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復讐者たち~元公爵令嬢と生意気ネクロマンサー シーズン3~  作者: そら・そらら


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22/46

22.アーシャ

 けど、少年は冷めた目で見つめていて。


「おじさん、この人がどんな悪かを知っているの?」

「お前を誘拐しようとした。悪だ。それも組織的な悪だ」

「そうだけど。なんでそんなことをしたの?」

「そ、それは。お前が言え! みんなに触れ回るのもお前の仕事だ! 助けてやったんだから、それくらいしろ!」

「結局、自分は何も知らないんだ」

「うるさい! だったら教えろ!」

「……わかった。あと、英雄の殺人を言い回る前に、会ってほしい人がいる。たぶん力になってくれると思う」

「人?」


 こいつ。俺がしたのが殺人だというのは変えるつもりはないらしい。物言いと、少年のこちらを見透かすような目がナベプタは嫌いだった。


 けれど、自分が今どんな善行をしたのかを知るには話をしなければいけない。それに、協力してくれる人が増えるようなことを言っていて、気になった。


「おじさんが殺した男の名前は、マデロス。ボスと呼ばれていた男の名前はビョルドン。さっきおじさんが体当たりでめちゃくちゃにした、道の工事を仕切っていた組織のボスだよ」


 あのクソガキにやられる前にやった善行。工事現場へ突撃したあれか。


「おじさんは気づいてないかもしれないけれど、あそこでオレも働いていた」

「そうなのか?」


 逃げていった作業員の中に、確かに子供の姿があった。それが彼だったのか。


「助かったよ。オレたち、無理やり働かされていたから。遅い時間までしんどい仕事を押しつけられて。逃げたかった。だから逃げた」

「そんな酷い組織なのか?」

「ビョルドンがまとめているのは、工事業者じゃない。工事は最近始めただけ。普段はもっとあくどい方法で稼いでいる」

「たとえば?」

「とんでもない利息の金を貸すとか。国に隠れて賭け事をする場を作るとか。いけない薬の販売とか」


 本当に悪人どもだったのか。


 ナベプタは少しだけ安心した。死んで当然のクズだったなら、人々は勇敢なるイビルスレイヤーをもてはやすだろう。心はかなり軽くなった。

 敵が報復に来る可能性は、完全に頭から抜けていた。約束された栄光しか考えていなかった。


「オレは借金があって、組織から逃げられずに働かされていた」

「子供にどんな借金があるんだ」

「親の借金だよ。商売を始めようとして、怪しい金貸しから借りてしまって、失敗した。それでもなんとか成功させようとして父さんも母さんも必死で働いて、働き過ぎで死んだ。後には借金だけ残った」


 吐き捨てるように言う少年。さすがにかわいそうだ。


 だから、借金返済のために働いているのか。逃げられるならそうするべきだ。

 働くにしても、土木工事なんかやるものじゃないな。


 彼の事情はわかった。けど、彼がどこに向かっているのかは知れない。


 夜の街の喧騒がだんだん離れていく。遅い時間になったのもあるし、そもそも人通りが多い場所から離れているのも大きい。


 閑静な住宅街。そう呼ぶべき場所に来ていた。庶民と言うには比較的裕福だが、貴族までは行かない。たとえば、ナベプタが働いていた組織の幹部連中なんかはこういう場所に住むのだろう。

 そう考えると、少し不愉快になってきた。


 お淑やかぶった金持ちたちは、遅い時間まで酒場で飲んだくれることはない。そういう人間もいるだろうけど、少数だ。だから遅い時間は家に帰って、家族と静かに過ごす。だから人通りが少ない。

 少年はそこを迷いなく歩き、ある建物の前で立ち止まった。


 周りにあるような一軒家ではなく、集合住宅らしい。ナベプタが住んでいるような安アパートと比べれば、ひと部屋が大きく建物も綺麗だ。手入れが行き届いていると言っていい。家賃も相当なのだろう。

 ナベプタや、この少年には手が出ないような物件。少年は階段を登って、ひとつの部屋の前に立ち、戸を叩いた。


「アーシャさん、いる? 俺です。リフです。夜遅くにすいません。話さないといけないことがあります」


 そういえば、この少年の名前を今初めて知った。ナベプタにとって、どうでも良いことだから聞かなかっただけだ。


 彼、リフの言葉にはもっと重要な情報が入っていたのだし。


 女の名前が出た。つまりここは、女の家だ。


 ナベプタの心臓が鼓動を早めた。この少年、何をするつもりなんだ? 俺は今から、女の家に上がるのか?


 扉の向こうがバタバタして、ややあって開いた。寝間着姿の女が顔を出して、リフとナベプタに順番に目を向けた。

 その瞬間、ナベプタは雷に撃たれたような衝撃を受けた。


 可愛い。長い髪に、くりっとした目。歳は二十くらいだろうけれど、年齢よりも幼い印象を受ける。もちろん、背はナベプタよりもずっと小さい。けれど胸の膨らみはしっかりと存在を主張していて、目を惹きつけた。

 小動物的な可愛さと言うべきだろうか。守ってあげたくなるような雰囲気があった。


 そんな彼女は、知らない男の姿を見て微かに動揺した表情を見せた。その顔も、ナベプタにとっては魅力的だった。


「リフ。どうしたの? この人は誰?」

「この人が、勇敢なるイビルスレイヤーなんだ」

「えっ」


 驚きの顔でナベプタを見るアーシャと、反射的に顔を隠すナベプタ。覆面の英雄の正体を知られるのはまずい。

 とはいえ、手遅れだろう。

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