58 汚冥界:賓客の間10
■システィーナの視点
暗室を思わせる賓客の間が広がる!
頭上には水死体の髪に似た気持ち悪い蔦……!
蔦からボタボタと血のように零れる雫……!
私を背負い、アルシャーネさんを抱えるクラウディーアさんが、懸命に跳ぶ!
ダンッ! ダンッ! ダンッ!
痛っ、痛っ! 折れた右腕に響く!
ああっでも!
あまり前に進んでいない!
三メートルがいいところ……!
コックリが人魚の国で湾上を跳んでいたのは十数メートルだった!
重いから!? ダンッ!
「ゼェッゼェッ! マズイ!」 ダンッ!「霊力がっ! 尽きかけて!」 ダンッ!
「ええっ!?」
魔法の根源たる霊力が尽きると! 魔法が使えなくなる!
そうかっ霊力が尽きかけているから!
波動の威力も小さくなってきているんだ!
「クッ! クラッ!」 ダンッ!「れ、霊力を! 温存しっ!」
「無理だ! ゼェッ!」 ダンッ!
ワシャワシャッ!
ワシャワシャワシャッ!
ワシャワシャワシャワシャワシャワシャッ!
「ひゃあっ! ムカデが!」 ダンッ!
そうっ! ムカデが! 追ってきてる!
逃げるために聖魔法を使って逃げてる!
せめてアルシャーネさんが目を覚ましていれば皆で走って逃げられるけれど!
気絶したアルシャーネさんをおぶって走るなんて、百メートルでも無理!
「お、起きてくだ!」 ダンッ!「 アルシャー!」 ダンッ!
「ぅぅっ……」 アルシャーネさんはもう少しで目覚めそうだけれど!
「ゼェッ! 舌を噛みます! 気を付けて!」 ダンッ!
後ろを見ると! 薄暗闇の中に分かるだけでも十体近く!
早足くらいの速度だから少しずつ引き離しているけれど!
「フオッ! 横倒しの柱がっ!」 ダンッ!
「や、やっと!?」
そう、やっと!? まだまだ先が長い!
「そうだ! 私に考えがあります!」 手早く考えを伝えると!
「ハァッハァッ! なるほど! 承知っ!」
ダンッ! と柱の上に飛び乗ると! 私は叫ぶ!
「ノーム! どこ!?」
そう! ノームはもう一体いる!
さっき柱を乗り越えるために、一体残してきた!
そのノームにアルシャーネさんをおぶらせれば!
ウィスプを使って簡単に探る!
「ゼエッハァッ! アルシャーネ様! 起きてください!」
「ノーム! 来てっ!」
ああっ、私たちの状況は非常に悪い!
私は右腕を骨折して連れてきた精霊ももう召喚しつくして!
クラウディーアさんは霊力が尽きかけて聖魔法の威力が落ちてきて!
ああっ、アルシャーネさんが起きてくれればクラウディーアさんの霊力を温存できるけれど……!
とその時!
ドス、ドス、ドス、ドス……
重い物が走ってくる音が!
「ノーム!?」 喜んだのも束の間! 「ほわぁっ!」
「フオォッ!?」
私たちは目を疑った!
「ひゃあっ! そんな!」
「影が! 沢山!?」
何てこと!?
ウィスプの光の範囲に!
続々と人型の影が!
グールだ!
シャアアアアッ! ガリガリッ!
柱の下に! 灰色の筋張った裸のそれが飛び込んでっ! 十数体っ!!
うああっ! 柱を登ろうと爪を立てて! ガリガリッガリガリッ! 爪を立てて!
でも滴る水でズルズル滑って!
ああっ何て激しい動き……今の私たちでは……!
シャアアアアアアッ!
口を大きく開けて威嚇する! くっ臭い! 毒の息!?
何てこと、何でこんなに出てきたの!? と!
ワシャワシャワシャッ! 背後からあの気味悪い音が!
「ひゃああっ! ム、ムカデが!」
後ろを見ると……!
ききっ気持ち悪い! 赤黒い闇の中にゾロゾロ長い体が蠢いて!
背中にズラリと並んだ目が……わずかに光ってるっ! 気持ち悪いっ!
背後からムカデ、前からはグール……!
ママッ、マズイ! マズイマズイ!!
「くそぉっ! くそぉっ!」 クラウディーアさんがギリギリと歯軋りして! 「くそぉっ! もう行くしかないっ!」
「ええっ!?」
「ゼェッ! しっかり捕まって!」
「で、でもっ!」
「行けるところまでっ! 行くしかないっ!」
クラウディーアさんは「ヌオオッ!」と吠えると!
グールが待ち受ける前方に跳び出した!




