43:つまらない理由
毒犬使いの魔女に見つかってしまったリリーは、両手を上に上げて岩陰からゆっくり出てきた。
「どっ、ども~・・・!」
リリーの顔を見た魔女はイスから勢いよく立ち上がって、もっと近くで顔を見ようと接近してきた。
汗と獣と血の臭いが入り混じった、とてもじゃないが表現できない悪臭がリリーの鼻を刺激して声を出しそうになる。
「お前ミートスの人間じゃないね?どっから来た?」
常人だったら声もまともに出せない状況だが、初見のインパクトにドキッとした以降はリリーは意外と落ち着いていた。
ママと比べると、迫力が、無さすぎる。
「あ~すいませんボク家族と一緒に登山に来たんですけど、面白がって森の中をぐんぐん進んで行く内に帰り道分かんなくなっちゃって!ほら~外の霧だんだん濃くなってってるじゃないですかぁ~?だから一晩だけで泊めてくれないかな~なんて・・・。」
つい言ってしまったでまかせ。
果たして目の前の魔女は信じてくれるだろうか?
鼻息を荒くしながら、犬使いの魔女はリリーの身体を舐めるように嗅いでくる。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「私を騙そうたってそうはいかないよ?異端狩りの卵ちゃん?」
ニタリと笑いながら首を掴もうとしてきたので、リリーは急いで犬使いの魔女から距離を取った。
「やるねおばさん。どうして分かったの?」
「悪魔と契約したで鼻が利くようになったのさ。お前から汚い天使の臭いがしまくってるよ。」
「ひっどい臭いなのはそっちじゃん。最後にお風呂いつ入ったの?」
「礼儀のなってないガキだねぇ~。あんたら!!痛めつけてやって!!」
犬使いの魔女が命令を出すと、エサにがっついていた犬たちが一斉に襲い掛かってきた。
「サクァヌエル!!広がれ!!」
翼を展開したリリーは犬達の攻撃をかわして滞空した。
「やっぱ混獣術だけじゃなくって操獣術も使えるんだね!?」
「へぇ~。異端審問官のくせして魔法に詳しいんだな。」
「ママにみっちり叩き込まれたからね!!」
いきなり見ず知らずの子どもからその母親のことを聞かされ、毒犬使いの魔女は首を傾げる。
「お前の名前も知らないのにその親のことを言われても分からんよ。」
「リリー・クローバー!!それがボクの名前!そっちは!?」
「エディス。エディス・クレイン。」
「どうしてあんなことしたの?犬に毒の牙を持たせて人を襲わせて・・・。」
考え込んだ後、エディスはリリーに毒犬をミートスに放った理由を話した。
「タイムアタックを断られたから。」
「へ?」
あまりに小さな犯行動機を言われて戸惑うリリーに、エディスは続ける。
「私は国中の山という山を短い時間で登ることが唯一の趣味だったんだ。ハットブルー山にもそのつもりで登ったのにあの里の連中・・・❝危険な弾丸登山は許可できません。❞なんて抜かして私を途中で下山させやがった。私の人生ただ一つの楽しみを邪魔した報いを受けさせようと思って私は・・・!!飼っていたワンちゃんを悪魔に捧げて、この魔法を手にしたんだ。私の着ているこの服ねぇ、悪魔への代償に支払った子の毛皮なんだよ。かわいそうなジョエルちゃん。あの里の奴等のせいで悪魔に生きたまま食べられて・・・。私をこんな目に遭わせた里の奴等、全員毒で苦しみ続ければいいんだ!!」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「やはり魔女は、腐ったヤツしかいない・・・!!」
自分勝手すぎる動機をベラベラと語るエディスに、岩陰で隠れ続けていたディアナが怒りを露わにしながら出てきた。
「おや~?もう一人来ていたんだな?」
「毒犬使いの魔女エディス・クレイン!!神と聖天教会の名の下に、お前を異端として討伐する!!このディアナ・ミカエルが!!!」
「ミカエル・・・教会の名家じゃないか?その割にはびくびく隠れてたがな。換えのパンツは持ってきたか?ヒヒッ!」
嘲笑われたことにディアナの怒りの沸点が限界を迎えた。
「わっ、わたくしを馬鹿にするなんて・・・!!卑しい魔女の分際で・・・!!!」
「いいよディアナ。こんなのに怒ったって時間の無駄。」
呆然としていたリリーはそう言って、「・・・・・・はぁ。」と、小さなため息を吐いて面倒臭そうに頭をかいた。
「魔法の使い方なってないだけじゃなくその理由も下んないなんて・・・マジどうしようもないね、お前。」
「おい。お前今何つった・・・あ?」
エディスは少し面食らった。
滞空しながら自分を見下ろすリリーの眼差しに、一切感情がこもってなかったからだ。
極めて無関心な、冷たい瞳だった。
「こんなに興味そそられないヤツは初めてだわ。つまんないからちゃっちゃと終わらせる。」
下目遣いをしながら、リリーはエディスにダガーナイフの切っ先を向ける。




