第24話 第1王子と婚約者
新しく婚約が決まった貴族達の紹介と入場が終わった後は、歓談やディナーを楽しむ時間になる。
同時に婚約出来なかった者達が、必死になってお相手を探す時間でもあった。
いつもならただそれだけの時間に過ぎないのだが、今回はそれだけではない。注目を一気に掻っ攫った辺境伯家のご令嬢について、あちこちで話題になっていた。
貴女なんてオズワルド様に相応しくないわ! と言ってやろうと画策していた令嬢達は皆エストリアから目を逸らしている。
どこかバカに出来る様な部分でも無いかと探している者も居るが、特に欠点らしい欠点はない。
敢えて無理やり上げるならば、所作が騎士の様な女性だと言う事ぐらいである。
「誰だ適当な噂を流していたのは、お美しい方ではないか」
「そもそもあのソフィア様のご息女だぞ? 美しいに決まっているだろう」
「見ろ、にこやかに笑っておられる。とても魔物なんて殺せそうには見えないぞ」
実際にエストリアを見た貴族達は、彼女の美しさを見て一気に掌を返している。ただ一部では勘違いが生まれてしまってもいる。
にこやかに微笑んでいるのは、貴族が大勢いるので取り敢えず笑顔で居れば良いだろうと考えているだけだ。
良く分からない時は笑顔で、というのがエストリアの処世術である。
そして魔物を殺せるのはただの嘘では無く真実である。可憐な令嬢っぽく見えているだけで、れっきとしたオーレルム家のフィジカルエリートである。
今この会場内に居る男性で、エストリアに力で勝てる者は居ない。会場の周囲も含めればレアル王国最強の剣士、オーレルム家の次男カイル・オーレルムが居るけれども。
「しかしまあ、オズワルド様が一番聡明だと言う話は間違い無かったな」
「兄達の顔を立てて、自分は辺境行きだ。やはり王位にはオズワルド様が就く方が良いのでは?」
「エストリア嬢は領地を継がんのだろう? ならばその道も残されているぞ」
エストリアだけでなく、オズワルドも高く評価されている。その中心となるのは中立派の貴族達だ。
第1王子と第2王子の対立を冷ややかな目で見ている彼らには、潔く身を引いて見せたオズワルドこそが王に相応しいと考え始めている。
これはエストリアが非常に美しい令嬢であった事と、母ソフィアに良く似ている事が主な原因だ。
エストリアには王妃として見劣りしないだけの美貌がある。そしてソフィアが高い知性を持った女性だったので、そのイメージが付いてしまっていた。
その本人は今、王都の料理も美味しいなぁ等と考えていると言うのに。そしてその現状を見て、母は頭を抱えていた。
「どうだろうエストリア? 城の料理は」
「とても美味しいですよ。少しオズワルドの料理に似ていませんか?」
「ははは! それは俺に料理を教えてくれた料理長が作っているからだ」
なるほどとエストリアは思った。彼女はオズワルドの優しい味がする手料理が気に入っている。
何となく似ていると感じたのは、きっとその料理長も優しい方なのだろうとエストリアは考えた。
エストリアは暗殺者の襲撃に警戒してはいるが、同時にオズワルドとの婚約式を楽しんでもいる。
愛する夫となる人との華やかなパーティーは、エストリアにとって初めての経験だ。
浮かれるなというのも無理な話。1人の女性として、今が幸せな時間であるのは間違いない。
絶対にこの人を守り抜くという決意と、今を楽しむ気持ちは両立出来ない事はない。
それが出来てしまうだけ、エストリアは心身共に強い女性だ。そんな彼女の前に、1組の男女が現れた。
オズワルドと同じ鮮やかな金髪を持つ男性と、小柄で高飛車な印象を受ける金髪縦ロールの女性だ。
「アラン兄上……」
「ふん、お前も漸く婚約か」
「エストリア、この人が俺の兄で第1王子のアラン・レアル・ファルガスだ」
「お初お目に掛かります、エストリア・オーレルムと申します」
淑女の礼ではなく、女性騎士としての礼を披露するエストリア。男性の騎士は握った右拳を左肩に当ててお辞儀をするのが基本だ。女性騎士の場合は左右が逆になる。
これは例え女性であっても、騎士として生きるオーレルム家としては当然の行いである。
周囲で遠巻きに見ていた、その事を知っている年嵩の貴族達は何も違和感を覚えない。
オーレルム家直系の女性は昔からこうであり、公の場でも失礼には当たらない。
しかしオーレルム家直系の女性を見た事が無い若い世代はそれを知らなかった。
第1王子のアランと共に居た彼の婚約者、レティシア・オーバーンは勝ち誇った様にエストリアに向かって言う。
「貴女なんですのそれは? 淑女の礼も出来ませんの?」
「ええっと、妹君でしょうか? 王女が生まれていたとは知りませんでした」
「い、妹さんですって!?」
「今のは女性騎士の礼で、オーレルム辺境伯家に生まれた女性は皆こうするのですよ」
勝ち誇ったつもりでマウントを取りに行ったレティシアだったが、その低い背丈と童顔である事からエストリアに子供扱いされてしまった。
レティシアはエストリアよりも4歳年上だが、常識を知らない幼い王女だと思われてしまったのだ。
田舎者を馬鹿にした筈が、逆に子供扱いされた事に憤慨するレティシアが反論しようとした。
しかしその瞬間には年嵩の貴族達にエストリアの返しが受けて、笑い声が会場に広がった。
追随しようとした令嬢達は出鼻を挫かれ即座に知らないフリをする。クスクスと笑っておいてそれは厳しく、冷ややかな視線が彼女らに向かう。
そんな状況を打開しようと、アランはオズワルドとエストリアに向かって嫌味を言う。
「オズワルド、どうせなら大木と結婚したらどうだ?」
「兄上!」
「ええっと、アラン様? 植物と人間は結婚出来ませんよ?」
王都流行とは真逆である、背の高いエストリアをアランは揶揄した。その意味をオズワルドは即座に理解して、声を荒げた。
しかしやや天然の気があるエストリアの発言で全てが覆った。嫌味というのは相手に通じれば効果を発揮する。
だが逆に通じなかった時は、嫌味を言った側が恥をかく事に繋がる。今回はまさにそうで、レティシアを庇おうとしたアランも笑われる事になってしまった。
特に中立派が勢いをつけつつあるこの会場では効果が覿面だった。第1王子のアランとその婚約者が下手を打った形となり、2人に向かって冷ややかな視線が向けられる。
そんな状況を即座に生み出すエストリアが、オズワルドには面白くて仕方がない。
「あははは! そうだぞ兄上、エストリアの言う通りだ。どうやって木と結婚すれば良い?」
「チッ! 興が削がれた! もう良い!」
「えっ? アラン様!?」
逆に笑われる立場となったアランは、憤慨して会場を出て行く。会場の注目を一手に集めたエストリアに、恥をかかせようとしたレティシアは状況の変化に困惑する。
レティシアは慌ててアランを追い掛けるが、結局目論見を果たせぬまま終わった。




