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52 汚冥界:賓客の間4

 

 ■システィーナの視点


 赤黒い光に満たされた不吉なホールの中……

 天井から垂れる蔦に身を隠しながら、白く半透明な少女がこちらをうかがう。


 サマラだ……! 逃げたはずのサマラだ!

 私たちをグールか何かの化け物と勘違いして怖くて逃げたのに! 何で戻ってきたの!?


 サマラは蔦からわずかに顔を出し、不安げに。


      だれ?


「「え!?」」


      お……おばけ……?


 サマラは身を隠す! ああまたっ、また逃げちゃう!?


「ち、違います! サマラ! 私たちは……!」


 アルシャーネさんが焦って! 言葉を詰まらせる!

 伝えたいことがたくさんあるのに、たくさんありすぎてっ!

 何から伝えれば良いのか!


「サマラ……! お願い!」


 アルシャーネさんは糸をぎゅっと握りしめた。

 お、落ち着いて! と!


      あぁ……あたたかい……


「「え!?」」 暖かい!? え!?


      すこしまえから、ずっとあたたかいの……


「「えっ!?」」


 サマラは頭を抑える。

 ううん、正確には頭に繋がっている糸!


 ああっ!

 私たちはアルシャーネさんを見た!

 サマラに繋がる魂の糸は、アルシャーネさんの手の中!

 霊力で補強されて太くなって!

 サマラの方に向かっている!

 アルシャーネさんの暖かな霊力が、サマラ自身に伝わっているんだ!

 これだ! これで戻ってきたんだ!


「ア、アルシャーネさん!」

「はい!」


 これは! 言葉はいらないかもしれない!

 アルシャーネさんの暖かさが直に伝わってるんだもの!

 ずっとずっと握っていた糸が、こんなところで活きてくるなんて!

 アルシャーネさんが両の手のひらで糸を挟んで! なおかつ呼びかける!


「サマラ! 貴女を迎えに来たのです!」


 サマラは頭を抑えた。ううん、髪を! 髪に繋がる糸を!


      あぁ……あたたかい……なんであたしのなまえをしっているの……? おねえ……さま? どなたなの……なんでそんなにあたたかいの……?


 サマラはもう恐怖よりも安堵を覚えている!

 私は今だと分かった!


「ウィスプ……」


 私はサマラを驚かさないよう、ゆっくりとウィスプをこちらに移動させて!

 ゆっくりとゆっくりと!

 ウィスプの白い光を、こちらの方へと動かす!

 私とクラウディーアさんはサマラを怖がらせないよう、アルシャーネさんから外れて立つ。

 そのアルシャーネさんの上に白いウィスプが到達する……


      はあぁっ……!はああああっ……!!


 サマラの声が……歓喜の声が闇の中から聞こえてくる!


「サマラ……アルシャーネです! ミシェリア修道院のアルシャーネです! 貴女を迎えに来たのです!」


      はあああっ……せっせいじょさま! せいじょさまっ!


 暗闇の中で、サマラの涙声が聞こえてくる!

 きっと彼女の目には!

 美しい黒髪の聖女アルシャーネが!

 神々しいまでに光り輝いているはずだ!


 アルシャーネさんは大きく両手を広げて! サマラを見上げて!


「帰りましょう! 一緒に帰りましょう!」


      わああんっ! せいじょさまああぁっ


 次の瞬間! 暗闇の中からウィスプの光の中に、白い半透明の少女が飛び込んできた! サマラだ!

 サマラはアルシャーネさんの胸に、腕の中に飛び込んできて!

 ガッシリとアルシャーネさんをつかむ!


      うわあああぁぁぁんっ! せいじょさま! せいじょさまあああっ!


「よく頑張りましたね……もう大丈夫ですよ……」 アルシャーネさんは優しい笑顔でサマラの頭を撫でる。


      うわあああぁぁぁんっせいじょさまあっ! こわかったよぅ! こわかったよぅ!


「もう大丈夫……大丈夫ですよ」 アルシャーネさんは胸の中の少女の頭を何度も何度も優しく撫でながら囁く。「これは悪い夢なの」


      うわあああぁぁぁん


 優しく……優しく撫でながら囁く……


「悪い夢なの……でももう一回眠れば、目が覚めます」 頭を撫でるアルシャーネさんの手が輝きだして……


      うわあああぁぁぁん


 ああ、アルシャーネさんは手が……白金色に輝く。

 これは霊力……アルシャーネさんの霊力……

 白金色の光がサマラの全身を包み始めた。

 ああ、凄い霊力だ……

 そばにいるだけで暖かい……

 圧倒的な力……

 白金色に輝く力……


      あぁ……せい……じょ……さま


 ああ……サマラは母の胸で眠る赤子のように、安心した表情で……

 健やかな表情で……

 ああ、サマラはアルシャーネさんの霊力に包まれていく……

 凄い……ウィスプの光の中でも分かる霊の光……

 もう光り輝いて……

 霊力に包まれたサマラは、徐々に膝を抱えるような体勢になっていく……

 ああ、どんどん霊力に包まれていく……

 膝を抱えて丸まって……まるで……

 その様は繭だ……

 白い繭……


 私とクラウディーアさんが見守るなか、サマラは完全にアルシャーネさんの霊力に包まれて……

 ああ……完全に見えなくなった。

 アルシャーネさんは繭を両の腕で抱えるように、胸にしっかりと抱き締める。


「サマラを……! 保護しました……!」

「「やった!」」


 私とクラウディーアさんは思わずハイタッチした!

 やった! サマラをついに保護した!

 一時はどうなることかと思ったけれど! サマラの魂を無事に確保できた!


 私は思わず霊力の繭を触ってみた。

 繭は暖かくて優しい力で満ちていて……ああこれはサマラも安心だろう。

 霊力で繭にしたのはサマラの魂を守るためと、ミサがあったとき誤って現世に戻らないための措置なのね。


「さあ! あとは神殿騎士様の元に戻って、現世へ戻るだけです!」

「はい!」

「任せてください! 私が皆を守り……」 とクラウディーアさんがそう話したとき!


 ドスッドスッドスッドスッッ!

 ドスンドスンドスンドスンッッ!


 赤黒いホールのどこか!

 地響きのような足音が!

 近づいてくる!

 複数っ! 複数っ!




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