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第19話 オーレルム流剣技 is a Physical

 エストリアとオズワルドの婚約を発表してから、2人は少しずつ婚約者としての時間を増やしている。具体的に言えば2人きりで過ごす事だ。

 流石にいつでもどこでもではないが、それなりの頻度で2人だけの時間を満喫していた。ただ両者ともに初恋同士であり、スマートな恋愛とは言えない。


 だがその分非常に健全であり、とても甘い空間を作りあげている。本日は麗らかなお昼下がりに、オーレルム邸の庭でアフターヌーンティーを楽しんでいた。


「その、俺が作ったんだ。良かったら食べてくれ」


「まあ!? 美味しそうですね!」


「少し前から、王都で流行っている菓子だ」


 オズワルドが差し出した籠には、焼き立てのマフィンが入っていた。料理が得意なオズワルドは、こうしてエストリアの為に手料理を良く作っている。

 今回作ったのは、半年程前に他国から流入して来た菓子だ。現在王都で流行っている品は、もう少し甘味が強い。


 しかしオズワルドが作ったのは甘さが控えめであり、代わりにハチミツを塗る事で甘さを調整する。

 こと料理においては健康に気を遣うのが彼の基本的な方針である。砂糖が高価だというのもあるが、食べ過ぎて体を壊した貴族が少なからず居る事が理由である。


「ハチミツは健康に良いと聞くが、付け過ぎには注意してくれ」


「そうなのですか。オズワルドは博識なのですね」


「医者に聞いただけだよ」


 立場的に兄達よりは時間的余裕があった事から、オズワルドは知識と経験が豊富である。王としてではなく、その補佐の役目を求められたからというのもある。

 2人の兄は内政や外交など、政治の勉強を中心に教え込まれている。オズワルドも教わってはいるが、その比率はかなり違う。


 例えるならば兄達は深く広く、オズワルドは浅く広くと言った所だ。本来ならばそんな3人で協力して国を支える筈だったのだが、残念ながら兄達2人は相変わらずだ。

 現時点で与えらえた役割をこなせているのは、この国の要所であるオーレルム領への婿入りを決めたオズワルドだけだ。


「凄く美味しいです!」


「エストリアが喜んでくれて良かった」


「オズワルドが作る物は何でも美味しいです。魔法みたいですね!」


 兄達からは未だに婚約のお祝いなど一言も届いていない。それでもオズワルドは構わない。

 何故ならこうして、オズワルドに笑顔を向けてくれる愛らしい婚約者がいるからだ。

 この地で共に過ごし、そして共に領民達を守ると決めた今、もうオズワルドは覚悟が決まっている。


 今更兄達に何かを言われた所で揺らぐ事は無い。命を狙われても、不安に思う必要はない。強くて優しいエストリアが、共に居てくれるのだから。

 これからはどうやって、この美しい女性を幸せに出来るかを考えねばならない。領地の繁栄についても考えねばならないが、何よりも先ずは婚約者との将来を優先せねばならない。


「魔法は大袈裟だとは思うが、貴女の為なら何でも作ろう」


「な、なんだか照れますね」


「食べたいものは何でも言ってくれ」


「は、はい……ん?」


 彼の真っ直ぐな好意に照れ照れだったエストリアだったが、それでも彼女は騎士として生きて来た女性だ。いつ何時であろうとも、その勘は常に働いている。

 視界に入った違和感に、戦う者としての意識が反応した。オーレルム邸の外、高く聳え立つ大木の枝に僅かな光を見た。


 そこからの行動は良く訓練された者のそれである。即座に椅子から立ち上がると、脇に立て掛けていた愛剣を手に取る。

 エストリアは何事か分かっていないオズワルドの背後へと即座に回り込む。そして鞘が付いたまま、彼女は剣の腹を振り抜いた。


「はっ!!」


 エストリアの眼にはしっかりと視えていた。高速で飛来する金属の鏃が。

 正確に芯を捉えて振り抜かれたエストリアの剣は、矢をそのまま射て来た本人へと()()()()()()()()()


 何がどうなってそうなるのかは分からないが、これぞオーレルム家に伝わる伝統の技。

 鍛え抜かれた筋力を柔軟に使い、尚且つ力強く腰の入った一振りにより飛翔物を相手に反射させる技術。

 対象は弓矢だけに留まらず、石礫や針など何でも相手に返す技だ。弩返(おおゆみがえ)しと呼ばれている、オーレルム家の人間以外には一切理解出来ない曲芸である。


 常人には意味不明な妙技により、猛毒が塗られた矢は暗殺者の肩を正確に貫いた。

 それを確認するよりも先に、エストリアは危険を知らせる為の笛を思い切り吹いた。

 すぐさま訓練されたオーレルム領の騎士達がすぐさま駆けつける。


「エストリア様!? どうされました!?」


「下手人です! あそこの樹に!」


「すぐに捕らえます!」


 意味の分からない人外の技で毒矢を返された暗殺者は、呆気に取られて肩の痛みも忘れて立ち尽くしていた。

 そして鏃に塗った猛毒を思い出し解毒しようと焦って行動し、解毒剤を飲む事には成功したが枝の上から落下した。


 高所から落下した激痛にのた打ち回っていた所に、騎士達が到着し無事拘束される事となった。

 エストリアはオズワルドの側を離れず警戒していたが、どうやら暗殺者は今の1人だけだったらしい。

 オーレルム領の厳しい警戒を突破するのは簡単ではない。恐らくはあの1人だけがどうにかここまで来られたと思われる。


「もう大丈夫です!」


「エストリア、今のは一体?」


「矢を打ち返しました!」


「…………は?」


 突然エストリアが動いたかと思えば、矢を打ち返して暗殺者が拘束された。それだけと言えばそれだけだが、オズワルドには意味が分からなかった。

 未だに命を狙われていた事よりも、超人過ぎる婚約者の方がオズワルドには衝撃的だった。

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