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第9話 母親と義姉

 エストリアの母親であるソフィア・オーレルムと、義姉であるヴェロニカ・オーレルムはオーレルム邸の中庭でお茶会をしていた。

 お茶会というよりは、実質ただの恋バナの会である。エストリアに漸く春が訪れたのか、その事について話し合っていた。


「ヴェロニカさん、貴女から見てどうですか?」


「それが……オズワルド様は満更でも無さそうですが、エストリアちゃんは……」


「やはり問題はあの子ですか……」


 苦笑するヴェロニカと頭を抱えるソフィア。義姉としてヴェロニカもエストリアには幸せになって欲しいと願っている。

 2人の距離が近づかない様に邪魔をしようとする、夫のルーカスもしっかり抑えている。


 外野から見るとオズワルドはエストリアに興味を持っているのは間違いない。しかしエストリアは、何とも言い難い状況だ。

 元々社交の場には出ていないし、2人の兄が邪魔をして来たので恋愛観が年齢と全く合っていないのだ。

 恋らしい恋もろくに経験しておらず、異性を好きになるという感覚を理解出来ていない。それがエストリアの現状だ。


「多分、弟が出来たぐらいの感覚でしょう」


「あの様な最高の相手を前に、あの子は何をしているのです」


「ま、まあ一応興味は引けている様ですから」


 やる事なす事その全てが貴族令嬢らしからぬ行動ばかり。昨日などオズワルドの前で元気に魔物を討伐して来たぐらいだ。

 それは確かに必要な事であるし、元気である事は何よりも大切だ。だが今必要な行動ではない。


 このままただ見ていて面白い存在で終わっては、せっかく護衛につけた意味が無い。この降って湧いた好機を無駄にしてしまうのは明らかな損失だ。

 オズワルドはエストリアの結婚相手として、非常に理想的な相手である。血筋はもちろん、理知的でエストリアの手綱を握れそうな人格者である事が大きい。


「オズワルド様が相手ならあの子が王妃になる事はなく、尚且つ我が領に来て頂く事にも好意的です」


「王子が義弟になるのは複雑ですけどね」


「あら、貴女だって姫ではないですか」


「それはまあ、そうなのですが」


 ヴェロニカは正式な王位継承権を持つ隣国の公爵令嬢だ。今のレアル王国の様に、無駄な争いを回避する目的で外国に嫁いだ。

 そもそもルーカスに熱烈な求婚をされ、そんな彼を好ましく思ったという理由もあるが。

 

 ヴェロニカは母国での人気が未だ衰えておらず、十分に姫としての存在価値はあるのだ。

 それを思えばオズワルドが義弟になる事など気にする必要はない。年齢も上だし次期領主の妻である。立場的にはそれほど大きな差はない。


「貴女とオズワルド様がこの領地に居てくれれば、将来も安泰なのですが」


「それ自体はエストリアちゃんも理解しているみたいですが、結婚までは思い至らない様で……」


「本当にどうして、エストリアはああなのでしょう」


 ソフィアは母親として、これまで何度も貴族の女性らしい生き方を説いて来た。色んな事を教え続けてきた。

 しかしエストリアは、生き方を変えようとはしなかった。2人の兄が結婚したので、自分が子孫を残す必要もないと考えている。


 それよりも民と過ごし、騎士として生きる事を選んだ。それを領民達は喜んでいるが、だからこそ彼女の幸せを願う人々は沢山居る。

 最早家族だけの願いではないのだ。当の本人に、その自覚が足りていないだけで。


「これはもう、オズワルド様に期待するしかないのではありませんか?」


「好いて下さるかしら? あの様なお転婆娘を」


「魅力が無いのではありませんから、まだ希望はありますよ」


 好きに生きているだけで、エストリアに女性としての魅力が全く無いのではない。ちゃんと大人の女性としての美しさが備わっている。

 ただ王都で流行している様な、ご令嬢らしさが無いだけで。レアル王国の王都リルカでは、小柄で可愛らしい女性が人気だ。


 その為に貴族の女性達は背が伸び過ぎない様に気を遣っている。そして社交を重ね、常に最新の美を追い続けている。

 彼女達はエストリアとは、何もかもが真逆である。


「ドレスなら母国に頼めば、長身の女性に似合う物が用意出来ますから」


「それを着る機会が来てくれれば良いのだけど」


「もう少し様子を見てみましょう。もしかしたら、もしかするかも知れませんよ?」


 ヴェロニカも長身の貴族女性だ。レアル王国で流行っている様な、小柄な女性向けに作られたフリフリのドレスは着用しない。

 自国から持ち込んだ、タイトで体のラインが出る物を普段から着用している。エストリアも同じく長身であるから、ヴェロニカの様に良く似合うだろう。


 元々スタイルは悪くないのだから、見栄えという点で問題はない。後はそれを着る機会があるかどうかだけ。

 宝の持ち腐れにさえならなければ、十分その美しさを披露出来る筈だ。


「オズワルド様も、もうすぐ18歳です。上手く行けば婚約式に間に合います」


「あと3ヶ月しかないのですよ? 大丈夫かしら」


「まだ3ヶ月ある、と考えませんかお義母さま」


 貴族の子供達が成人すると、年に2度ある婚約の発表と祝福を行うパーティーに当事者として参加出来る。

 それが婚約式と呼ばれる行事だ。もちろんそれは、期日までに婚約をした者が主役である。

 しかし同時に、未婚の者が相手を探す場でもあるのだ。だがエストリアはこれまで1度も参加していない。


 兄達のお祝いなら、領内で祝っているので2度も出る必要もないだろうとの判断だ。領地を持つ貴族には、そう考える者も居るのでおかしくはない。

 しかし1度も婚約式に出ないままというのは、つまり一生独身だという事。そうはならないで欲しいと、母と義姉は強く願った。

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