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復讐者たち~元公爵令嬢と生意気ネクロマンサー シーズン3~  作者: そら・そらら


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41.アーシャの本性

「お母さん。あなたを追い出すつもりは無いわ。ひとりで生きる力もないから、すぐに野垂れ死ぬでしょうけど、その前に軍に告げ口されるのは嫌。だから、うちに閉じ込めるわ。これがわたしの、最悪な両親への復讐なの」

「ああ……なんてこと」


 一瞬にして人生を閉ざされた女が顔を覆って嘆く。アーシャは母のそんな姿に興味はないらしい。


「それから、ナベプタ。あなたよ」


 こちらを見つめるアーシャの冷たい視線に、ナベプタは身震いした。


 背も低く、体つきもナベプタと比べれば細いアーシャに見つめられると、何も言えなかった。アーシャの方も会話を望んでいないのか、一方的に話す。


「あなたには感謝してるのよ。突然現れて、父の組織が役所に目をつけられるきっかけを作って、幹部のひとりを殺してくれたんだから。リフに連れられて家に来た時、必死で考えたわ。で、あんたの力をうまく使って、手も汚してもらいながら邪魔者を排除することにしたの」


 まさか。アーシャは俺を利用したのか? 今までと違う喋り方のアーシャに、ナベプタは恐怖しか感じなかった。


「あんたが寝ている間に味方になりそうなのに声をかけて、わたしに靡かない奴のうち家で待機してる奴はあなたに殺させる。そしてビョルドンの隠れ家に総攻撃を仕掛ける。全部うまくいったわ。あなたのおかげ。感謝してるわ」

「そ、そうか。良かった……」


 アーシャの気迫に呑まれながらも、笑顔で感謝と言われて、この子は味方なんだと考えた。ナベプタも口元に笑みを浮かべる。困惑を隠すような、情けない笑みだ。


 それを見たアーシャは表情を一変させて、ナベプタの鼻を思いっきり殴った。下からの、さほど威力のない拳だけど、不意打ちだし急所だ。


「あがっ!? あっ!?」


 痛みと共に、鼻から血が流れるのを感じた。


「そのニヤケ面! 大嫌いなのよ! わたしの顔と胸を見て、ずっとニヤケてたでしょ! 何を想像してたの!? わたしと何するつもりだった!? 終わったら伝えたいことがあるって言ってたわよね? まさか、わたしに結婚でも申し込むつもりだった? ふざけないで! あんたみたいな不潔なデブ、お断りよ」

「あ、アーシャ? なんで?」

「初めて見た時から嫌いだった。利用価値があるから付き合ってただけ。手を握るだけでも寒気がしたわ! なのにあんた、全然気づかなかったわよね。鼻の下伸ばして。気持ち悪い。てか、ここも膨らませてたんでしょ?」


 アーシャの視線はナベプタの股間に向かっていた。確かに、彼女との将来を想像して、そうなったことはあったけれど。


 彼女は突然、ナベプタの股間を蹴り上げた。


「ぐふっ!?」


 痛みに内股になり、股間を押さえるナベプタは完全に無防備になり、あろうことか体重で劣るアーシャに正面から蹴られて転倒。尻もちをついてしまった。

 弾みで足を広げてしまい、そこをアーシャは踏みつけた。


「ああああっ!?」

「うるさい! 黙れ! どうせ使い道がないもんだろ! 無くなっても誰も気にしない!」


 汚らわしい性欲を向けてきた腹いせとばかりに、アーシャは体重をかけて股間を踏みしめる。想像を絶する痛みと、潰れて使い物にならなくなる恐怖でナベプタは叫んだ。目から涙が溢れて、鼻からも血と鼻水が混ざった液体が流れる。


 周りは誰も止めようとしない。組織の今後を担う若者たちが、新しいリーダーの蛮行をはやし立てて、ナベプタの情けない姿に笑い声をぶつける。

 気を良くしたアーシャが彼らに語りかけた。


「ねえ。誰かナイフ持ってない? こいつの股、完全に使い物にならなくしてあげる。どうせこれから殺すけど、仕返ししなきゃ気がすまないもの」


 ひとりが、テーブルに置かれていたナイフを渡した。

 焼いた肉を切るためのもので、さほど切れ味が良いとは言えないそれを、アーシャは楽しそうに見せびらかす。


「いいわね、これ。素敵じゃない?」


 ナベプタの前で振り、近くの壁に当ててキンキンと音を立てる。そうやって恐怖を煽った上で、ナベプタのズボンを脱がして股間に当てた。

 テーブルナイフのギザギザした歯が敏感な所に当たって、悲鳴を上げるしかなかった。切れはするけど時間がかかり、ただた痛みを与えられるだけ。


 なんでこうなった? 死にたくない。誰か。助けて。誰でもいい。


 助けは来なくて、アーシャに股間をズタズタにされるしかなかった。


 どうせ殺すと言っていたのに。殺すなら、こんなことしなくていいはずなのに。


 アーシャは血まみれのナイフをまた壁に当てて音を立てながら、ナベプタの顔を覗き込んだ。


「あー。ムカつく。その顔、本当に大嫌い。特に、わたしにやらしい目を向けるのが嫌。その目、潰しちゃおうかしら」

「や、やめて……」

「やめないわよ。やると言ったことはやる。そういう姿勢を見せないと、手下たちはついてこないから」

「そんな。な、なんでこんなこと……」

「あなたの存在がムカつくのよ。社会でまともに生きられない、人間失格のデブのくせに。英雄気取りで馬鹿みたいに暴れて。勇敢なるイビルスレイヤー? ダサい名前。そんなので誰かから褒められると思ってるのも馬鹿よね。何より、わたしにそういう目を向けてきたのが許せない。だから殺す。痛めつけて、後悔させてから殺す。それだけよ」


 そしてアーシャはナイフをナベプタの片目に向けて、刺す。瞼を閉じて抵抗するナベプタだけど、そこの筋力なんて鍛えようがない。無理やりこじ開けられて、中にナイフの切っ先が刺さった。


「結構固いのね。知らなかった。これ、潰すよりえぐり出した方が早いかしら。でも、目を見るのが嫌なのよねー」


 呑気な独り言と共に体重をかけてナイフを押し込めば、パチンと音がして眼球が潰れた。眼窩の中で、液体がトロリと流れる感覚がした。


「ああああぁぁぁぁぁ!」

「うるさい! もうひとつもあるんだから!」


 頬を叩いて、アーシャはもう一方の目を潰そうとした。アーシャの部下たちがナベプタを押さえつけて抵抗できないようにした。

 目にナイフが突き立てられ、潰される。助けは来ない。


 またパチンと音がして眼球が潰れた。


 その直前、ナベプタが見た最後の視界の端で、ダイニングに誰かが駆け込んでくるのが見えた。


 ユーファの姿だった。彼女がここに来るはずはない。恐怖のあまりに見た幻覚なのかな。


 確かめる暇もなく、ナベプタの視界は永遠の闇に閉ざされた。

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