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ランクレス・レガリア  作者: 下朴公脩
1章:太陽は影を射さない
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影を照らす日輪 その3

 一華が地面を蹴る。

 次の瞬間には、彼女はアンドロイドの懐に潜り込んでいた。


「ハァッ!!」


 巨大な太刀が、閃光となって横薙ぎに振るわれる。

 アンドロイドの鋼鉄の装甲が、まるで濡れた紙のように容易く切断された。

 切断面から、炎が噴き出す。


「ギ、ガガガッ!?」


 アンドロイドがたじろぐ。再生しようとするが、切断面に残った神炎が蔦を焼き続け、修復を阻害する。


「この神炎は浄化の象徴だからね。再生なんて……させると思うッ!?」


 一華は止まらない。

 袈裟斬り、逆風、突き。

 一華の背丈ほどもある大太刀が、舞うように連続で叩き込まれる。その一撃一撃が、戦車砲並みの威力を秘めている。


「ギィィィィィッ!!」


 クロスレンジでの不利を悟ったアンドロイドが、全身から数百本の蔦の槍を一斉に射出した。

 全方位からの刺突攻撃。

 だが、一華の領域では、それすらも遅すぎた。


「——【草薙】ッ!!」


 一華が、目にも止まらぬ速さで太刀を旋回させる。

 炎の暴風が巻き起こり、迫りくる数百本の蔦が、一瞬にして全て切り刻まれ、燃え尽きた。

 再生スピードを遥かに上回る、超高速の斬撃乱舞。


「……っ、すごい。あれが、東雲さんの本当の力なんですか……!?」


 いとが、圧倒されながら呟く。

 一華は、周囲の蔦を全て焼き払うと、太刀を上段に構え直した。


「……終わりにするよ」


 一華のマナが、太刀に集中していく。刀身に凄まじい圧力の神炎が収束され、赤から超高熱の白へ変化する。

 だが、その力はあまりに強大すぎた。


「く、ぅ……っ!!」


 構えた瞬間、彼女の腕が悲鳴を上げ、膝が折れそうになる。


「重い……! 制御、できない……っ!」


 溢れ出す神炎が暴走し、一華自身の身体すら焼き焦がそうとする。

 アンドロイドは、その隙を見逃さない。時間を掛けて再生した蔦の槍を構え、突っ込んでくる。


(ダメ、思ったように狙えない……!)


 一華が歯を食いしばった、その時。

 背後から伸びた手が、一華の手ごと、剣の柄を強く握りしめた。


「——俺が支える、一華!」


「維くん……!?」


「一人で背負うな! 俺たちは仲間だろッ!」


 維は、左右の聖痕を輝かせ、暴れまわる剣のマナに干渉する。


(読み取れ……! この暴虐的なエネルギーの奔流を!)


 【模倣(イミテート)】で神炎の構造を読み切り、【再構築(リビルド)】で強引に「指向性」を与える。

 一華の「出力」と、維の「制御」が一つになる。

 暴れていた炎が、一本の極光の柱となって天を衝き、晴れた夜空から月光が覗く。


「……いくぞ、一華」


 維が、アンドロイドを見据えて告げる。


「悪意も、運命も、全部焼き払うんだ!」


「……うんッ!!」


 二人は、重なり合うようにして剣を振りかぶった。

 狙うは、アンドロイドの核。そして、その奥にある【災厄の(カラミティ・)寄生木(ミストルティン)】の本体。


「悪いが、永久退場してもらうぜ。この世界から消えるのは……お前の方だ!!」


「この世界の秩序(ルール)は、理不尽で、残酷かもしれない! でも!」


「——これは、俺たちのッ!」


「私たちのッ!」


「「——神話(ものがたり)だぁぁぁぁぁッ!!」」


 二人の叫びと共に、剣が振り下ろされる。


「「——【神技・高天原(たかまがはら)之大祓(おおはらえ)】ッ!!!」」


 夜空を焦がす、極太の光炎の斬撃。

 それはアンドロイドを飲み込み、再生する暇すら与えずに蒸発させ、演習場の地面を割り、遥か彼方の空まで雲を裂いて駆け抜けた。


「————」


 音すら消えた、圧倒的な浄化の光。

 光が収まった時、そこにはもう、怪物の姿も、邪悪な蔦の欠片すらも残っていなかった。

 あるのは、焦げ付いた大地と、雲が晴れた夜空に浮かぶ、満月だけ。


「……はぁ、はぁ……」


「……やった……?」


 剣が光の粒子となって消える。

 支えを失った二人は、へなへなとその場に座り込んだ。


「……勝った、な」


「……うん。勝ったね、維くん」


 二人は顔を見合わせ——そして、泥だらけの顔で、互いにピースサインを送った。

 遠くで、観月や生徒たちの歓声が聞こえる。

 長い、長い夜が明けようとしていた。


 ◇


 燃え盛る大地の上で、三人はへたり込みながら、互いに顔を見合わせて笑った。


「凄かったよ、一華。【草那藝ノ太刀(クサナギノタチ)】……あんなの、反則だって」


「維くんこそ! この左手の聖痕、なんなの!? また話聞かせてもらうからねっ!!」


「いや、話すと長くなるっていうか…俺にも分からないっていうか…!」


「私は……天束くんが来てくれなかったら、もうダメでした。……本当に、ありがとうございます」


「いやいや、何言ってんの!? いとちゃんの神律武装(レガリア)も、すっごいよ!」


「あぁ、因果律の操作だよな…? 冷静に考えて、三枝さんの能力が一番やばいんじゃ…?」


「ふぇ…っ!? そそそ、そんなことないです! あの時は、必死だっただけで…!」


 互いの健闘を称え合い、生きてまたこうして話せることを喜び合う。

 ふと、維の視線が、消滅したアンドロイドがいた足元に向いた。

 キラリと光るものがある。


(……これは?)


 焼け焦げた銀色のチェーンと、砕けた赤い宝石の破片。装飾品の残骸だろうか?

 維は、誰にも見られないようにそれをハンカチに包み、ポケットにしまった。これは、後で導師(マスター)に見せなければならない「証拠」になるだろう。

 その時、維の通信機が鳴る。観月先生からだ。


「あ、こちら天束……はい、三人とも無事です。元凶は排除しました」


 報告しながら、維の顔がサァーッと青ざめていく。


「……え? あ、はい。……作戦無視して突っ込んだ件、ですか……」


 通話を終えた維は、ガックリと項垂れた。


「……あ、やーばい。観月先生、超キレてる。導師(マスター)への言い訳も考えてない……」


「あはは……。まあ、私たちも同罪だよ。一緒に怒られに行こう?」


「はい。三人で一緒なら、怖くありません!」


 三人は肩を寄せ合い、ボロボロの身体を引きずって、演習場の出口へと向かった。

 ゲートを抜けた先。そこに広がっていた光景に、三人は言葉を失った。


「……な、んだ……これ……」


 そこは、鉄屑の墓場だった。

 暴走していたはずの数千体のアンドロイドが、すべてスクラップとなり、うず高く積み上げられて「山」を作っていたのだ。

 切断面は鋭利、あるいは高密度のマナで内側から破裂させられたかのような破壊痕。

 そして、その頂上。

 満月を背に、瓦礫の玉座に優雅に腰掛け、脚を組んでこちらを見下ろしている、一人の幼女がいた。


「……遅いぞ、馬鹿弟子」


「ま、導師(マスター)……!」


「この数……まさか、全部一人でやったんですか……?」


 一華といとが戦慄する。Sランクがいたとはいえ三人掛かりでも、一体倒すのに死力を尽くした相手だ。それを数千体、単騎で、しかも無傷で?

 学園長は、フワリと瓦礫の山から降り立つと、維の目の前に立った。


「……無茶をしおってからに。死んだらどうする気じゃ」


「す、すみません……」


「まあよい。……よく護りきったな」


 学園長は一華を一瞥し、ポンと維の頭に手を置いた——かと思うと、ギリギリとこめかみを締め上げた。


「い、痛い痛い!?」


「じゃが! 命令違反は万死に値する! 罰として、明日からの訓練メニューは10倍じゃ! 覚悟しておけ!」


「じゅ、10倍ぃ!? 死にますよ!?」


 情けなく叫ぶ維を見て、一華といと、そして学園長も、堪えきれずに吹き出した。

 瓦礫の山に、四人の笑い声が響く。


 夜明け前。

 学園の防衛部隊が事後処理に追われる中、四人は人目を避けるように校舎裏へ移動していた。

 今回の事件は、表向きは「演習用システムの暴走事故」として処理されるだろう。

 維の活躍も、一華の覚醒も、いとの献身も、公式には記録されない。

 明日になればまた、維は「序列外(ランクレス)」として蔑まれる日常が待っている。

 だが、維の隣には、今、二人の少女がいる。隣り合って笑い合える、仲間が。

 不意に、可愛らしい音が鳴った。


「あー! お腹すいた! 戦ったら余計に減った!」


「ふふ、東雲さんらしいですね」


 いとが笑う。


「あの、よかったら……私の部屋に、カップ麺ならありますけど……」


「……しょうがないな」


 維は、やれやれと首を振った。


「俺が何か作るよ。寮のキッチン、借りられるだろ? 材料があればだけど」


「えっ、維くん料理できるの!? なんでも頼んでいい!?」


「わかったから。三枝さん、悪いんだけど手伝ってもらってもいい?」


「は、はい! 任せてください!」


「ほう、儂も相伴に預かろうか。和菓子が食べたいのじゃが」


「ええ……今から作るんですか……?」


 東の空が白み始める。

 朝日に照らされる学園を背に、ボロボロだけど晴れやかな顔で歩いていく四人の影が長く伸びる。

 世界はまだ、何も変わっていない。

 理不尽なルールも、隠された真実も、強大な敵の影も、何一つ消えてはいない。

 けれど。


「——ここからだ」


 維は、隣で笑う「太陽」と、後ろをついてくる「友人」、そして前を行く「師」を見つめた。

 太陽は、影を消すものではない。

 影があるからこそ、光はより強く輝けるのだから。


「さあ、帰ろう」


 ここから先の、俺たちの神話が幕を開ける。

これにて、一章は完結となります。

もしよろしければ、評価・感想など頂けたら、続きの執筆への原動力となりますので、何卒よろしくお願い致します。


以降の更新は、作者Xにて進捗を公開しつつ、なるべく早めに更新できればと思っております。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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