45:孤独の中、出会った陽だまり
頭を潰されたリリーの指が、土に爪を立てて『ピク・・・ピク・・・。』と痙攣している。
「あっ・・・あっ・・・あっ・・・。」
断面が露わになったリリーの首を目の前に、ディアナは顔に飛び散った肉片を拭こうともせず開いた口を震わせる。
しかし、やがて・・・。
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
堪えきれなくなったディアナは、決壊したダムが如き絶叫を風穴中に響かせた。
「っるせぇなぁ〜。急に叫びやがっ、て!」
悲鳴を上げたディアナに苛ついたエディスは、ディアナの腹を壁に向かって蹴飛ばした。
「がはっ・・・!!げほっ!ごほっ!」
岩肌の壁に背中をぶつけて、ディアナは思い切り咳き込む。
「よぅ〜し。いいトコのお嬢様は犬のエサにしよう。森の小動物ばっかじゃ飽きるだろうしな。さっき殺したヤツは里の前にでも置いておこう。見せしめとして・・・な?」
エディスが口笛を吹くと、赤黒いよだれを垂らした毒犬たちがディアナにゆっくりと近づく。
「いや・・・いや・・・。」
恐怖で歯をガチガチ鳴らすディアナは、首無しのリリーの死体を見る。
毛嫌いし、殺そうと思ったジャンヌの娘の死を目の当たりにしたディアナは、おかしなことに全く喜ばなかった。
彼女の心の中にあるのは恐怖と・・・悲しみだけ。
リリーにとってディアナは初めての同い年の友人だったが、それはディアナにとっても同じだった。
最初はディアナはリリーを心の底から毛嫌いしていた。
しかし嫌われていることに気付かず、親しみ深く接してくるリリーに対し、ディアナのリリーに向ける嫌悪は徐々に緩和し、深層心理の中でリリーのことを学友と見てしまっていた。
入学するまでのディアナは孤独だった。
ミカエル家の令嬢として生を受けたディアナは、付き合う友人を選ぶよう親たちから厳しく言われ、それに従う内に同年代の子ども達は彼女を避けるようになった。
孤立の悲しみをディアナは、「自分とその他大勢じゃ住む世界が違うからこうなるのは当然。」だと強がって心の隙間を埋めるようになった。
そんな時に出会った、何物にも染まっていない純粋な価値観を持ったリリー。
まっさらな感情で仲良くしようとするリリーは、ディアナに陽だまりのように明るく見え、気付かない内に心を許してしまっていた。
そんなリリーも、もうどこにもいない。
家柄や家族に植え付けられた価値観に、抗おうともしなかった自分の浅はかな悪だくみのせいで、死んでしまった。
「はっ、ははっ・・・。」
泣きながらディアナは乾いた笑いをした。
学友を嵌めようとして死なせてしまった自分にとって、生きたまま犬のエサになるのは相応しい罰だと思って。
「壊れちまったか?なんか飽きちまったな。もういいや。」
毒犬たちがディアナのすぐそばまで来たので、エディスは命令を下そうとする。
「お前ら、食っちまえ・・・ッッッ!?」
エディスは驚愕した。
なんと頭を潰されたはずのリリーが、自分の足首を掴んでいるではないか。
「なっ・・・!?こっ、コイツ・・・なん、で・・・?」
エディスが言葉を失っている間に、リリーはうつ伏せの姿勢からゆっくり起き上がる。
潰されたはずの頭を、メキメキと音を出して生やしながら。
「やってくれんじゃないの〜?おお?」
片膝を付いたリリーは、エディスの足首をギリギリと強く握って、怒りでひきつった笑みを向けてきた。




