案内
昨日はお昼ご飯を私が作らせてもらいました。
ケークサレ、圭君も喜んでくれて良かったです。
圭君が作ってくれたシュークリームの方が、美味しかったですけどね。
本当に圭君にはもらってばかりで、何のお返しもできていません。
最近は私が勉強を教える事も少なくなりましたし、圭君が質問してくるのは既に解いている問題の確認程度です。
私が圭君の役に立てる事が少な過ぎて、申し訳ない限りです。
今日は圭君が、神様に焼きトウモロコシをプレゼントしたいと言っていたので、神様へのお供え方法をお伝えする約束になってます。
今のところ、そういった事でしかお役に立てませんからね、しっかりとご案内するとしましょう。
何か他に、もっと役に立てる事があるといいのですが……
人の姿での待ち合わせなので、髪色は黒にしましょう。
それと視力も調節できるようにしておきます。
折角あの山の神社に行くなら、上からよく見える方がいいですからね。
双眼鏡とかを持って行くより、視力を調節した方が早いですし。
という訳で、今の私は"視力を調節出来る黒髪の人間"に化けています。
「おはようございます、圭君。お待たせしてしまいましたね」
「おはようございます。全然待ってないですよ」
待ち合わせ場所に行くと圭君はもう来ていました。
またしてもお待たせしてしまったようです。
早めに来たはずだったのですが。
「それじゃあ、行きましょうか」
「はい。よろしくお願いします」
「ん?」
「どうかしました?」
「いえ……なんでもありません。行きましょうか」
何か今、変な視線を感じた気がしたのですが……気のせいですかね?
まぁ、今日はお祭りでもなんでもありませんからね。
神社に行こうとしているのが珍しいから気になった人、とかですよね? ……多分。
あまり気にしないで行きましょう。
「圭君は、この神社の奥の方に行くのは初めてですか?」
「そうですね。この間のお祭りで、初めてここに来ましたから」
あの時は、神社の入口の方から立ち並ぶ屋台を少し見てから御神木の方に行きましたし、神社のお社の方には行きませんでした。
神社の奥の方には本殿とか色々あるのですが、今回はお供え物用の台座へのご案内です。
この神社の全てを説明してる時間は、さすがに無いですからね。
「圭君、到着ですよ」
「ここに置けば土地神様が来て下さるんですか?」
「そうですね。この神社の伝承では、ここにお供え物を置くと神様が取りに来ると伝わっています」
「神社の伝承ですか?」
「そこの石碑にも書いてありますが、ここの伝承では神様は動物の姿で人里に降りてきて、田畑に力を送って元気にしてくれてたそうです。そのお礼に、人々はその畑で育てた野菜とかをお供えしていたという内容の伝承ですね」
伝承というのは素晴らしいですよね。
私達みたいな存在は神様とも直接話したりしますが、一般の方はなかなか神様にお会いする機会なんてありません。
会えない人でもこうして、神様との関係を後世に伝えることが出来るというのは本当に凄いです。
「ここにはよくお供え物も置かれていますし、神様も見に来られるので、圭君も神様へのプレゼントはここを使ってくださいね。ポストみたいなものですから」
「ここに置いたものを、直接神様が持っていくんですか?」
「動物の姿で取りに来られますよ。伝承でも神様は動物の姿になれると伝わっているので、ここに供えられた物を動物が取りに来たとき、この神社にお供えに来る人達は、神様が取りに来てくれてると思うみたいですね。事実そうなのですけどね」
「そうなんですか」
だから、この辺の人達は動物を大切にしてくれてます。
ありがたいですね。
とはいえ、お供えに来るのはご年配の方が多いそうです。
なかなか今の若い人達は来てくれないと、前に神様も言っていましたね。
「じゃあ、僕も今度からここに持ってきますね。案内して下さってありがとうございました」
「いえいえ」
圭君は、お供え用の台座を綺麗にしてから、持ってきた焼きトウモロコシを丁寧に台座に乗せてくれています。
こうやって若い人達も興味を持ってくれるといいんですけどね。
私はちょっと後ろを確認します。
やっぱり、いますね……
待ち合わせ場所で感じた視線、そして何故かずっと私達の後を着いてくる人。
距離は結構ありますが、今は視力を調節できるので、あの人の表情や細やかな動きもバッチリ見えます。
もちろんあの人は、まさか私に見られてるとは思っていないと思いますが……
たまたま神社に用事がある方かも知れませんが、それなら来ればいいですよね?
何故あんなに遠くから私達を見ているんでしょうか?
今はどうやら電話をかけているみたいですね。
私達を追っているのかは分かりませんが、あまり見られ続けるというのも良くないですし、撒いておいた方がよさそうですね。
「ハルさん? どうかしましたか?」
「圭君、少し運動しましょうか」
「え?」
「走りますよ」
圭君の手を引いて、走ります。
後ろを確認してみると、私達が急に走り出した事に驚いて、急いで追って来ているみたいですが、これだけ距離があれば大丈夫です。
御神木の方に行けば、結界内にあの人は入って来られませんからね。
「ハ、ハルさん……?」
「圭君、もうちょっとです!」
「え? あ、はい」
……頑張って走って、御神木に到着しました。
当たり前ですが、もうあの人もいません。
圭君は私が急に引っ張って連れてきてしまったので、かなりお疲れみたいです。
本当に申し訳なかったですね。
「急に走ってしまって、すみませんでした。大丈夫ですか?」
「はぁ、はぁ……だ、大丈夫ですけど、急に何でですか?」
「私達の事を追っている感じの人がいたので……」
「えっ……」
「本当に私達を追っていたのかは分かりませんが、私はあまり人に見られる訳にはいきませんから。巻き込んでしまってごめんなさい……」
「そんな事は気にしなくていいんですよ? 好きなだけ巻き込んで下さい」
「ふふっ、ありがとうございます」
相変わらず圭君は優しいですね。
迷惑な事情に巻き込まれてもいいだなんて……
それにしても、何故私達を追っていたのでしょうか?
そもそも私を追っていたのか、圭君を追っていたのかも分かりません。
可能性として考えられるのは、今時若い男女が祭りでもない日に山奥の神社に行くのが珍しいから気になった、くらいですけど?
まぁ、考えても分からないのであまり気にしないでおきます。
こういう事が続くようなら調べた方がいいですけど、基本的には人の行いに干渉する訳にはいきませんからね。




