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第28話 護衛としての戦い

 婚約式が行われていた大ホールに複数の暗殺者達が乱入して来た。それと同時に城内の一部で爆発が起こり、王城内は大混乱に陥っている。

 ホール内にも爆発音は届いた為に大騒ぎになっている。恐怖でパニックになっている令嬢達が騎士達に落ち着くように諭されている。


 トールを始めとしたオズワルドの護衛達が、暗殺者の集団を全力でブロックしたがそれでも尚突破出来るだけの人数が侵入していた。

 そんな大混乱の中で、エストリアとオズワルドは暗殺者達と対峙している。


「はぁっ!!」


「ぐはぁっ!?」


「ちくしょう!? 何だこの女は!?」


 良く訓練された暗殺者達であったが、それでもエストリアの守りを突破出来ずに居た。

 守られているオズワルドは決してエストリアの側を離れず、以前に言われた通り自身を守る事に徹しており無駄がない。


 暗殺者達が数の有利を活かそうと複数人で同時に攻撃したが、全てを華麗に捌かれてしまい一度に2人がダウンした。

 両手に持った短剣を巧みに操り、攻撃を受け流し弾き返す。そこで出来た僅かな隙を突いて、長くしなやかな脚から繰り出された蹴りが意識を刈り取る。

 暗殺対象のオズワルドはしっかりと自分を守り、暗殺者は相変わらず手が出せない。そんな繰り返しの中で更に追加で1人が倒された。


 オズワルドを守るその隙の無さに攻めあぐねている内に、7人居た暗殺者は4人まで減らされていた。

 一瞬の出来事に暗殺者達が呆気に取られていると、続く反撃が4人目に向かって放たれる。

 両足の腱を素早く切り裂かれ、蹴り飛ばされた4人目は柱にぶつかって意識を失った。


「大丈夫ですか、オズワルド」


「これぐらいなら平気だ」


「もう少しの辛抱です。すぐに兄上が来てくれる筈ですから」


 暗殺者達が陽動までしたのは、レアル王国の騎士達の優秀さを知っている為だ。

 爆発で混乱している間に素早く対象の暗殺を試みたが、そろそろ時間的に厳しくなって来た。

 これ以上長引けば、ホール内の異常に気付かれ騎士団が突入して来るだろう。


 そうなれば暗殺者達も逃げ出すのが非常に難しくなる。彼らは第2王子ギルバートの手引きで侵入出来ただけで、騎士団と真っ向からやり合える程の戦闘能力はない。

 彼らの本職はあくまで人間の暗殺であり、エストリアの様に強力な魔物と戦う事ではないのだから。

 どんどん悪くなる現状に焦った1人が、強力な神経毒を仕込んだ針を投擲する。


「させません!」


「えっ……?」


「何だ今のは!?」


 オーレルム家伝統の弩返(おおゆみがえ)しで跳ね返った金属の針は、毒針を放った暗殺者の腹部に綺麗に突き刺さっていた。

 間抜けな一言と共に針を投擲した男は、自ら使った毒に体の自由を奪われその場に倒れた。

 仕込まれていた毒は成人男性でも数時間は自由に動けなくなる代物。これで7人居た暗殺者達は残り2人になってしまった。


 彼らとてプロとしてやって来たが、ここまで僅かな時間でこうも簡単に撃退された経験は無い。

 なまじエストリアが表舞台に出て来なかっただけに、彼らは相手がオーレルム家の人間だと知らなかった。


 知っていれば撤退の二文字が頭をよぎる所だが、如何せんエストリアはただの美しい令嬢にしか見えない。

 若い女性を相手に逃げ出したなど、彼らの沽券に関わる大問題だ。ここで引き下がる事は出来ない。


「おのれぇ!!」


「甘いですよ!」


 迫るリミットに焦って飛び掛かった男の剣は、刃先を交差させたエストリアの2本の短剣に受け止められた。

 そのまま思いっ切り跳ね上げられた男の両腕は、後方に大きく弾かれる。


 どこにそんな腕力があるのかと驚愕する男の視界には、低く屈みこんだエストリアの姿が映った。

 次の瞬間にはエストリアのドレスが翻り、何が起こったのか分かっていない男の顎をエストリアのつま先が綺麗に打ち抜いた。

 傍から見ていた者達には、エストリアが満月を描くかの様に綺麗な後方宙返りをした姿が映った事だろう。


「侵入者共を捕えよ!!」


「カイルお兄様!」


 大混乱のホール内に、騎士団が飛び込んで来た。先頭に居るのはオーレルム家の次男。

 長い赤髪を後ろで一纏めにしている、眼鏡が似合う細見の男性。深紅の騎士と呼ばれているカイル・オーレルムである。


 彼の命令で駆け込ん来た精悍な騎士達が、一斉に暗殺者達を捕縛する為に駆け抜けて行く。

 オズワルドの方はエストリアがほぼ1人でノックアウトしたが、王妃やトール達の方はまだ暗殺者達がピンピンしている。


 最早オズワルドの暗殺失敗は確定であり、せめてもの意趣返しにと残された1人がエストリアを背後から狙う。

 その様子に気付いたカイルが、一気に距離を詰めて暗殺者の下へと向かう。


「「エストリア!!」」


「はい?」


「あがっ!?」


 当然エストリアが油断などする筈も無く、振り向く様にして打ち抜かれた肘が暗殺者の顎を的確に捉えた。

 下手にエストリアを狙ったせいで、怒れる兄の拳もまた暗殺者の腹部に突き刺さっている。

 当然すぐ近くにいたオズワルドも気が付いていたので、思わず放った全力の蹴りが脇腹にめり込んでいる。


 三者三様の一撃を受けたこの男こそが、この件で一番の重傷者になるだろう。

 命こそ落とす事はないと思われるが、顎と肋骨の骨折に内蔵へのダメージが重なり数ヶ月はベッドの上である。

 少しだけ可哀想な気もしなくはないが、暗殺を狙った結果が重症で済んだだけましだろう。

 王族の暗殺未遂という大罪を犯して、下される刑罰がどうなるのかは兎も角として。


「エストリア……その……スカートで飛んだり跳ねたりは止めてくれ」


「何故ですかオズワルド?」


「何故って……良いから! 騎士服の時だけにしてくれ。頼むから」


 エストリアとオズワルドがそんな会話をしている所に、第2王子ギルバートを捕縛したオリバーとギリアム宰相がホールに姿を現した。

 捕まったギルバートは、エストリアと共にいるオズワルドを睨み続けていた。

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