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第37話 オズワルドの在り方

 無事に大城壁の一斉点検も終わらせたエストリア達は、いつも通りの生活に戻っている。

 結局大規模な修繕が必要な程の問題は発生しておらず、交換や工事が必要な部分だけが後日改めて行われる。

 その辺りについてはオズワルドが積極的に動いた為に、国からの援助も受けながら順調に話が進んでいる。


 オーレルム領の運営に最初から協力的だったオズワルドは、領民達からの評価も高く信頼されている。

 仕事の合間を見て領民と共に過ごす第3王子の姿は、今では当たり前の光景として定着しつつある。

 本日も昼間から1人の老婆を手伝っている。


「オズワルド様、本当によろしいのですか?」


「気にしないでくれ。俺達に任せておけ」


「は、はぁ……」


 要塞都市アルマーの門の近くで、車輪が破損してしまった馬車が立ち往生をしていた。

 果物を運んでいた最中であり、彼女の店まで全ての荷を老婆が1人で運ぶのは不可能に近い。

 そこに通り掛かったオズワルドと護衛達が手伝いを申し出た形だ。


 近くに居た男性達も参加して、リレー形式で老婆の営む店まで運んでいる。

 まさか自国の王子にこんな力作業を進んでやるなんて、と老婆は大層困惑している。

 既に荷台の半分程は何とか運び終えたが、残りはまだまだ残っている。そんなオズワルド達の下に、領内の巡回から戻って来たエストリアが合流する。


「あら? これは大変ですね」


「エストリア、少し手を貸して貰えないか?」


「もちろん構いませんよ!」


 快諾したエストリアは、男性達が1箱ずつリレーで運んでいる木箱をひょいと2箱持ち上げる。

 片手で1つずつ持ち上げたまま、彼女はスイスイと目的地に向かって歩いて行く。

 今更なのでオズワルドも驚きはしないが、相変わらずパワフルな姿をエストリアは見せていた。


 街の人々はもう見慣れた光景なので平然としているが、オズワルドとしては複雑な気分である。

 男らしさに拘る必要もないと分かってはいても、あれぐらい出来たらと願ってしまう気持ちはある。

 そもそも騎士として生きてはいないので、そんな事を気にしても仕方がないとしても。


「相変わらずですね、エストリア様は」


「本当にな。凄い女性と婚約出来たものだ」


「今でもたまに驚かされますよ」


 オズワルドの護衛達もだいぶ見慣れては来たが、それでも驚く事はそれなりにある。

 オーレルム領の騎士達は、先ずその鍛錬の密度が王都とは違うのだ。魔物の脅威に対抗する為、非常に過酷な鍛錬を続けて来た。

 領地と領民、そして王国を守る為にと、彼らは非常に高い志を持っている。その中でも特に領主一族のそれはハードだ。


 上に立つ者が弱者であってはならないと、異常な程に己を鍛えているのだ。

 だからこそ、オズワルド達には彼女の努力が半端ではない事を理解している。

 王子として、騎士として、彼らはエストリアを尊敬している。


「1つの事に、あれだけ打ち込む姿は美しいと思う」


「何ですオズワルド様? 惚気ですか?」


「ち、違う! 生き方の話だ! からかうのはよせ」


 今まで婚約者を決めずにいたオズワルドと、そんな彼を見守って来た護衛達。当然彼らは主の幸せを願っていた。

 地位を目当てに擦り寄る女性よりも、この優しき王子を支えてくれる様な相手との婚約を願い続けた。

 それがこうして、オズワルドにピッタリの女性と婚約したのだ。


 護衛達の弟分でもあったオズワルドの、幸せそうな姿が自分の事の様に嬉しいのだ。だから最近はこうして、少々からかう事がある。

 でもそれは、その分これまでが過酷だったからだ。王座を巡って命を狙われる日々は、たった数ヶ月でも相当な心労になる。

 しかもそれが血を分けた兄達からの指示なのだから心の負担は大きかった。


「皆さん楽しそうですね?」


「い、いや! エストリアは凄いなと話していただけだ」


「え? (わたくし)は頭の良いオズワルドの方が凄いと思いますけど」


 不思議そうにしながらエストリアは、再び木箱を運び出して歩いて行く。こんな風に平和な日常が訪れた事に護衛達は感謝をしている。

 民と共に生きたい、それはオズワルドが幼い頃から望み続けた事だ。初代国王の生き方に憧れた少年の、青臭い理想なのは皆分かっている。


 しかしその根源にあるのは彼の優しい心だ。護衛にも必ず感謝をする優しい王子との日々で、全員がそれを理解している。

 だからオズワルドには、その望みを叶えて欲しかった。王子には相応しくないかも知れない、時に冷酷であらねばならないのかも知れない。

 それでも今の彼が、多くの領民を笑顔にしている事実は変わらない。


「最近のオズワルド様は、前よりも生き生きとしていらっしゃいますよね」


「そう……か? 確かに充実はしているが」


「そうですよ。毎日楽しそうですから」


 王都に居た頃だって、オズワルドが特別不幸だった訳では無い。しかしここ数年は幸せとは言い難かった。

 徐々に拗れていく兄弟の仲を繋ぎとめようとする日々。それでも勝手な行動を取る兄達。

 彼らのフォローをして回っていたのはオズワルドだ。そんな彼の日常は、苦い想いをする場面が多かった。


 兄達に変わり、王子として毅然とした対応を求められ続けた。だがそれはオズワルドらしい生き方では無かった。

 今の様に、領民達と笑い合う様な在り方こそが彼本来の姿だった。漸く自分らしく生きられる様になったオズワルドだったが、彼の知らぬ所で事態は動き始めていた。

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