って効果はあるだろうし、有効打にもなりうる…けど一回自害(自分を斬殺)する必要があるのがネック…というか単純に嫌。そこまで戦闘に脳が侵食されたら元の世界に帰ってから絶対に戻れなくなる。

というか今でさえ速く行きたいなぁ…そうだ!『舞踏城(タンゼンシュラウス)』使おう、みたいな発想になるから十分やばい。


なら別の手段…何かあったっけ?

最近色々増えすぎて自分でも整理しきれないことがある。平常時ならまだしもこういう焦ってる時にパッと思い出せないのは不味いのかな…?


パッと思い付く限りでは呪域以外万策尽きたので『追憶の世界(ロスト・ワールド)』による魔法…つまり、想像補完魔法に頼る。

といっても、あの炎上するやつはゴーレムに対して効くのだろうか。一瞬で溶け落ちるとかならまだしもゆっくり溶けていく感じだから普通に再生されて終わりな気がする。


…事前に用意していた万策は尽きた。ならどうする?

決まってるでしょ。










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