第30話 国王との対面
結構な騒動となった婚約式だったが、どうにか終わりを迎える事が出来た。
だが第2王子ギルバートとその母親の離宮行きは大きな波紋を呼ぶ事になり、貴族達は暫くの間ざわつく事になるだろう。
特に第2王子派に所属していた者達は大慌てであり、身の振り方をどうするか選択を迫られる事となった。
一晩明けてもまだ慌ただしい王城の一角、オズワルドの私室ではギリアム宰相が深く頭を下げていた。
「私の行動が原因で、大変ご迷惑をおかけ致しました」
「もう済んだ事だ。そう気に病まないでくれ」
「そうは参りません。責任を取って宰相の職を辞する覚悟はございます」
「待て待て! 貴方に今辞められたら国が困る!」
ギリアムはただ印を貸しただけで、辞職までする程の重い罪ではない。確かに軽率ではあったが、せいぜい厳重注意で済む話だ。
過去の行いを大事にする様な話ではない。大体それを言い出すと第1王子アランについても、罪の追求をせねばならなくなってしまう。
そうなると再び王座を巡る政争が始まってしまう。それに今更アランもオズワルドを狙う気はない。
王になる事がほぼ確定した様な状況で、余計な争いを起こすつもりはないと言質が取れている。
オズワルドとしても政治において良くある暗躍として、これで済ませておく方が余計な禍根を残さずに済む。
「ですがオズワルド様……」
「申し訳ないと思うのであれば、より一層国の為に尽くしてくれ」
「殿下のご厚意に、必ずやお応え致します」
オズワルドとしては少々頼りない所のある兄アランの補佐を、ギリアム宰相に頼むつもりでいたのだ。
ここで辞められるよりも、続けて貰った方が遥かに国の為になる。その意思を伝えて、仕事に戻る様に促す。
ギリアム宰相が退室するのと入れ替わる様にエストリアが両親を連れて入室して来る。
婚約式を終わらせ暗殺者に関する問題も解決したので、両家の顔合わせがこれから行われるのだ。
状況が状況だった為に、オズワルドの父である国王との対面がまだ済んでいなかった。
特にエストリアは成人してから国王との面識がない。ここでしっかりと挨拶をしなければと、彼女は意気込んでいる。
「すまない、待たせてしまった。では行きましょうか」
「はい!」
本日のエストリアは、高位の騎士が着用する式典用の騎士服を纏っている。通常の騎士服よりも華美な装飾が施されている。
これはオーレルム家の正装であり、国王と対面をする際にと領地から持ち込んだ衣装である。
白基調の騎士服と青いマント。女性にしては背が高いエストリアには、非常に良く似合っており格好良く見える。
そんな女性騎士としての魅力をオズワルドは感じていたが、今は2人きりではない。
どうにかその気持ちを抑えてエストリアをエスコートする。そんな事には気付いていないエストリアは、国王への挨拶について脳内でシミュレーションしていた。
「父上、オズワルドです。オーレルム家の方々を連れて参りました」
「……おお、入ってくれ」
「失礼します」
オズワルドの父親であるエルビス・レアル・ファルガスが、寝室でベッドに寝かされている。
本来オズワルドと同じ鮮やかな金髪を持つ男性だが、病のせいでその輝きにも翳りがある。
瞳の色は違うものの、顔立ちはオズワルドによく似ている。オズワルドが40代になればこんな風になるのだろうと分かる風貌だ。
本来ならば大柄で精悍な男性なのだが、随分と痩せてしまっていた。友人でもあるエルビスの姿を見て、オリバーは悲しみを覚えた。
エルビスはオズワルドの様に民を大切にする王子であった為に、オーレルム領にも良く視察に来ていた。
子供の頃から何度も顔を合わせていたので、2人は親友と言っても良い関係だった。
「随分と、痩せてしまったなエルビス」
「情けない話だよ、こんな形での再会になるとはな」
「陛下、病状が随分酷いとお聞きしましたが……」
オリバーの妻であるソフィアも、エルビスとは何度も会っている。社交界や式典で同席する事も多く、知らぬ仲ではない。
それ故に彼が相当参っている事は見ただけで分かった。若かりし頃はオリバーと共に野山を駆け回っていた人が、寝台の上でやせ細った腕を晒している。
医者が診察した限りでは、不治の病と言われている心臓の病気だと判明している。
今すぐ死に至る程ではないが、もうかつての様には動けないだろうというのが担当医の見解だ。
そう遠くない内に、国王の座を息子に譲るしかないとエルビスも覚悟を決めていた。
「まだ死にはしないから安心してくれ。それよりも、紹介してくれないか?」
「そうですね。父上、彼女が俺の婚約者です」
「国王陛下、お久しゅうございます。エストリア・オーレルムでございます」
「あの頃のわんぱく娘が、随分と大きくなったな」
エルビスはエストリアが幼い頃、何度かオーレルム領に来ている。その際に何度か顔を合わせてはいたが、成人してからは一度も会っていなかった。
エルビスの中ではお転婆な少女のイメージが根付いており、今のエストリアを見て驚いていた。
彼の知る昔のエストリアは、子供用の木剣を片手に走り回っていた元気な子供だ。そのせいで良くソフィアに怒られていたものだ。
あの頃の少女が、今では立派な大人の女性となっているのだから驚くのも無理はない。
そして同時に安堵した、オズワルドの相手がエストリアで良かったと。
彼は国王として生きて来た人であり、目を見れば大体どんな人間か読み取る事が出来る。
「昔と変わらぬ真っ直ぐな目をしておるな」
「そ、そうでしょうか? 自分では良く分かりません」
「息子に苦労をさせて来た私が言うのもなんだが、お願い出来るだろうか?」
「お任せ下さい! 私が必ずオズワルドを幸せにします!」
難しい事は分からないけれど、それだけは絶対に守ろうと決めた彼女なりの誓いだ。
そんなエストリアの真っ直ぐな答えを聞いて、エルビスは優しい笑みを浮かべていた。




