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「女子少年院後の恭子R」女子少年院を出所したロリ体型のレズビアン恭子、私は絶対に負けない!更生?ふざけんな!  作者: ⚓フランク ✥ ロイド⚓


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第13話 真中真理子

 真理子は、退屈な東京大学史料編纂所の史料整理に土曜日だと言うのに駆り出されていた。史料編纂所は伝統的に史料原文の「読み」と「解釈」を実証的に重視する組織で、フィールドワークを重視する彼女の所属する文化人類学研究室とはあまり接点がなかった。


 しかし、博士課程三年目で、文化人類学研究室の助手を務める真理子は、教授同士のお付き合いでの助け合いを断ることも出来なかった。それに、何故か、土曜の午前午後は本郷キャンパスで時間を潰して、夕方、銀座に出たら何かあるという虫の知らせが彼女の頭をよぎった。


 史料編纂所の史料整理も終わり、真理子は、銀座の並木通りを静かに歩いていた。25歳の彼女は、今日は「本格的なコスプレ」のような派手なゴスロリ姿ではない、控えめで洗練されたコーディネートを選んでいた。東京大学史料編纂所の教授は『院生らしい格好』とか言う堅物だった。


 それでも、街ゆく人々の視線を自然に集めてしまうのは、彼女の圧倒的な美貌と、独特の雰囲気が原因だろう。


 上は黒のシルク混素材のブラウス。首元に細かなレースの立ち襟が付いていて、パフスリーブが控えめに膨らんでいる。袖口にも小さなフリルが一重だけあしらわれ、ゴシックなニュアンスをさりげなく加えている。


 下は膝下丈のフレアスカートで、黒地に同色のレースオーバーレイが重ねられ、歩くたびに軽やかに揺れる。スカートの裾には目立たない程度の小さなリボンが数個、アクセントとして縫い付けられているだけだ。


 首には細い黒ベルベットのチョーカー。中央に小さな銀のクロスペンダントが下がり、神秘的な輝きを放つ。手元は黒レースの手袋ではなく、シンプルな黒レザーのグローブで、大人っぽさを強調。足元はプラットフォームではなく、5cmヒールの黒パンプス。ストッキングは薄手の黒で、控えめな柄入り。


 コートは着ていないが、肩に薄手の黒ボレロを羽織り、全体をエレガントにまとめている。メイクはナチュラルで、赤リップは控えめなワインレッド。長い黒髪はゆるくウェーブをかけて肩に流し、ヘッドドレスやボンネットはなし。


 一見、銀座の高級ブティック街に溶け込むような「モード系」のファッションだ。フルフリルのパニエスカートやヘッドドレス、厚底ブーツのような本格ゴスロリではないから、通行人が二度見するほど「異様」には目立たない。でも……それでも目立つ。


 165cmの長身に完璧なプロポーション、透き通るような白い肌、大きな瞳が神秘的に輝く超絶美貌。歩く姿は優雅で、まるで絵から抜け出た人形のよう。ブランドバッグを抱えたOLたちがチラチラ振り返り、外国人観光客がスマホを向け、すれ違う男性が思わず足を止める。彼女はそんな視線に気づきながらも、穏やかな微笑みを浮かべて静かに歩き続ける。


 銀座四丁目の交差点で信号待ちをすると、周囲の空気が少し変わる。彼女の存在が、自然に「場」を作ってしまうのだ。まるで、日常の街に一瞬だけ異世界の気配が混じったような、そんな、控えめなのに圧倒的なオーラをまとって、真中真理子は銀座の街を進んでいった。


《《吉澤悟》》


『夕方、銀座に出たら何かある』って、何があるのかしら?何に巡り合うのだろう?と真理子は思いながら、並木通りを目的なく歩いていった。


 並木通り界隈は、銀座で有名な高級クラブがひしめいている。真理子が意識の偏光フィルターを外すと、無数の霊が浮遊しているのが見えた。クラブに出勤する和装の美しいママらしき女性には、彼女が蹴落として非業の死を遂げたと思われる女性の霊が数体、つきまとっていた。


 縊死したと思われる首の索状痕が蒼く痛々しい美しい女性の霊が、クラブのママの首に齧り付いているのが見える。ママの下腹には、腹の膨れた妊婦らしき女性の霊が、ママの下腹に肘まで両腕を沈めて何かを掻き出そうとしているのが見えた。


(非常に興味深い光景だけど、文化人類学研究室の論文には書けないなあ)と真理子は思った。まさか、超常現象の論文を学会に提出するわけにはいかない。学会から追放されてしまう。


 並木通りをさらに進むと、黒いスーツの若い男性が近づいてきた。ナイトクラブのスカウトらしい。名刺を差し出しながら、丁寧に頭を下げる。


「失礼いたします。お嬢様、素晴らしいお姿ですね。このままでも、うちのトップクラブのホステスになれますよ。ぜひ一度、店を見に来ていただけませんか?」


 真理子は足を止め、穏やかに微笑んだ。さっき見た和装のママさんの店、あの霊に取り憑かれた女性が経営するクラブだった。虫の知らせが、ここを指しているのかもしれない。


「あら、この格好でよろしいのかしら?」


 真理子は自分の黒のゴスロリ調の服装を軽く見下ろしながら、優しく尋ねた。スカウトの黒服は目を輝かせて即答する。


「もちろんです!むしろ、この独特の雰囲気はお客様に大人気ですよ。ぜひ、体験でお試しになりませんか?」


 真理子は少し考え、虫の知らせに忠実に従うことにした。


(何か、あるのかもしれないわね)


 店は並木通りから少し入ったビルの地下だった。重厚な扉を開けると、落ち着いた照明の高級クラブ。黒服のスタッフが迎え、簡単な説明を受ける。体験ホステスとして、まずはヘルプで席を回るだけ。ドリンクバックや指名料の話もさらっとされた。


「あら?履歴書とか提出しないでよろしいのかしら?」


 真理子が不思議そうに黒服に尋ねると、黒服は笑って首を振った。


「体験ですから大丈夫です。お嬢様のような方は、すぐに人気が出ますよ」


 銀座の高級クラブでは、指名されたホステス(お客様の専属担当)を「(かかり)」または「係り」と呼ぶのだそうだ。私は、ヘルプ(サポート役でテーブルについてくれるホステス)は、そのまま「ヘルプ」と呼ばれる。こう黒服が教えてくれた。


 銀座のクラブは「永久指名制((かかり)制)」を採用している店が多く、一度担当((かかり))が決まると基本的に変わらず、ヘルプは係の接客をサポートする役割となる。


「お客様の(かかり)の女性は本妻みたいなものだから、勝手に横取りするな!ヘルプは水割りでも作ってろ!と、こういうお話ですわね?」と真理子が黒服に聞いた。

「そういうことです。飲み込みが早いね」と黒服。


 黒服が和装の美しいママを紹介してくれた。「エリカママだよ、彼女は……え~っと……」と真理子の顔を見る。名前すら聞かないでスカウトするのが銀座なのかしらね?と真理子は思った。

「真中真理子です。みんなには『マアちゃん』と呼ばれてます」とエリカママにペコっとお辞儀して挨拶した真理子。

「トキオ(黒服の名前だろう)、どこでこんな綺麗な子を見つけてきたの?まあまあ、衣装も素敵な……」と真理子を上から下まで見て値踏みする。

「ゴシックロリータ、ゴスロリ衣装の大人しめのドレスですわ。自前です。お店の前の路上で、トキオさんにさっき拉致されました。なんでも体験ホステスだとかで……」とニコニコして答える真理子。


 エリカママが真理子に一通りのヘルプの役割、挙措動作の注意点を説明した。エリカママには、縊死したと思われる首の索状痕が蒼く痛々しい美しい女性の霊と腹の膨れた妊婦らしき女性の霊がまとわりついているのが真理子には見えた。


(エリカママ、妊娠しているのかしらね?)と真理子は直感した。


 店内に入り、ヘルプで数席を回る。真理子は穏やかに微笑み、客の話を静かに聞き、時折優しい言葉を返すだけ。それでも、客の視線が集中し、すぐに指名がかかった。一人の富裕層らしい男性が、真理子を専属で呼ぶ。


 それを、古参のホステスと中堅のホステスたちが、カウンターの奥から憎々しげに見つめているのがわかった。嫉妬の視線が、棘のように刺さる。でも、真理子は気にせず、穏やかに微笑むだけだ。


 夜も更けてきて、店内の客入りもピークを過ぎた頃、新しい客が入ってきた。黒服が案内する席に座る男性を見て真理子は一瞬、息を飲んだ。大学時代の彼氏、吉澤悟だった。


(『銀座に出たら何かあるという虫の知らせ』は彼のことだったのかしら?)


 吉澤は少し疲れた顔で席に座り、黒服にドリンクを注文している。エリカママは、吉澤の(かかり)の明菜を呼んで、ヘルプに真理子をつけた。明菜は20代前半で、指名がよくかかる売れっ子のようだ。そして、彼女の周りにも浮遊している霊が真理子には見えた。


 真理子の守護霊のお姫様が『ここは吐き気がするわ』と呟いた。真理子も同感だった。浮遊している霊は、お姫様を恐れて真理子には近寄ってこない。


 明菜が手際よく吉澤のドリンク、マッカランのオンザロックを作った。真理子は吉澤にオシボリを渡した。吉澤は、俯いたまま真理子には気づかず、オシボリを受け取り、ウイスキーのグラスを手に取った。明菜は、真理子の分を合わせて水割りを作って、真理子に手渡した。


「吉澤様、いらして頂いてありがとうございます。まずは、乾杯しましょう」とグラスを合わせた。真理子もそれに習う。


 吉澤が顔を上げて真理子を見た。顔を上げ目を丸くする。疲れ顔だった悟が驚いた表情を見せた。「え?真理子?」


「悟さん……お久しぶりね」と真理子は穏やかな声で話しかけた。真理子の神秘的な微笑みが、店内の照明に映える。


 明菜が吉澤と真理子の顔を交互に見つめて、「あら?お二人はお知り合いなの?」と尋ねた。


「……大学時代の同期生だったんだ」と悟が明菜に答える。


 明菜の表情が、わずかに曇った。今日スカウトされて入店したばかりのヘルプが、内心狙っていた吉澤の知り合い、それも、かなり親密そうな雰囲気だったから。あまりおもしろくない。明菜は席を少し離れ、エリカママの元へ近づいた。


「ママ、ちょっと……あのヘルプの子、吉澤様の古い知り合いみたいなんですけど……」


 エリカママは穏やかに微笑みながら、明菜の肩を軽く叩いた。「それは、明菜ちゃん、たまたま偶然の出会いなんだから……。気にしすぎよ」


 それでもエリカママは、明菜の顔を立てる意味で吉澤の席に戻り、探りを入れるように言った。「二人共大学の同期のお知り合いだったのですって? 偶然というのもあるものだわね」


 悟は少し照れくさそうに頷き、真理子は穏やかに微笑むだけ。明菜の視線が、棘のように刺さるのが真理子にもわかったが、気にせず会話を楽しんだ。悟の疲れた顔が、少しずつ柔らかくなっていく。


 やがて、悟が時計を見て立ち上がった。


「真理子、久しぶりだし……外で話さないか?」


 真理子は小さく頷いた。悟は明菜に優しく声をかけ、なだめる。


「明菜、今度同伴出勤とかで埋め合わせするから。今日はごめん」


 明菜は唇を噛みながらも、プロらしく微笑んだ。「わかりました、吉澤様。またお待ちしてますね」


 悟と真理子は店を出て、並木通りの路上へ。夜の銀座はまだ賑やかで、ネオンが二人の影を長く伸ばす。


 後を追うように、黒服のトキオが駆け寄ってきた。真理子に封筒を差し出しながら、頭をかく。「吉澤様、失礼します!……真理子さん、あなたの連絡先も聞いてなかったものですから……で、これ、今日の分です。それから、これは俺の名刺です」と現金の入っているらしい封筒とトキオの店の名刺を真理子に渡した。


 封筒と名刺を受け取ると、真理子は小さな黒革のハンドバッグから自分の名刺を取り出し、トキオに渡した。トキオが名刺を見て、目を丸くする。


「え? 東京大学……文化人類学研究室助手……?」

「あら、トキオさん、別に大学の研究室の助手なんて珍しくないでしょう? このお店、非常に興味深いでしたわ。また、まいります」真理子は封筒を開き、中に入っていた三万円を確認して微笑んだ。


「あらあら、私、そんなに働いてませんのに……半分こしましょう……って、細かいお金がないわね」と三万円をヒラヒラさせて、吉澤を見上げてニコッとした。


 悟が財布から一万円札を出して、真理子に渡す。真理子はそれを加えて二万円をトキオに返した。


「トキオさん、また近い内にお会いしましょう。エリカママによろしく。ごきげんよう」


 真理子は優雅にお辞儀をし、悟の腕に軽く手を添えて、夜の銀座に消えていった。トキオは名刺を握りしめ、呆然と見送った。


(虫の知らせは、これで終わりではないのかもしれないわね……)

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