49 汚冥界:賓客の間1
■システィーナの視点
ゼエッ! ゼエッ!
ハァッ! ハァッ!
着いた! ついに着いた!
賓客の間に!
ポタポタ……
ポタン……ポタン……
ハァハァ! あぁっ不気味……!
ついに、ついに賓客の間まで来たんだけれど……ぶ、不気味で! 怖い!
何てっ! 何て不気味なの!?
目の前には、天井の高いホールがあるんだけれど!
現世同様、縦に長い柱に支えられたホールがあるんだけれど!
そのホール内は、毒々しい赤黒い光に満たされていて!
まるで赤黒い葡萄酒の中にいるみたいで!
不吉な光に満たされていて! あぁっ禍々しい!
ポタポタ……
ポタン……ポタン……
その上、天井からは蔦のような、長い木の根のようなものが一斉に垂れて……赤黒い暗がりの中に不気味に垂れて……
水滴がポタポタ落ちてる!
まるで水死体の髪からポタポタ水が落ちてるみたい!
き、気持ち悪い!
この雫、触れて大丈夫!?
何て不気味で、何て禍々しいんだろう!?
「ハァハァッ……こ、このどこかに、サマラが……」
アルシャーネさんが糸を持つ手を忙しなく動かしながらつぶやく。
そう、糸は赤黒い賓客の間の奥に続いている! 赤黒すぎて、さらに床面が濡れていて、どこまで続いているか分からないけれど! あっ!
「少し先の床が崩落しています!」
そう、床がごっそりと崩落して大きな穴になってる! もしかしたら地下の層までつながっているかも!? またグールや化け物がウジャウジャいるんじゃ!?
どうかサマラがあの穴の中にいませんように……と祈っていると外から金属がこすれるような甲高い音が!
ギャリリイイイインッッ!!
「ふおぉっ! さっきの蜘蛛の化け物が! だんだん近づいて来ています!」 とクラウディーアさん。
「はっ早く! あの化け物が来る前にっ! 行きましょう!」
「はい! ノーム、先にお願い!」
私は再びノームを斥候として、賓客の間に進めた!
ああノームは蔦から滴る雫を浴びて、足元はバチャバチャ濡れているけれど……う、うん特別問題はなさそうで! と、溶けたりしないよね!? とまた金属音が!
「い、行きましょう!」
私たちは急かされるように賓客の間へと突入した。
バチャバチャ! ああ足元が水浸しで!
ポタポタッ! ひゃぁっ、早速頭に雫が!
見上げると屋根のところどころに穴が……! そこから赤黒い光が落ちている! そうか、それでこんなに赤黒いのか……!
蔦は屋根を貫いて上から垂れてるみたいで……ということはこの雫は清められた雨……! 人体には影響ない! ハズ!
「これは清められた雨のハズです!」 とアルシャーネさん「ならば化け物には苦痛のハズです!」
「「はい!」」
「この音が、我々の足音を消してくれるハズです!」 とクラウディーアさん!
「「はい!」」
「水滴のお陰で、瘴気が落ち着いて呼吸が楽です!」 と私!
「「はい!」」
私たちは励まし合い、雫が落ちる賓客の間を進む!
雫の音が響く賓客の間を進む!
あぁっ蔦からは黒い大きな葉が出て、うわぁ所々ウツボカズラの袋みたいなモノが垂れてて……気持ち悪い!
なるべく近づかないよう足早にかける!
「サマラ、どこにいるの?」
「早く一緒に帰ろうね」
恐怖を打ち消すように、私たちは口々につぶやく。
ああ、林立する柱には蔦が巻きついていて……
柱の表面は大聖堂のそれと同様ボコボコに歪んで、亡者の断末魔を彫刻にしたような陰影で……
さらには滴り落ちる雨でヌラヌラとしていて……うぅ
赤黒さと不気味な陰影が、気味が悪くて、怖くて……
「くっ目が……」
クラウディーアさんが目を擦る。
そう周囲が赤黒すぎて、目がチカチカしておかしくなりそう!
しばらくすると、先頭のノームが崩落した穴の縁までたどり着いた。糸は穴を避けるように、穴の縁を通りながら先へと進んでいる。良かった、サマラは穴の中じゃない!
ふと覗いてみると、やはり地階に繋がっていて……ヌルヌル光る暗い穴の底で、無数の何かが固まっている! 雨を避けるように固まって! グールだ! グールが雫を避けるように固まっていて……数体がこっちに気がついた! 途端!
シャアアアアアッッ!!
骨と皮ばかりの干からびた人型のそれが、穴の底で一斉に口を開けて! うわっ臭い! グールの口臭なのか酷い臭いが漂ってきて! ああ穴の壁をよじ登ろうと蠢いている!
ああおぞましい! 私たちを襲おうと地獄の底から這い上がろうとしてるんだ! でも雫で滑ってる!
「行きましょう! 上ってこられては厄介です!」
私たちは縁から離れると、再び急ぎ足で糸を辿り始めた。
糸はずっと、崩落した穴の縁を通っていて! ああ糸、落ちないで!
しばらく駆けると、私たちの先に大きな壁が! あれ!? 壁!? 高さ二メートルくらい! 横にずーっと! ああ柱だ! 柱が倒れてゆく手を遮っているんだ!
「柱が……」 クラウディーアさんは倒れた柱のオウトツに触って 「何とか登れなくもないが……ヌルヌル濡れて厄介……つっ!」
「だ、大丈夫ですか!?」
クラウディーアさんは左肩を抑えた。ああ、まだ本調子じゃないんだ。
このままでもデコボコを足掛かりに上れなくもないけれど……確かに濡れてるから……と私はふと思いついた。
「ノーム、お願い」
私が指示するとノームは両手を上げた格好で片膝を立ててしゃがんで。そう土台だ。
私はノームの膝に足をかけ、肩に乗り、掲げた両手に乗ってから、柱のデコボコを利用して柱の上に立った。よし! 真っ直ぐ立てば濡れてても大丈夫だ!
「大丈夫ですか!? システィーナさん!」
「はい、大丈夫です!」
心配そうなアルシャーネさんを安心させるように、私は柱の上から先を調べる。
ああ、やっぱり禍々しい赤黒いホールが続いていて……やっぱり蔦が上から垂れて……と。
「……え?」 私の耳に何かが聞こえた。
「何か!?」 クラウディーアさんが緊張する。
「いかがしましたか?」 とアルシャーネさん。
「……」私は長い耳の全神経を集中させた。雫の音の中に「……聞こえる」
「化け物ですか!」 クラウディーアさんが戦棍を握り締める!
「何がですか!?」
「……泣き声!」 私はハッとした。「女の子の!」
「「!!」」
アルシャーネさんとクラウディーアさんは慌てふためきながらも私のしたように、ノームに足をかけて柱に登った! 気をつけて! 三人で柱の上に並んで! 聞き耳を立てる!
「どこです!?」
「それが! 本当に微かで! 雫の音も!」
「糸は! どこへ向かってますか!?」
「そ、そうか! ウィスプ!」
私はすぐさまウィスプを前方に飛ばした! 糸に沿って!
糸は蛇行するように先に延びていて!
と、糸はある柱に向かっていて!
その柱には太い蔦が巻きついていて!
蔦には大きな黒い葉っぱが飛び出していて!
糸は柱を登って行って!
「「上!?」」
そう、その蔦の中段あたり!
葉っぱの下の陰に!
ウィスプに照らされたそれが!
白い半透明なそれが!
「「あっ!!!」」
白いそれは裸で!
水晶のように透き通っていて!
膝を抱えてる!
膝に頭を埋めて泣いている!!
手足の細い!
女の子!!
「「あああっっ!!!」」
皆が! 頓狂な声を上げたっ!
あれが! あれがサマラ!?
それとも新手の化け物!?
い、糸はどこか繋がってる!?
ああっ! 糸は、頭に繋がってる!!
頭から、糸が飛び出してる!!
「「サ、サマラ!?」」
私たちの声が聞こえたのか、ビクッと顔を上げる少女。
その顔は、さっき大聖堂でみたサマラの顔!!
間違いない!
サマラだ!
サマラはウィスプの光に驚いて! 固まってる!
「「サマラ!!」」
私たちは柱から飛び降りる! ドチャッ!
うわあ、私とアルシャーネさんは尻餅をついて! お尻が濡れた! 気持ち悪い!
でもすぐに! 白い少女の元へ駆けだした!
見つけた!
ついに!見つけた!
サマラだ!!
サマラだっ!!




