第45話 シスコン2号
王城で国王の業務についてより詳しく学ぶ事になったオズワルド。
元々2人の兄達と違って、王子としての責務をしっかり果たしていた彼にとってはそれ程大変ではない。
公式行事への参加等は何度も行っているし、王都に出て視察に向かうと言った公務も経験済みだ。
何なら大商会の会頭達とも顔見知りであり、顔の利く商人達も少なくは無い。
エストリアに贈った髪留めが、オーレルム領に居ながら用意出来たのもその繋がりから来ている。
故に彼が学ぶのは、主により詳細な内政関係の事務仕事が中心となって来る。
その関係で机に向かう事が多く、最近はあまり体を動かせていなかった。
運動不足になってはいけないので少々体を動かそうと、騎士団訓練場へと向かう事にした。
「そこに居るのは、もしやカイル殿では?」
「オズワルド様? 騎士団に何か用でも?」
「少し体を動かしたくなってね」
王城内にある騎士団の訓練場。その入り口に立っていたのはオーレルム家の次男、カイル・オーレルムである。
首の後ろ辺りで纏められた長い髪は、オーレルム家特有の燃える様な真っ赤な色をしている。
顔立ちはどちらかと言えば母であるソフィア似で、厳つい印象のあるオリバーやルーカスより線が細い印象を受ける。
眼鏡をかけているのもあり、冷静で知的な男性に見える。軍師タイプに思える見た目をしているが、王国騎士団副団長でありレアル王国最強の騎士である。
熱血系のルーカスと、クールなカイルは子供の頃から女性に人気があった。
「ほう……ならば私がお付き合いしましょう」
「いやしかし、貴方も忙しいのではないか?」
「いえお構いなく。それよりも、どれぐらい成長したのか見せて頂きましょう」
どんな時も冷静で、部下達からの信頼も厚い副団長。しかし彼もまた残念な事に、妹の事が大好きな困ったお兄ちゃんである。
兄としてはやはり、妹に相応しい強さを持っているかは確認しておきたい。
結婚は既に決まった事であるし、今更それについては反対するつもりがない。
何よりルーカスと違って、カイルはある程度オズワルドの実力を知っていた。
過去に何度か稽古をつけた事もあるので、平凡ではありながらセンスが良い事も知っている。
カイルが以前に稽古をつけたのは数年前だ。あの頃と比べてどれだけ上達したか、確認させて貰う腹積もりだ。
「そういう事なら、お願いしよう」
「ガッカリはさせないで下さいよ?」
「以前の様にはいかないさ」
オズワルドは既に理解している。今何を求められているのか。ルーカスと同じで、示してみろと言われているのだ。
王族という立場を利用して婚約しただけの男ではないと。エストリアと共に生きていくだけの覚悟を、ちゃんと持っているのかと。
半端な気持ちで共にいるのではないと、婚約式襲撃事件で見せる事は出来ている。
だがその本気度までは、ハッキリと示せたとはオズワルドも思ってはいない。要するに剣で語って見せろという意味なのだと理解している。
普通に考えれば、王国最強の癖に面倒だなと思われても仕方ない。だがオズワルドは、真っ向から勝負するつもりだ。
「手加減は必要ない」
「ほう? 随分な自信ですね」
「そうじゃないさ。ただもう、剣術を覚えたばかりの子供ではないってだけだ」
王国最強に勝てるとは思ってはいない。だが簡単に負けるつもりもない。それに数年前と違って、今はもう大人になっている。
子供扱いでの勝負ではなく、ちゃんと大人として向き合って欲しかったのだ。
強くなる事を夢見ていた幼い王子ではなく、その後も真面目に稽古を続けた積み重ねの先。
その集大成をもって、エストリアに抱いている気持ちを示すつもりなのだ。例え相手が王国最強でも、引かぬだけの決意と共に。
意図を汲み取ったカイルは、余計な手抜きを頭から捨てる。1人の剣士として、オズワルドと対峙する。
訓練所で向かい合う2人を、騎士達が固唾をのんで見守る。次の瞬間には一瞬で距離を詰めたカイルが、刃を潰した模擬戦用の剣を振り抜いた。
「クッ!?」
「良い反応ですね、成長を感じます」
「まだこれからだっ!!」
オーレルム領にいる間、オズワルドは剣の稽古も欠かしてはいなかった。ルーカスやエストリアに師事し、己の腕を磨いて来た。
王族の血統も優れたものではあるが、オーレルム家ほど肉体に特化してはいない。
カイル達ほど常人離れした動きは出来なくても、年齢や立場を考えれば十分過ぎる程の実力を身に着けた。
オズワルドの剣術は確かに平凡だ、しかしそれは基礎がしっかり出来ていると言う事。
余計なアレンジに手を染めず、ただ愚直に続けて来た努力。華やかさはないけれど、オズワルドという人物にピッタリの剣技だった。
「驚きましたよ。これなら騎士としてもやって行けますよ」
「オーレルム領で暮らすつもりだったからなっ!」
「フッ、良い覚悟です」
カイルは本当に驚いていた。王子に過ぎないオズワルドが、ここまで実力を上げていた事に。
この腕前なら確かに、オーレルム領でも生きていける強さだ。それも騎士として最前線に立てる領域に達している。
オズワルドの剣には、覚悟が乗っていた。辺境伯家に婿入りするという、確かな決意が込められている。
第3王子が十分健闘している事に、周囲の騎士達も驚いている。明らかにカイルは手加減しておらず、オズワルドは防戦一方である。
だがそれだけでもう十分に凄い結果なのだ。これだけ長く倒されずに立っている事が、既に並みの騎士に出来る範囲を超えている。
さてどれだけ耐えられるか、という空気が広がっていたが次の瞬間には霧散する。
「カイル! 王子を相手に何をやっているのですか!」
「あ、アリア……これは、ほら、ただの稽古で……」
「嘘おっしゃい! どうせエストリアちゃんに相応しい男か確かめるとか言ったのでしょう!?」
訓練場にやって来たのは鮮やかな空色の髪を持つ、短髪で気の強そうな女性。彼女はカイルの妻であるアリア・オーレルムだ。
彼女は以前まで、王妃付きの近衛騎士として王城で働いていた。その実力はかなり高く、女性としてはエストリアに次ぐ実力を誇っていた。
だからこそカイルと結婚する切っ掛けになった。そんな彼女は現在子育ての為に騎士職は休職中である。
では何故ここに居るかと言うと、かつての同僚に会いに来ただけだ。そうしたらカイルが、王子相手に本気を出しているという噂を聞き駆けつけた。
「あ、いや、カイル殿の話は本当で……」
「良いのですよオズワルド様、お気遣い頂かなくても」
「ま、待ってくれアリア!」
耳を引っ張られながら退場していく姿は、オーレルム領に居る誰かさんとそっくりであった。
普通の兄弟はこんなにも似ているものなのかと、そんな感想を抱いたオズワルドであった。




