第33話 領地での仕事
オズワルドが本格的に移住を始めた事で、彼のライフスタイルには変化が生まれている。
先ず基本となる仕事が、オリバーやソフィアと共に領内の運営を手伝う事になった。
特にギリアム宰相や王族でなければ決定を下せない様な案件に関する話し合いが中心となる。
国防の要所であるオーレルム領に、オズワルドが居る価値はこれだけでも大きい。
今までなら王都に書類を送る所からスタートである。どんなに早くても1週間は返事が来ないので、どうしてもレスポンスが悪くなっていた。
だが今ではオズワルドが承認した書類を、ギリアム宰相に宛てて届けるだけで済む。
「ではオリバー殿、武具類の追加申請は俺の方で出しておきます」
「助かります。最近消耗が激しいもので」
「……魔物が増えているのか?」
「まだ例年よりは、という程度ですが」
大城壁があるからと言っても、完全にモアラ大森林を囲っている訳ではない。壁の外側から回られてしまうと、領内に侵入されてしまう。
壁の両端に小さな砦を用意してはいるが、大きく迂回された場合は完全に対処は出来ない。
それも計算に入れて、第2第3の砦を領内に配置はしているがその分必要な装備類は多い。
特に大城壁や砦から発射するバリスタの矢は再利用が難しく、基本的には使い切りとなっている。
次点で消耗するのは騎士が使う武器と防具である。領内の巡回で直接戦闘になる事も少なくないので、魔物の侵入が増えるとその分消耗は早くなる。
「夫と過去の記録を調べてはいますが、大規模な群れが発生するかはまだ判断出来ません」
「念の為だ、その件も宰相には知らせておこう」
「我々が間引きをしておりますので、今すぐ問題にはならないでしょうがね」
オリバーを筆頭に騎士達の仕事には、魔物を間引くという業務もある。
特定の種が異様に増えたりすると、大森林での生態系が乱れて大移動が起こる危険性がある。
そうなると厄介なので、事前にある程度調整している。
長年続けて来た仕事だけに、大体どの辺りのどんな魔物が居るかの分布図が作成されている。
前人未踏の最深部はともかく、レアル王国に近いエリアは大体の情報を握っている。
経験則と積み重ねのお陰で最深部の状況は分からずとも、生息域に変化が出ていればある程度の予測は立てられる。
現状はやや魔物の数が多いという程度で、危険信号とまでは言えない状況だ。
だがそんな時だからこそ、事前に備えておく事が重要である。
「エストリアは大丈夫だろうか……」
「未熟ではありますが、アレは巡回程度では怪我すらしませんよ」
「どうにも落ち着かないものだ」
現在エストリアは騎士達と領内の巡回に出ている。侵入したり住み着いたりしている魔物が居ないか確認して回る仕事だ。
オズワルドは既にエストリアが魔物を軽々と倒す所は見ている。しかしそれでも心配するのも無理は無い。
幾らエストリアが強いと言っても、1人の女性である事には変わりないのだから。
婚約者としては、もし何かあったらと不安なのだ。その強さを信用しているけれど、じゃあ何とも思わないかと言えばそんな事はない。
だが王子であるオズワルドは、自分の役目を果たさねばならない。不安だからとずっと着いて回る事は出来ないのだ。
「やっと私達の悩みを理解してくれる殿方が我が家に増えましたわ」
「え? それはどういう?」
「オーレルム家は戦いが好きですからね。帰りを待つ者の気持ちに疎いのですよ」
そう言いつつソフィアがオリバーに責める様な視線を向ける。これは藪蛇になったとオリバーは知らないフリをして書類に視線を落とす。
義母の意図を理解したオズワルドは苦笑する。オリバーやルーカスだってエストリアと同じだ。
進んで魔物の討伐に行くので、ソフィアやヴェロニカはいつも心配しているのだ。
ちゃんと帰って来ているとは言っても、心配しながら夫の帰りを待つ妻としての気持ちは常にあるのだ。
そう言う意味ではオズワルドもそちら側であある。エストリアという少し奔放な女性を妻にする以上は、常にその不安と向き合わねばならない。
「王族の俺はそう簡単には戦地に行けませんからね」
「もう少し配慮を覚えて貰いたいものですわ」
「…………む、むぅ」
この場は待つ側が2人で、待たせる側が1人である。どうしてみオリバーの立場の方が弱い。
もちろん戦いに出るのも大事であるし、領主一族が先頭に立つのがオーレルム家である。
それはずっと変わらない伝統で、今更変える様な事ではない。
しかしだからこそ、待たせている側へのアフターケアは大切である。だが悲しいかなオーレルム家の血筋はみな勇猛果敢な武闘派である。
その代償として異性に対する対応能力はやや低めである。帰るなり誇らしげに戦果を話す前に、先ずはパートナーを安心させる方が大切だがその辺りは鈍感だ。
「あの子も分かっているのかしら?」
「ま、まあ俺達はまだ婚約したばかりですから」
「ちゃんと教えたのですよ? どうしてこうなったのかしら?」
気まずそうなオリバーを尻目に、ソフィアとオズワルドは待つ者の心配について共有していた。
そして言うまでもなく、その頃エストリアは元気に魔物を狩っていた。
帰宅したエストリアが誇らしげに戦果を語る姿を見て、オズワルドはなるほどなと納得するのだった。




