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32 馬車内(司祭アルシャーネ)

2017年最後の投稿です

 


 夕闇の迫る崖上の街道を、一台の馬車が駆け降りる

 馬車の前方には白い光が辺りを照らす

 光の精霊の白い光


 夕闇の空には、重い黒雲が不吉に垂れこめ始める



 ■アルシャーネの視点



 ああ、ヤキモキします。

 馬車の中では、私とシスティーナさん、僧兵隊長のクラウディーアが神殿騎士様を取り囲んでもうヤキモキしています。もう先ほどのやり取りが予想外過ぎて予想外過ぎて!そうなのです予想通りはミノタウロスだとして、予想外なのはミシェリア修道院に入所している少女『サマラ』なのです! サマラが突然出てくるなんて!



 予想外過ぎます!

 と皆の心を代弁するかのように、鼻息荒く興奮したシスティーナさんが言いました。可愛いです!



「コックリ! 色々聞きたいことがあるんだけれど! ホントに色々あるんだけれども!」 はい、私もです! クラウディーアも頷いています!

「OK、何から話そう」

「じゃあえっとね! あのね! まずはね!」落ち着いて! 「うん、まずは! ジャックさんとサマラちゃんは親子ってことなの!?」 そうです、まずはそこからですね!

「ああ、そうだね」

「なんで分かったの!? 全然接点がないじゃない!?」 本当にそうです!

「ああ、そうだな。接点はなかったな。ただ……」

「「ただ!?」」

「気になる点が色々とあった。それらを踏まえたところ、そういう考えに至ったんだ」

「どんなこと!?」

「そうだな。例えばサマラは『 目の前で両親を魔物に襲われた 』という情報が一つ」

「うんうん!」

「二つ目は『 精神がおかしくなった 』というジャックさんに似た状況、三つ目は街道で起こった事件が『 オウガの二十日でサマラの入所が二十五日で近い 』状況や、四つ目は覚えてるかな『 サマラの荷物の中にチュニックがあった 』こと、五つ目はジャックさんが子供の守護聖霊『 シャルトリア大聖堂へ行っていた 』というのに『 彼の子と思われる被害者がいない 』という状況が六つ目か」

「そ、そうなんだ! え!? サマラちゃんの荷物にチュニックってあったっけ!?」

「ああ、一通り皆の荷物を調べた時、おやっと思った」

「はあ~」 システィーナさんはしきりに感心しています。「よくもまあ覚えてるのね!」 本当ですね、私も気づきませんでした。

「ああ。あとは街道で起こった事件の人数を、村長は四名と言い、クラウディーア様が六名と言っていたので、『 もしかしたら七名・八名いる可能性も? 』とも思った」

「ほえ~、なるほど! その発想はなかった!」



 本当にそうですね! 六名の被害者と言われていながら、人によって四名しか把握していない……そうなれば、四人か六人の二択と考えるのが普通でしょうけれど。そうではなく第三の選択肢、もしかしたらまだ一〜二名増えるかも……と考えるなんて、その発想はありませんでした!



「それで! サマラちゃんがコックリの探していた『 怨念以外で繋がるモノ 』なの!? 生きている人で、モノじゃないけれども!?」

「ああ、状況的には一番可能性が高いと思う。ミノタウロスに関連した事件に遭遇していて、オウガの二十五日に入所し、第一・第二の怪異の被害者が十四号室に行っていた可能性が高い、からね」

「そうか! 第一の怪異で汚冥界に堕ちたモリアーネが最後にいたと思われるのが二階の十四号室、第二の怪異のフェルメーテも十四号室の別の患者に薬を処方していたもんね!」

「ああ。第三の怪異のメイや第四の怪異の僧兵がどうだったかは分からないから『 確定 』とは言えないがね」

「神殿騎士様」 私は平常心を心がけて言いました。「サマラは時々徘徊します。もしかしたらその時、メイや僧兵が彼女と接触していた可能性もありますね」私はふと思ったことを話してみました。

「ええ、その可能性がありますね。時々徘徊するとはいえ今まで他の入所者や修道僧に被害が少なかったのは、①ミサの時に②サマラに触れるという限定的な条件があったからかもしれません」

「いつ頃からサマラが怪しいって思っていたの?」

「修道院内をくまなく捜索して該当のモノが見つからなかった後、入所者情報を確認した時だね」

「あ! 私とアルシャーネさんの顔色を窺ってたあの時!?」

「か、顔色?」ああシスティーナさんは結構ズバッと言いますね。「くく、まあ窺ってたか」 と神殿騎士様は苦笑しました。ああ何だか子供っぽい笑顔で可愛らしいですね。「そう、あの時はまだ『 他の入所者よりは怪しい 』程度だったんで、二人を説得するのは難しいかなって。もう一つ何かが見つかればな、とね」



 そうですね。おそらくあの時、サマラを調べたいと言われても私は良しとしなかったかもしれません。でも今は、ミノタウロスに襲われたという事実が加わりましたし……



「サマラちゃんは今、ジャックさんのように意識がない状態よね? 自分が特殊な状態に置かれているって自覚もないの?」

「ああ、ないな」

「じゃあジャックさん同様、アルシャーネさんが抱き締めれば心『 霊 』が癒されて、治るのかしら? それがアルシャーネさんにだけあったという啓示『 戻せ 』の真意?」



 ああ! そうですそうです。私だけにあった聖霊の啓示『 戻せ 』の真意はそれなんでしょうか!? 確かにそれならば私だけに啓示された理由も分かります! が……



「ああ。戻せの真意はそれに近い」

「「近い!?」」 というと、完全に同一ではない!?

「そう、近い……が」

「「近い、が?」」

「かなり厄介な状況にあるかもしれない」

「「かなり厄介な状況!?」」



 私とシスティーナさん、クラウディーアは三人で顔を見合わせました。ジャックさんのように抱き締めれば良いような状況ではないのでしょうか。といいますか『 厄介な状況 』と、そこまで分かっているということはもしかして……



「コックリ、もしかして……コックリは、サマラちゃんが現世と汚冥界とを繋ぐ『 メカニズム 』に、見当は付いているの?」



 システィーナさんが皆の気持ちを代弁してくれました。そうです、死者の残した怨念が繋がることのない世界を繋げますが、それ以外で繋がるメカニズムは今だかつて実例はありません。



「ああ、大体な。ある仮説は立っている」

「「!!」」皆が息を呑みました!

「それはどんな!?」 システィーナさんが身を乗り出して聞きました!

「アルシャーネ様が抱き締めた時、『 回(・)復(・)し(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)ら(・) 』その仮説であっている」

「「はっ!?」」

「さらに癒しの聖魔法で回復しなかったら、その仮説であっている」

「「はあっっ!?」」



 はあ!? です!

 私に『 戻せ 』と啓示され、戻らなかったら合っている仮説!? 何なのですか、その矛盾しまくりは!? もう聖地での怪異自体矛盾しまくりですが、事ここに至ってまで矛盾しまくりですか!? もう何なのですか!?



「コックリ! もう、意味が分からないよ!?」

「ああ、そうだな。詳しく説明しよう」

「うん!」

「ジャックさんはミノタウロスに襲われた恐怖で心つまり『 霊 』を壊したわけだが」

「うん! うん!」「はい! はい!」

「サマラもまた、ムッ!?」

「「ムッ!?」」



 私とシスティーナさんが聞き返した瞬間、一緒に神殿騎士様を囲んでいたクラウディーアが馬車から外に飛び出したのです! え!? 一瞬遅れて、神殿騎士様が飛び出しました! え!?


 とその時、馬の嘶(いなな)き声と共に、御者台の兵士さんが威嚇するような声が響きました!


「うおおおっ!! 鎮まれ! 鎮まれっ!」

「「きゃあああ」」


 突然馬車が「ガクンッ!」と揺れ、私とシスティーナさんはお互い抱き合いました! きゃああ! と、外からクラウディーアの声が響き渡りました!


「何だ!? この化け物は!?」

「六足!?」と神殿騎士様!!「ジェヴォーダンの獣か!?」

「囲まれている!」


 きゃあ、獣のうなり声と共に戦闘の音が!!

 きゃあああ!!


2017年もあと一日。今年もありがとうございました。

話を中々完結できず一年経ってしまいまして申し訳ございません。来年ももう少々お付き合い頂きたく。

では良いお年を。

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