002
シールは町で宿屋を営んでいる。
と言ってもたいしたもんじゃない。親父とおふくろから受け継いだこじんまりとした小さな木造二階建ての宿屋だ。1階に食堂に厠、浴場などの共有スペース。2階に宿泊スペースがある。
まあ、経営はぼちぼちだ。可もなく、不可もなく。
親父とおふくらが経営していた時は、そこそこの人気宿だったが、いまは微妙だ。閑古鳥が鳴いている訳じゃない。月に十人くらいは二階に泊まるし昼時には一階の食堂でなじみの客が飲み食いする。
――が、その程度の盛況っぷりだ。もっぱらの評価は『料理の味がびみょー』だの『先代の方がよかった』だの『店主の態度が悪い』だの『店主の顔が怖い』だの『店主が嫌い』だの、そういうネガティブなものばかりだ。
察してほしい。全部オレが悪いのだ。
「さて。まずはその汚い身体を綺麗にしようか。」
シールは浴場にいる。ねこみみ娘を洗うために。
戸口には『清掃中』の板を掛けておいたため、宿の旅客が来るおそれはない。
にまにまと厭らしい笑みをおじさん顔に貼り付けながら、ワキワキと泡まみれの五本指を蠢かす。
タオルを使わないのは様式美だ。
対する、ねこみみ娘は、むすりとソッポを向いたまま、
もう勝手にしろと言わんばかりに、ぺたりと床におしりを付けて座っている。
服(?)…。襤褸はもう身に付けていない。臭いし汚いし、襤褸布は没収しごみ箱に捨てた。――だから、ねこみみ娘はすっぽんぽん。完全無欠の全裸だ。
まあ、あばら骨がくっきり見えているし、垢まみれの肌にはところどころ虐待の痕跡と見られる傷跡が刻まれているし、あまり綺麗なもんじゃない。『かわいい』とか『えろい』とか。そういう男の感情云々より先に『可哀想だ』と思ってしまう裸体だ。
「うぶっ!!」
木桶にたっぷりと注いだ温水を、頭の上でひっくり返す。
不意打ちにソッポを向いていたねこみみ娘はケホケホと咽る。髪の毛から滴り落ち、身体を伝い落ちる水が茶色に染まっているところが何とも言えない。
「……汚いな。」
じろりと反抗的な目がシールを睨みつける
「う……るさい……。変態。死ねばいいのに。」
「……獣人のくせにくそ生意気だよな。自分の立場わかってんのか?」
「じゃあ……馬鹿なケモノに……しつけでも……する? ころ……していいよ。」
くちびるの端っこをつりあげて不気味に笑う。
ガキのくせにくそ生意気だがそれも一興だろう。こちらもニタニタと笑いながら三角形のねこみみを摘まんでみみのあなに言葉をとろりと流し込む。
「ああもちろん。生まれてきたことを後悔させてやるよ。楽に死ねると思うなよ。」
売り言葉に買い言葉って奴だ。。シールは特性シャンプーで泡まみれになった十本の指でねこみみ娘の黒髪をいじくりまわす。
脂でガジガジに固まった髪を解きほぐすように揉みあげて、ある程度泡がたったら流す。こびりついたよごれは一回じゃ流れない。何度も何度も同じ工程を繰り返す。
「ふ……うっ……あ……うう。。。み、みみは乱暴にしないで…。」
鏡に映るねこみみ娘が弱音を吐く。
人間より優れている獣人のみみ。そこは数km先の小さな音も拾うことができるかわりに、非常にびんかんな器官になっている。もちろんそこも洗わせてもらう。
こりこりと摘まんでみたり、くすぐったり、撫でたり、必要以上にいじくりまわす。
鏡の中の少女は瞳を潤ませてほほを火照らせている。ぴたりと合わさっている太ももがむずがるようにモジモジとすり合わせるさまがいじらしい。
「こんなことして……たのし、い?」
「ああ。楽しいとも。」
身体も洗う。もくもくと泡だらけにしてしまう。嫌がるねこみみ娘の意向を完全に無視して胸のふくらみも、その先っぽにある尖りも、こかんも、おしりの穴も、しっぽも全部泡まみれにした。
洗ってる最中、ねこみみ娘が暴れたり騒いだりしていたが、全部無視してやった。
「……。さいていっ」
木桶の水を再びひっくり返し、泡を堕とすといくぶん綺麗になったねこみみ娘は数割増しの憎悪をシールに向けてくる。綺麗に洗ってやったのに、彼女の眼差しに感謝の念はまったくない。
まあ泡々ハンドでセクハラしまくったし仕方ないと言えば仕方ないが。
これ以上は見せまいと胸と股間を貝殻のように小さなおててで隠して仕草が、なんだか年頃の女の子らしくて笑えた