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あずき食堂でお祝いを  作者: 山いい奈
エピローグ
51/51

エピローグ:後編

最終話です。

どうぞよろしくお願いします!( ̄∇ ̄*)

少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。

 伊集(いしゅう)さんに吉本(よしもと)さん(4章)と有田(ありた)さん(7章)、そして才原(さいばら)さんと酒呑童子(しゅてんどうじ)(6章)は、オーダーストップ間際にお越しになることが多くなっていた。他のお客さまが帰られたあと、マリコちゃんとお話をされるためだ。


 妖怪が見えない伊集さんはマリコちゃんを見ることはできないが、マリコちゃんが姿を現すことで気配をより強く感じることができ、それで安心されるのだとい言う。


 以前のこともあり、マリコちゃんが元気でいてくれることを嬉しく思われているのだろう。


 そんな伊集さんなのだが、瑠花(るか)さんのこともあるので、早い時間帯にもお顔を出される。だが静かにお食事をされたい時には遅い時間に来られるのだ。


 今も他のお客さまが全て帰られ、マリコちゃんも姿を現した今は、こぢんまりとした(うたげ)の様になっていた。


 オーダーストップは過ぎているが、このご常連方が来られた時だけは、お飲み物はご注文可能にしているのである。特に酒呑童子にはお酒を与えなければ暴れかねない。


 それにしても、妖怪や幽霊に関わりのあるご常連がこうして揃うのは珍しいことだった。


 伊集さんと吉本さん、吉本さんと有田さん、吉本さんと才原さんはそれぞれお知り合いである。なのでこうして集まることになると、自然に飲み会になるのだ。この時ばかりは双子もご相伴(しょうばん)にあずかる。お酒を飲まないのはマリコちゃんだけである。


 伊集さんはあれからも霊能者を続けておられる。お仕事の前日にお食事に来られてお赤飯で力を(たくわ)えられるのだ。それは妖祓師(ようふつし)である吉本さんも同じである。


 有田さんは画の制作に入られると、ぱったりとお姿を見せなくなってしまう。そういう時こそ双子はお赤飯を食べていただきたいと思うのだが、それどころでは無いご様子だ。


 才原さんは日々酒呑童子にお酒を与えつつ、巧く関係を築けている様である。酒蔵見学にも行かれたらしい。昨年の秋には京都伏見(ふしみ)にも足を伸ばされたとのこと。さぞかし紅葉が綺麗だっただろう。


「私にだけマリコさんと酒呑童子さんが見えないのは、残念ですわね。有田さんの画でマリコさんは拝見できますけども」


 伊集さんは登美の丘の赤ワインを傾けながら、目を細められる。


 伊集さんは有田さん、甘露寺花柳(かんろじはなやぎ)先生が描かれた座敷童子(ざしきわらし)たちの()を初めてご覧になった時には、心から嬉しそうに微笑まれた。


「これがマリコさんなのですね。ようやくお会いできた様な気がいたしますわ」


 才原さんも「凄いですね!」と目を輝かせ、酒呑童子は「我を描かぬとは何事か」と憤慨したものだった。


「そうやなぁ、今度妖怪が見ることができる札とか開発してみよかな。伊集さんやったら気配は感じてはるんやから、いけそうやわ」


 吉本さんがビールを飲みながら言う。それに才原さんは「ええ?」とかすかに顔をしかめた。


「俺が言うんもなんですけど、そんなに妖怪って見たいもんですか? マリコさんとかこの酒呑童子はええもんやって分かってますけど、怖い見た目なもんも多いですよ?」


 才原さんは呉春(ごしゅん)の冷酒を、その横では酒呑童子が秋鹿(あきしか)の冷やを結構な勢いで飲んでいた。


「もしかしたら、才原くんはそういう妖怪に会いやすいんかも知れませんねぇ。僕は幸い今んとこ、そこまで怖いもんには会うてへんので」


 有田さんがビールをこくりと含みながら言うと、酒呑童子が「ふん」と鼻を鳴らした。


「才原、貴様は気付いてないのかも知れないが、我が貴様に憑いてから、ほとんどの妖怪は貴様を避けているぞ」


「そうなん!?」


 才原さんはぎょっと目を()いた。


「そうだ。だから我がいる限り、貴様に危険は無い。安心しろ」


「そっかぁ。それやったら良かったわ」


 才原さんは安心された様に胸を撫で下ろされた。(はた)から見ると、大鬼である酒呑童子に憑かれている方がよほど大ごとだと思うのだが。慣れて感覚が麻痺(まひ)しているのか、美青年という風貌(ふうぼう)にごまかされているのか。


 しかしそれだけ仲良くしているということなのかも知れない。きっと良いことなのだと思う。それだけ酒呑童子の脅威(きょうい)、悪鬼としての本性というものが出て来る可能性が低くなるだろうから。


 そんな皆さまを見て、マリコちゃんが半ば呆れた様に「ふふん」と鼻で笑う様な仕草を見せた。


「お前たちは相変わらずじゃな」


「あはは、どしたん、マリコちゃん」


 陽がおかしそうに笑う。朔もつられて口角を上げてしまう。


「お前たちはそのまま変わらず、じゃが精進するんじゃぞ。少なくともわしの赤飯の加護が届くぐらいにはの」


「ええ〜? それって結構難しゅう無いですか?」


 才原さんが(なげ)く様に言うと、吉本さんからマリコちゃんの言葉を伝えてもらった伊集さんが「あら」とたおやかに微笑む。


「私には解る気がいたしますわ。そうですわね、私たちは精進するのは当然で、ですが、変わってはいけない部分もありますわよね」


「え〜?」


 才原さんはなおも困惑された様に首を傾げる。酒呑童子はそんな才原さんを見て「ははは!」と大笑いだ。


「良い、貴様はそのままで良い。その方が我も楽だ」


「どういうことやねん!」


 才原さんが突っ込み、ふたりはわちゃわちゃと騒ぎ出す。なんとも微笑ましい。朔はほっこりしてしまう。


「はは。でも僕も解る気がするわ」


「僕もです。せやから安心してくださいね、マリコさん」


 吉本さんと有田さんの穏やかなせりふに、マリコちゃんは「うむ」と鷹揚(おうよう)に頷く。そしてその可愛らしくも強い眼差しは、双子にも注がれる。双子は顔を見合わせて「ふふ」「はは」とどちらともなく笑った。


「大丈夫、ちゃんと解ってるで、マリコちゃん」


「せやで」


 朔が、そして陽が言うと、マリコちゃんは満足げに「うむ」と笑みを浮かべた。


 日々美味しいお惣菜を作り、お赤飯を炊く。だがそれは毎日同じではなく、昨日よりも今日、今日よりも明日、少しでも美味しいものを、と思う。


 そしてお客さまに(いこ)っていただく。双子の笑顔とおもてなしで楽しんでいただきたい。その思いは変わらないのである。


 そしてお赤飯を食べていただく方には、小さいかも知れないが、幸せが上乗せされるのだ。


 「あずき食堂」は、明日も変わらず暖かな癒しで皆さまをお迎えすることだろう。

ありがとうございました!( ̄∇ ̄*)

次回作もお付き合いいただけましたら嬉しいです。

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