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復讐者たち~元公爵令嬢と生意気ネクロマンサー シーズン3~  作者: そら・そらら


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39.ビョルドンの隠れ家

 アーシャに連れられてナベプタは歩く。大通りを抜けて、ヘラジカ亭の前も通り過ぎた。中を確認する余裕はなかった。ユーファは今日も働いているだろうか。この俺が来るのを待っているかな。偉大な英雄になって会いに行けば、彼女は喜ぶだろうか。


 そんな妄想をしていると、なんとなく街が騒がしいのに気付いた。兵士が駆け回っていたり、なにか警戒していたり。


 夜というのもあって人通りは多いけれど、みんな何かに怯えているようにも見えた。周囲をキョロキョロ見回したり、同行人とひそひそ話したり。

 何人もの死体がみつかった。そんな会話が聞こえた。


「落ち着いてください。ナベプタさんの仕業だなんて、誰もわかりませんよ」

「そうは言っても……」


 この状況で落ち着いているアーシャを、ナベプタは理解できなかった。


「大丈夫です。全部うまく行ってますから。たしかに死体が出れば軍は動きます。けど、すぐに死んだのは全員悪人だと気づくでしょう。その事実が明らかになれば、まずは人々が噂します。勇敢なるイビルスレイヤーはちゃんと街の悪を殺している。街の平和を守っている。英雄だと」


 ああ。さっきも聞いた。だから勇敢なるイビルスレイヤーは兵士も手が出せない存在になれる。英雄となり、誰もに持て囃される。


 アーシャに言い聞かされて、ナベプタはなんとか気持ちを落ち着かせようとした。けれど無理だった。


 一度は慣れて、何も感じなくなったと思った殺人への恐怖が、急に蘇った。

 栄光がすぐそこにあるとしても。助けを求める女が隣にいたとしても。


「あ、あと、ひとり」

「え?」

「あとひとり。ビョルドンを殺したら、しばらくの間は隠れたい。兵士からも、街の人からも姿を消す。ちゃんと俺の活躍を世間が評価して、英雄として出ても問題ないってわかるまで、隠れるんだ」

「ええ。いいですね。そうするべきです」

「アーシャ。君の家に隠れたい」

「構いませんよ」


 その言葉を聞いて安堵した。彼女は俺の味方だと。俺の言うことをなんでも聞いてくれる。


 一度は落ちた気分が、再び上向いた。



 城を掠めるように通り過ぎて、貴族の屋敷が立ち並ぶ区画の近くを歩く。区画の周りには、貴族までは行かなくても裕福層が住んでいる一帯がある。ナベプタには縁がなかった場所だ。


 裕福層は、遅くまで外で遊んだりはしない。通りは静かだった。何人か、男とすれ違ったけれど。なぜか、みんなナベプタやアーシャを見つめているようだ。そして、それとなく後をつけているように見えた。

 自分の背後を歩く足音が増えていく。みんな、つかず離れずで、誰かに見咎められても偶然同じ方向に歩いているだけと言い訳できそうな距離感。


「気にしないで。彼らは味方です」

「味方?」

「言ったでしょう? 組織の中にも、わたしに同情的な人はいるって」


 言っていたけれど。ちらりと後ろを振り返れば、若い男ばかりだ。殺してきた年配の奴らとは違う。

 彼らは悪人ではないのか? こちらは英雄なのに、悪人を味方としていいのだろうか。


「ここです」


 考えがまとまる前に、アーシャは止まった。後ろの足音も同じ。

 そこそこ大きい一軒家。中の灯りはついていて、人の声が聞こえた。酒でも飲んでいるのか、陽気な笑い声がする。それも複数の。


「ビョルドンが所有する隠れ家です。組織に何かあった時の退避場所。軍は組織の本拠地は把握してるでしょうけど、ここは知らない」

「ということは、兵士が踏み込んでくることはない?」

「はい。ビョルドンを殺して、奴が抵抗して助けを求めても、軍は来ません」


 殺しの仕事をするにはぴったりか。

 アーシャがドアの前に行き、叩く。


「遅くなってごめんなさい。アーシャです。開けてください」


 呼びかけに、中で反応があった。騒ぎが一瞬だけ収まったと思えば、中で早足で移動する音がした。ドアが開いて、中から顔を出したのは中年の女だ。

 なんとなく、アーシャに顔が似ている気がした。


「どうしたの、こんな時間まで何を――」


 その女の腹を、真正面からアーシャが蹴飛ばす。明らかに喧嘩とは無縁そうな女は苦しみの声を上げながら尻もちをついた。


「突入! さあ! ナベプタさんも! ビョルドンを殺して!」

「えっ」


 何があったのか、一瞬理解できなかった。アーシャが暴力を振るった? それも、女を相手に?


 ナベプタの中のアーシャは、暴力とは無縁の清らかな乙女。それが、今見せた行為と噛み合わず混乱した。

 そんなナベプタの困惑など意に介さず、アーシャが仲間と言った男たちが家の中に突入した。その数、十人ほど。家のダイニングスペースにはビョルドンと、その他三人ほどの組織の人間がいた。みんな年配の男ばかりだ。


 アーシャ派とビョルドン派で、敵味方の区別はつきやすい。


 ビョルドン派の男たちは驚きながらも、すぐに何があったのかを悟ったらしい。表情はすぐに怒りのそれに代わり、テーブルの上の金属製のナイフやフォークを掴んで立ち上がり、若者たちに応戦した。


 夕食と酒が出る団欒の場が、一瞬にして騒乱の舞台と化した。

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