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第八話:夕暮れの来訪者とカエデの晩餐

 笑い合った後の余韻に浸りながら、俺たちはしばらく窓の外を眺めていた。

 空の色が茜色から群青色へと移り変わり、一番星が輝き始めている。

 静かだ。

 聞こえるのは風の音と、虫の鳴き声だけ。

 平和そのものの時間。

 このままソファでまどろんでしまいたい。そんな誘惑に駆られた、その時だった。


 ぐぅぅぅ……。


 静寂なリビングに、間の抜けた音が響き渡った。

 俺の腹だ。

 緊張が解けてリラックスしたせいか、あるいは風呂でエネルギーを使ったせいか、猛烈な空腹感が自己主張を始めたのだ。


「……雰囲気ぶち壊しですね」


 カエデが呆れたようにこちらを見る。

 だが、その直後。


 きゅるる……。


 彼女の腹からも、可愛らしい音が漏れた。

 カエデの顔がカッと赤くなる。


「こ、これは違います! あくまで生理現象であり、私の意志とは無関係な……!」

「はいはい、分かってるって。俺たち、朝からろくなものを食べてないもんな」


 俺たちは顔を見合わせて、小さく笑った。

 空腹は平等だ。

 どんなに立派な風呂に入っても、腹は減る。

 そして、ここで重大な問題に直面することになった。


「さて、晩飯なんだが……」


 俺はテーブルの上に置かれたリュックサックを引き寄せた。

 中に入っているのは、城を追い出される時に渡された食料だ。

 俺はそれを掴み出し、テーブルの上に並べた。


 ゴトッ、ゴトッ。


 重く、鈍い音がする。

 黒く焼き固められたパンの塊。

 そして、塩の結晶が浮くほど干からびたジャーキー。

 以上だ。


「……」

「……」


 俺とカエデは、その物体を無言で見つめた。

 風呂上がりの優雅な気分が、急速に冷めていくのを感じる。


「……これを、食べるんですか?」


 カエデが恐る恐る指先でパンをつついた。

 コツコツ、と硬質な音が返ってくる。


「これは食べ物ではありません。鈍器です。これで殴られたら怪我をします」

「全くだ。……せめて、これを切る道具くらいはないか?」


 俺は一縷の望みをかけて立ち上がり、キッチンへと向かった。

 引き出しを片っ端から開けていく。


 ほとんどは空だったが、一番下の引き出しの奥に、布に包まれた一本のナイフを見つけた。

 ずっしりと重い。

 布を解くと、鈍い銀色の輝きが目に飛び込んできた。

 柄には細密な彫刻が施され、刃は鏡のように磨き上げられている。

 長い年月放置されていたはずなのに、錆び一つない。

 試しに指の腹で触れてみると、肌が切れそうなほど鋭利な感覚があった。


「業物だな……」


 これなら、あの岩のような黒パンもスライスできるかもしれない。

 だが、ナイフ一本で何が変わるというのか。

 俺はナイフを引き出しに戻し、ため息をついてリビングに戻った。


「どうでした?」

「ナイフは見つけた。すごく切れそうなやつだ。でも、肝心の食材がない」

「そうですか……。では、やはりあの鈍器をかじるしか……」


 カエデが絶望的な表情で黒パンを見つめる。

 俺も嫌だ。

 あの最高の大浴場のあとに、この侘しい食事は落差がありすぎる。

 精神的なダメージが大きい。


「かといって、今から狩りに行くのもな……」


 俺は窓の外を見た。

 日はかなり傾いている。

 夜の森は危険だ。

 俺の運があれば大丈夫かもしれないが、わざわざ暗い中を歩き回るのは面倒くさい。

 カエデだって、汚れるのを嫌がって森には入りたがらないだろう。


「……庭を見てみましょうか」


 俺はふと思いついて言った。


「庭? あそこは雑草だらけでしたよ」

「いや、さっき入ってくる時に見たんだけど、赤い実がなってる木があったんだ。あれくらいなら食べられるかもしれない」

「木の実ですか……。お腹の足しになるかは分かりませんが、あのパンをかじるよりはマシですね」


 カエデは渋々といった様子で立ち上がった。

 俺たちはリビングから続くガラス戸を開け、テラスへと出た。


 ムッとした草いきれがするかと思ったが、意外にも空気は澄んでいた。

 夕方の風が森を吹き抜け、草木を揺らしている。

 足元のウッドデッキは俺たちが来るまで誰も手入れをしていなかったはずだが、不思議と腐ってはおらず、しっかりとした強度を保っていた。


「広い庭だな」


 俺はテラスの手すりに寄りかかり、庭を見渡した。

 雑草は伸び放題だが、かつては立派な庭園だった名残がある。

 点在する果樹のような木々。

 色とりどりの花。

 手入れさえすれば、ここは最高のプライベートガーデンになるだろう。


「……あそこに、何かありますね」


 カエデが指差した先、庭の隅に、いくつかの野菜のようなものが自生しているのが見えた。

 例の貴族が植えていたものが、野生化して生き残ったのだろうか。


「行ってみるか」


 俺はテラスの階段を降りようとした。

 その時だった。


 ガサガサガサッ!


 静かな夕暮れの空気を引き裂くように、森の奥から激しい音が聞こえてきた。

 風の音ではない。

 何かが草をなぎ倒し、枝を折りながら猛スピードでこちらへ向かってくる音だ。

 それも、一つではない。

 二つだ。


「な、なんですか!?」


 カエデが俺の後ろに隠れ、杖を構える。

 俺は目を細めて音のする方を凝視した。

 森と庭の境界にある茂みが、激しく揺れている。


「来るぞ!」


 俺が叫んだのと同時だった。

 茂みを突き破って、二つの影が庭に飛び込んできた。


「コケェェェッ!」

「ブモォォォォッ!」


 先頭を走っていたのは、茶色い羽毛に包まれた一羽の鳥だった。

 サイズはごく普通の鶏と同じくらいだが、頭には立派な赤いトサカがある。

 必死の形相で、短い足を高速回転させて走っている。

 そして、その後ろを追いかけているのが、巨大なイノシシだ。

 軽自動車くらいの大きさがある。

 鋭い牙を突き出し、赤い目を血走らせて、蒸気機関車のような勢いで突進してくる。


「魔物……!?」


 カエデが悲鳴を上げる。

 俺は冷静に観察した。

 いや、あれは魔物というよりは、ただの野生動物の生存競争に見える。

 巨大なイノシシが手頃なサイズの鳥を捕食しようとして、ここまで追いかけてきたのだ。


 鳥は俺たちのいるテラスの方へ逃げてくる。

 必死すぎて、俺たちの存在に気づいていないようだ。

 イノシシも獲物しか見ていない。

 このままだと、俺たちも巻き込まれる。


「カエデ、下がってろ」

「て、天道くん! 魔法で迎撃します!」

「いい、待て」


 俺は手すりに寄りかかったまま、動かなかった。

 なぜか、焦る必要がない気がしたのだ。

 俺の『勘』が告げている。

 あれは敵ではない。

 ただの……デリバリーだ。


 鳥がテラスのすぐ下を駆け抜けていく。

 速い。

 続いてイノシシが突っ込んでくる。

 地面を蹴る蹄の音が、地響きのように伝わってくる。


 俺はただ見ていた。

 手出しをする必要すらない。


 鳥を追い詰めようと加速したイノシシの前足が、庭の地面からわずかに突き出ていた木の根――あるいは埋もれていた古い敷石の角か――を強く踏みつけた。

 ただそれだけのことだ。

 だが、限界まで加速していた巨体にとって、そのわずかな段差は致命的だった。


 グニッ。


 そんな音が聞こえた気がした。

 イノシシの右前足が変な方向に曲がり、支えを失う。

 全力疾走の勢いが乗った巨体のバランスが、一瞬で崩壊する。


「ブギッ!?」


 イノシシの体が大きく傾いた。

 足がもつれる。

 制御を失った巨大な肉塊は、そのままゴロゴロと横転しながら地面を滑っていった。

 まるでボウリングのボールだ。


 そして、その先には。

 逃げていた鳥がいた。

 鳥は突然背後で転んだ捕食者の音に驚き、急ブレーキをかけようとしたらしい。

 だが、止まれなかった。

 鳥の目の前には、石造りの頑丈なテラスの壁があった。


 ドンッ!


 ドゴォォン!


 二つの衝撃音がほぼ同時に響いた。

 一つは、鳥が壁に頭から激突した音。

 もう一つは、転がってきたイノシシが、気絶した鳥ごと壁に激突した音だ。


 砂煙が舞い上がる。

 一瞬の静寂。


 やがて、砂煙が晴れると、そこには哀れな光景が広がっていた。

 壁際でピクピクと痙攣して伸びている一羽の鳥。

 そして、その横で白目を剥いて泡を吹いている巨大なイノシシ。

 どちらも即死はしていないようだが、明らかに戦闘不能状態だ。


「……え?」


 カエデがぽかんと口を開けている。

 状況が理解できないようだ。

 無理もない。

 ただ突っ込んできて、勝手に転んで、勝手に自滅したのだから。


「……ラッキー」


 俺は小さく呟いた。

 やはり、俺の『運』は健在だ。

 晩飯の心配をしていたら、向こうから食材が走ってきた。


「か、勝った……のでしょうか?」

「ああ、完勝だ。俺たちは指一本触れてないけどな」


 俺は階段を降りて、獲物の様子を見に行った。

 鳥の方は首が妙な方向に曲がっている。あれはもう助からないだろう。

 イノシシの方は脳震盪を起こしているだけかもしれないが、今のうちに止めを刺しておけば問題ない。


 ただ、このイノシシ……。

 近くで見ると、想像以上にでかい。

 それに、毛皮が鎧のように分厚くて硬そうだ。


「これ、どうする?」

「どうするって……食べるんですか? その巨大な塊を?」

「いや、無理だな」


 俺は即答した。

 さっきキッチンで見つけたナイフは良さそうだったが、一本だけだ。

 いくら切れ味が良さそうでも、この分厚い皮を剥ぐだけで日が暮れてしまう。

 それに、解体する場所もないし、これだけの量の肉を保存する手段もない。

 労力とリターンが釣り合っていない。


「こっちは諦めよう。解体が面倒すぎる」

「賢明な判断です。あんな獣臭そうなものをキッチンに持ち込まれたら、掃除が大変ですから」


 俺たちはイノシシを放置することに決めた。

 森の生き物たちが片付けてくれるだろう。

 狙いは、こっちだ。


「丸々と太ってるな。この鳥なら、サイズもちょうどいい」


 俺は鳥の太ももをつついて言った。

 サイズは普通の鶏だが、弾力がある。

 これは「幻の怪鳥」と呼ばれる類のものかもしれない。


「……天道くん。まさか、それを食べるつもりですか?」


 テラスの上から、カエデが引きつった声で聞いてきた。


「当然だろ。空から……いや、森から降ってきたご馳走だぞ。あの黒パンをかじるより百倍マシだ」

「で、でも……それは野生動物ですよ? 不潔です。泥だらけですし、何より……処理はどうするんですか? 血抜きとか、解体とか……」


 カエデが顔を青ざめさせている。

 彼女は潔癖症だ。

 生々しい肉体や、血を見るのは耐えられないだろう。

 料理された肉は平気でも、その過程を見るのは嫌がるタイプだ。


「安心しろ。汚い作業は俺がやる」

「……できるんですか?」

「やったことはない。でもまあ、なんとかなるだろ」


 俺は鳥の足を掴んで持ち上げた。

 ずっしりと重い。

 これなら二人分の食事には十分すぎる。


「よし、解体はキッチンでする。さっき良いナイフを見つけたからな」

「うっ……分かりました。私は準備が整うまで、リビングで待機しています」


 カエデはハンカチで口元を押さえ、逃げるように屋敷の中へ戻っていった。

 俺は獲物をぶら下げて、その後を追った。



 キッチンに戻り、シンクに鳥を置く。

 引き出しから、先ほど見つけた銀色のナイフを取り出した。

 改めて見ても、惚れ惚れするような輝きだ。

 やり方は知らないが、首を切って血を抜いて、皮を剥げばいいはずだ。

 適当にやっても、俺の『運』が補正して、うまいこと肉だけ取り出せるような気がする。


 俺は覚悟を決めて、ナイフを突き立てた。


 ……結果から言えば、作業は驚くほどスムーズに進んだ。

 屋敷にあったナイフの切れ味が異常に良かったのだ。

 軽く当てるだけで、皮がバターのように切れていく。

 さらにはナイフを入れる場所が、直感的に「ここだ」と分かる。

 関節の継ぎ目、皮と肉の隙間。

 刃が吸い込まれるように動く。


 三十分ほど格闘した末、俺の目の前には、綺麗に切り分けられた肉のブロックが出来上がっていた。

 モモ、ムネ、ササミ。

 素人がやったとは思えない仕上がりだ。

 残った骨や皮は、あとで庭の隅に埋めればいい。


「終わったぞ、カエデ」

「……もういいですか?」


 リビングの入り口から、カエデが顔を出す。

 彼女は調理台に並んだ肉を見て、目を丸くした。


「……意外と、綺麗ですね。もっと惨劇のような光景になっているかと思いました」

「このナイフが名品だったおかげかもな。精肉店でも開こうかな」

「調子に乗らないでください。でも……これなら調理できそうです」


 カエデが近づいてきた。

 彼女は杖を構える。

 仕上げの工程だ。


「『清浄なる水よ、我が呼びかけに応え、肉に宿る穢れと臭みを洗い流せ』」


 彼女の魔法が発動する。

 青い水が肉を包み込み、優しく洗っていく。

 野生特有の獣臭さや、取りきれなかった細かい汚れ、血の残りが、魔法の水に吸着されていく。

 これこそが、彼女の真骨頂だ。

 ただ洗うだけではない。

 食材としての純度を高め、最高の状態へと昇華させる。

 これなら食中毒の心配もないし、寄生虫だって死滅しているだろう。


「申し分ありません。この肉なら衛生的です」

「よし。じゃあ、あとは頼んだぞ、シェフ」

「任せてください。最高級の素材と、私の腕があれば、どんな料理だって作ってみせます」


 カエデが自信に満ちた表情でエプロンをつける。

 俺は邪魔にならないよう、ダイニングで待つことにした。


 キッチンからは、すぐに小気味よい音が響き始めた。

 トントンと包丁がまな板を叩く音。

 ジュワァァァッという、脂が熱せられる官能的な音。

 そして、何とも言えない香ばしい匂いが漂ってくる。


 俺はダイニングのテーブルで、その時を待った。

 窓の外はすっかり暗くなり、空には星が瞬き始めている。

 カエデが灯した魔石のランプが、室内を温かい光で満たしていた。

 磨き上げられたテーブル。

 座り心地の良い椅子。

 そして、周囲に漂う極上の香り。


「お待たせしました」


 カエデがワゴンを押してやってきた。

 そこには、湯気を立てる大皿が載っている。


「本日のメインディッシュ。『鶏のハーブロースト・木の実のソース添え』です」

「美味そう……!」


 テーブルに料理が並べられる。

 鳥肉は皮がパリパリに焼かれ、黄金色に輝いている。

 切断面からは肉汁が溢れ出し、皿の上に湖を作っていた。

 庭で採れた香草と、木の実を煮詰めたソースが添えられている。

 付け合わせには、これまた庭で採れた野菜のグリル。

 パンはないが、これだけで十分すぎるご馳走だ。


「……すげえ」


 俺は生唾を飲み込んだ。

 空腹ということもあってか、本当に旨そうだ。


「さあ、冷めないうちにどうぞ。毒見は済んでいます」

「いただきます!」


 俺はナイフとフォークを手に取り、肉へと向かった。

 ナイフを入れる。

 サクッという音と共に、抵抗なく刃が入っていく。

 柔らかい。

 切り分けた肉を口へと運ぶ。


 噛んだ瞬間、口の中で爆発が起きた。


「んんっ……!」


 皮の香ばしさと、溢れ出す肉汁の旨味。

 肉質は驚くほどきめ細かく、噛めば噛むほど濃厚な味が広がる。

 臭みは一切ない。

 カエデの浄化と、ハーブの香りが、野生の肉を上品な料理へと変えている。


「美味い……! なんだこれ、美味すぎる!」


 俺は叫んだ。

 今までの人生で食べた鶏肉の中で、間違いなく一番だ。


「良かった。焼き加減には気を使いました。魔導コンロの火加減調整が優秀で、遠火でじっくり中まで火を通せましたから」


 カエデも自分の皿に取り分け、一口食べて微笑む。

 上品な食べ方だが、そのフォークの動きは速い。


「素材が良いからです。それに、調理器具も。……この屋敷、本当に素晴らしいですね」


 俺たちは無心で食べた。

 会話をするのも忘れて、ただひたすらに美食を堪能した。


 やがて、皿の上は綺麗に空になった。

 俺は満足感でいっぱいの腹をさすりながら、椅子の背もたれに体重を預けた。


「ふぅ……食った食った」

「私も、久しぶりに満腹になるまで食べました。……少し食べすぎたかもしれません」


 カエデが口元をナプキンで拭いながら、恥ずかしそうに言う。

 ただ、そのどこかウキウキとした様子から、心の底から彼女が食事を楽しんでいたことを物語っていた。


「ごちそうさまでした。片付けは私がやっておきます」

「お、悪いな。じゃあ俺は……」

「貴方はソファで休んでいてください。どうせ、手伝おうとしてもお皿を割るのがオチでしょうから」


 カエデは立ち上がり、食器を魔法で浮かせた。

 水魔法で洗うから、手洗いよりも確実で早いのだ。

 本当に便利な魔法使いだ。


 俺は再びリビングのソファに戻った。

 満腹感と、適度な疲労感。

 そして、ふかふかのクッション。

 強烈な睡魔が襲ってくるのは時間の問題だった。


 今日は激動の一日だった。

 馬車で移動し、屋敷を見つけ、掃除をして、風呂に入り、ご馳走を食べた。

 全てがうまくいった。

 俺の『運』と、カエデの『力』があれば、この森での生活は何も恐れることはない。


 だが、一つだけ懸念事項があった。

 それは、今夜の寝床についてだ。

 二階には寝室がいくつかあるが、最も広くて快適な「主寝室」は一つしかない。

 俺もカエデも、当然ながら最高の環境で眠りたいと思っている。


 食器洗いを終えたカエデが、リビングに戻ってきた。

 その目は、獲物を狙う狩人のように鋭く光っていた。


「天道くん。そろそろ就寝の時間ですね」

「ああ、そうだな」

「部屋割りについて、話し合いが必要です。私はこの屋敷の管理者として、全体を把握しやすい主寝室を使うのが合理的だと考えています」

「いやいや、家主は権利書を拾った俺だぞ? 一番、寝やすい部屋を使う権利があるはずだ」


 火花が散る。

 平和な夕食の時間は終わった。

 ここからは、仁義なき領土争いの始まりだ。


「勝負しようぜ、カエデ。公平にな」



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