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ランクレス・レガリア  作者: 下朴公脩
1章:太陽は影を射さない
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再会 その4

 天照学園の巨大なカフェテリアは、戦場だった。

 その中央のテーブルで、学園で最も目立つ「奇妙な三人組」が昼食を広げている。


(……すごい、見られてる……)


 いとは、全方位からの視線に射抜かれ、身を縮こませてオムライスを口に運んでいた。

 一華はというと、天照学園の学食名物である「天岩戸カレー」の特盛を物凄い勢いで食べ進めている。見てるだけで胸焼けしそうだ。ちなみに、この名物カレーだが、ライスの中にルーが入っており、蓋の役割であるチキンカツを動かすと中身のルーがお目見えになるという設計らしい。あぁ、もう半分食べ終わってる。


「でね!聞いてよぉ!」


 一華だけが、そんな視線を一切気にせず、楽しそうにパフェを頬張っている。まだ食うのか。


「A組の人達、本当に堅苦しくてね! 『首席たるもの、かくあるべし』みたいな? 疲れちゃうよお…」


「……だろうな」


 維が、苦笑しながら相槌を打つ。


「さっきも、教室まで来るの、大変だったんじゃないのか。お前の『取り巻き』たち、振り切ってきたんだろ」


 入学式の日から、一華の周囲には常にA組の生徒たちが壁を作っていた。

 すると一華は、スプーンをくわえたまま、心底うんざりした顔で言った。


「うわ、言わないでよ、あの人たちのこと……」


「ん?」


「なんか、『一華様のため』とか言って、全部勝手に決めちゃうんだもん。『首席はB組の生徒と馴れ合うべきではありません』とか……」


 一華は、プクーッと頬を膨らませた。


「正直、ウンザリ…かな。あの人たちと高級ランチ食べるより、こうやって維くんと、いとちゃんと、名物カレー食べてる方が、100倍楽しいよ!」


「ひゃ、ひゃい……!あ、あああ、ありあり…!」


 不意に名前を呼ばれ、いとが慌てて口の中のものを飲み込む。


「そ、そんな……私たちといる方が、なんて……」


「本当だって!」


 一華は、心の底から楽しそうに笑う。


「維くんは、なんか面白いし。いとちゃんは、可愛いし!」


 その屈託のない笑顔は、Sランク首席の仮面ではなく、年相応の「友人」としての顔だった。

 維も、この太陽のような少女の「誠実さ」に、毒気を抜かれる。


(……こいつは、ただ、俺と友達になりたいだけ、か)


 地獄の特訓、規格外の聖痕、《天秤(リブラ)》の影。

 そんな維の事情を知ってか知らずか、目の前の二人の女の子らは、ただ「学園生活」を謳歌していた。


(……まあ、悪くないか。こういうのも)


 維は、自分の「普通」ではない日常を、少しだけ受け入れた。

 その時、いとが、おそるおそる、といった様子で手を挙げた。


「あ、あの……! お二人は、その……どうして、お知り合いなんですか? 東雲さんはA組で、天束くんはB組ですし……。以前、教室で『命の恩人』って……」


 その言葉に、一華が「ああ、それはねー!」と、あの日のことを屈託なく話そうとする。


「あのね、入学試験の日に……!」


「——ちょっとした、事故だよ」


 一華の言葉を、維が静かに遮った。

 一華が、キョトンとした顔で湊を見る。

 維は、あの日の凄惨な光景——友人が「消された」事実と、公式記録では「死者ゼロ」となっている、あの奇妙な現実のズレを思い出す。ここで、あの「地獄」を、いとに話すわけにはいかなかった。


「事故……?」


 だが、いとは、その言葉に別の意味で反応した。


「まさか……! あの、入学試験の日にあったっていう、大規模な……!」


 いとの言う「あの事件」とは、世間で報道されている内容——『Sランク級の歪象(ノイズ)が出現したが、試験会場に居合わせた一人の天才適合者である東雲 一華が、単独でそれを撃退。負傷者は多数出たものの、奇跡的に死者はゼロだった』——という、英雄譚のことだ。


「え、え!? じゃあ、天束くんも、あの場にいたんですか!?」


 いとは、目を輝かせて維を見た。彼女にとっては、それは伝説の現場に居合わせた当事者、という意味合いだ。


「東雲さんが、たった一人で歪象(ノイズ)を……!」


「ま、まあ!そんな感じ!」


 維の「嘘」に、一華が慌てて話を合わせた。維が何かを隠そうとしていることを察したのだ。


「私が、こう、ビシッとね! 助けに入ったっていうか、まあ、成り行きというか!」


「すごいです……!」


 いとは、心の底から二人を尊敬する眼差しで見つめた。

 片や、歪象(ノイズ)を単独撃破したヒロイン。

 片や、その伝説の現場に居合わせ、ヒロインの「命の恩人」と呼ばれる謎の友人。

 いとは、自分の手元のお弁当を見つめ、俯いてしまう。


「……お二人とも、すごいです。私には、とても……」


「いとちゃん?」


「私、本当は、友だちの付き添いだったんですけど……」


 いとは自分の境遇を一華に話し始めた。

 維は、自分を「友人」として、そして一華を「英雄」として、尊敬の眼差しで見てくれている、この小動物のような少女との「日常」を守らなければいけないと、静かに決意していた。


 キーンコーン、と。

 カフェテリアの喧騒を切り裂くように、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。


「あ! やばい!」


 一華が、慌ててパフェの最後の一口をかき込む。


「もう終わり!? あっという間だね! A組の教室、ここからだと結構遠いのに!」


 彼女は名残惜しそうに立ち上がると、維といとに向かって手を振った。


「じゃあ、維くん、いとちゃん! また明日ね!」


「ああ、また」


「は、はい! お疲れ様です、東雲さん!」


 嵐のように現れた首席は、その名に違わず、嵐のように慌ただしく去っていく。

 その後ろ姿を見送った維と、まだ少し緊張が解けないいとも、顔を見合わせて苦笑した。


「……戻るか、俺たちも」


「そう、ですね」


 一時の賑やかな時間が終わり、二人は午後の授業を受けるため、B組の教室へと並んで歩き出した。

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