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第27話 シャルウィダンス

 多少のトラブルはあったものの、和やかなムードで婚約式は進んで行く。ここからは婚約式の目玉であるダンスの時間だ。

 今回婚約が決まった2人や、この機会に新たな相手と出会った2人。そしてお世話になった人や家族と踊る華々しいひと時だ。


 ルーカスがどうしても会場に来たかった理由がここにあった。残念ながら彼はオーレルム領でお留守番である。

 そしてもう1人の兄である次男のカイルは王国騎士団の副団長として、会場の警備に駆り出されていた。


 もちろんそれは非常に不本意であり、暗殺者騒動の犯人を全力で見付けると怒りに燃えていた。

 そんな怒れる兄の気持ちを知らぬエストリアは、会場内でオズワルドと共にダンスを始めようとしている。


「エストリアはダンスも得意なのか?」


「踊れはしますよ。体を動かすのは得意ですから」


「貴女のペースについていけるだろうか……」


 これまで暗殺者への警戒が中心の生活であり、2人でダンスを踊る機会が無かった。それ以外に考えないといけない事が多かったのもある。

 それにエストリアは社交の場に出ないタイプであり、婚約者と踊りたいなんて欲も特にない。


 故にこれがぶっつけ本番となった。エストリアの運動能力を知っているだけに、オズワルドは彼女に着いていけるか不安を覚えた。

 何でも無難にこなす彼でも、体力は普通の一般的な男性とそう大きく変わらない。オーレルム家の様にフィジカル特化な家系の出身でもない。


「大丈夫ですよ、オズワルドぐらい動ける人なら」


「お、お手柔らかに頼むぞ?」


「さあ、始まりますよ!」


 王城に勤めている楽団が、緩やかなメロディーを奏で始める。始まりは音を楽しむ程度のリズムで、それ程激しいダンスパートではない。

 もちろんエストリアもそれは分かっているので、最初から飛ばしたりはしない。ちゃんと音楽とオズワルドに合わせたペースを維持している。


 だが動きのキレまでは誤魔化しきれず、一緒に踊っている他の男女と比べると目を引いていた。

 エストリアの腕前に翻弄されない様に、オズワルドも負けじと着いていく。そんな彼を見ていると、エストリアは楽しくなって来た。

 教育として教わって来たダンスとは、また違った高揚感を覚えている。


「流石だなエストリア。ダンスもお手の物じゃないか」


「何だか楽しくなって来ました」


「まだ俺も余裕がある。付き合おうじゃないか」


 徐々に音楽も盛り上がりを見せ始め、ダンスの難易度も上がって来た。この辺りからは上手い下手が露骨に出る様になって来る。

 肉体能力だけでなく、パートナーへの信頼度も重要だ。お互いの息が合っていないと、乱れが生まれて纏まりがなくなる。


 これから同じペースで日々を過ごしていける相手か、そこを問われる重要な場面だ。

 自分勝手なダンスを踊る様な相手では、結婚してからも息は合わないだろう。


 だからこそ相手を見つける場としても、非常に理に適っているのである。

 ではその点2人はどうなのかと言えば、初めて一緒に踊ったとは思えない程にピッタリであった。


「おお、流石はオーレルム家のご令嬢だ」


「エレイン様を思い出しますな」


「あの方も素晴らしい女性でしたわ」


 エストリアがその運動能力を活かし、クルクルと舞う様に踊る。それを上手くコントロールしているオズワルド。

 2人の姿を見た高齢の貴族達は、エストリアの祖母であるエレイン・オーレルムのかつての雄姿を思い出していた。


 エレインはエストリアと同じく、身体能力に秀でたオーレルム家直系の女性である。

 強く美しい女性であった彼女は、現役時代は非常に有名な貴族女性だった。

 踊れば可憐、戦えば勇猛と当時は皆の憧れであった。


 そんなオーレルム家の令嬢として恥じない活躍を見せたエストリアと、彼女の夫として相応しいだけの格を示して見せたオズワルド。今回の婚約式は2人の独壇場であった。


「こんなに楽しかったのは初めてです」


「ふぅ、何とか着いていけて良かったよ」


「オズワルドも十分上手かったですよ?」


 ダンスが終わり微笑み合う2人に、会場からは大きな拍手が送られた。そうそう見れない流れる様な舞に、見ていた人々は感動していた。

 どんどん鰻上りで上がって行く2人の評価に、第1王子派と第2王子派の貴族達は肩身が狭くなっていく。


 見るからに有能と分かる才気溢れる2人と比べると、第1王子アランと第2王子ギルバートは役者不足感が否めない。

 オズワルドにそんなつもりは無かったのだが、醜い争いを繰り広げる2人の兄との差がどんどん鮮明になって行く。


 そんな空気が広がって行く中で事件は起こった。急に複数の窓ガラスが割れ、怪しい男達が大ホールに侵入して来た。


「オズワルド! (わたくし)から離れないで下さい!」


「ああ! 分かっている!」


 エストリアはスカートの中に仕込んでいた二振りの短剣を素早く抜いて両手で構える。

 オズワルドも式典用ではなく意図的に持って来ていた普段から使用している愛剣をスラリと抜き放つ。


 この場で最優先に守らねばならないのは王妃だ。会場内に居た騎士達はすぐに王妃の守りに入る。

 そちらにも何人かの侵入者達が向かうが、彼らの大半はオズワルドを狙っているらしい。


 背後を取られない様に背中合わせになって、エストリアとオズワルドは暗殺者達と対峙する。

 先程のダンスでも息がピッタリだった2人に、不安など何処にもない。


「まだ武踊(ダンス)の続きがあるみたいですね」


「どうやら、そうらしいな」


「いきますよ!」


 複数の暗殺者達からオズワルドを守る、そんなエストリアの護衛役としての戦いが始まった。

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