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第35話 一斉点検初日

 いよいよ行われる事となった大城壁の一斉点検が始まった。石材を積み上げられた巨大な壁は高さが10メートルもある。

 魔物の侵入を阻む目的で作られた為、最も分厚い土台部分で厚みは7メートルを誇る。

 一番上でも5メートル程の厚みがあるので、その巨大さは世界でもトップクラスである。


 大城壁の名に相応しい堅牢な防御壁と言えるだろう。オーレルム領の人間にとっては見慣れた壁に過ぎないが、オズワルドにしてみれば圧巻の一言に尽きる。


「これが……オーレルム領の大城壁か」


「そうですよ! 代々国を守って来た我が領の誇りです」


「王城の城壁が小さく感じるよ」


 レアル王国の王城を囲んでいる城壁は、高さが5メートルで厚みも3メートル程しかない。

 それと比べればほぼ倍の大きさを誇っているので、オズワルドが驚くのも無理はない。

 知識として知っているのと、実際に自分の目で見るのはまた違う。


 驚いているオズワルドの目の前では、メンテナンス用の移動式櫓に乗り込んだ騎士達が、傷んでいる場所がないか確認している。

 移動式櫓は見落としがない様に、特殊な作りになっている。

 3・6・9メートルの高さに合わせた3重構造の櫓と、2・4・8・10メートルの高さに合わせた4重構造の2種類がある。


 2つを並べて隙間なく確認していくのが一斉点検だ。これは城壁の内側と外側の両方で行われる。

 欠けている場所や異常が見られた場所では、その場で騎士や技術者達が補修作業を行う。


「なる程、確かにこれは大変だな」


「櫓が非常に重いので、移動させるのが大変なのです」


「だろうな。あの高さではな」


 両方がそれぞれ9メートルと10メートルの高さを誇るので、幾ら木造と言っても人間が乗り込めば相当な重量を誇る。

 転倒防止の支柱も含めると、櫓だけで2トンを超えている。車輪があるとは言え、それを少しずつ動かして行くのだから相当な力が必要だ。


 集まった騎士達は総勢300名で、100名が内側を担当し外側には200名が行っている。

 外側は魔物と遭遇する危険があるので、半分の100名は櫓の護衛とモアラ大森林の監視を担当する。

 大城壁が出来てから、毎年4回定期的に行われて来た伝統だ。


 転落事故や強風による櫓の転倒など、危険の伴う作業なので安全には細心の注意を払っている。

 時には魔物の大群と戦闘になる事もあり、ひと口に点検と言っても通常のそれとは大きく違う。


「今の所、魔物は現れていないのだったな?」


「ええそうです。群れが現れる気配もないと聞きました」


「それなら少しは安心出来るか」


 初日の昼までは特に問題がなく進んでいる。軽度の問題ならばそれなりに起きているが、その程度でオーレルム領の騎士達は動じない。

 多少のトラブルなど慣れたものである。それに天文学者の予測では、天候が荒れる予想もなく風も穏やかである。


 1週間掛けて行われる大仕事であるので油断は出来ないものの、とりあえずの滑り出しは上々と言えた。

 雨が降ると大きな影響を受けてしまうので、晴れ渡る青空の下で作業が出来ているのも幸いした。

 酷い時は初日から天候が崩れて中断する事もある。


「エストリア様、上部に設置したバリスタの件で少し」


「構いませんよ。向かいます」


「装備に関する話ならば、俺も同行しよう」


 先日も装備品関係の要望を王都に出したばかりである。決裁が絡む話ならば、オズワルドも知っておく方が後々要望書を送る時に話が早い。

 天幕の側まで報告に来た中年の騎士に2人はついていく。等間隔に設置された尖塔の中を登っていき、最上階まで辿り着いた先に問題のバリスタが設置されている。


 問題となったのは、幾つかのバリスタが老朽化している事だった。

 2メートルの太い矢を打ち出す巨大な弩は、修理するにしても新たに製造するにしても結構なコストが掛かる。

 定期的にメンテナンスを行い大切に使用されて来たが、金属部分の錆つきと木造部分の腐食が進行していた。


「同様の症状が発覚しているのは何台あります?」


「20台ほど確認されております」


「20台と来たか……まだ増えるかも知れないな」


 壁面の確認と比べて、大城壁の頂上部分は確認作業が早く終わる。移動式櫓を使う壁面と、歩廊を確認していくのとは所要時間が違う。

 それ故に初日でもこうして、どんどん確認が進んでいくのだ。こうして歩廊の確認から先行して問題点が見つかるのは毎度の事。


 それは当然の流れとしても、内容は中々に深刻であった。エストリアから見ても症状的には、このまま使い続けるのは厳しいと判断出来る。

 防衛の要である兵器だけに、騙し騙し使うのはあまり望ましくない。思い切って新調したい所だが、手痛い出費であるのは間違いない。


「困りましたね……」


「国庫から捻出する様に俺から提言しておこう」


「ですが、よろしいのですか?」


「大城壁の守りがあってこそのレアル王国だ。父上も分かってくれるさ」


 初日から費用的な意味で辛い問題が発生したが、今のオーレルム領にはオズワルドが居る。

 辺境伯家からの要望と比べ、未来の王弟が出した要望の方が遥かに影響力は強い。

 早くも初日からオズワルドの王子としての立場が発揮されていた。

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