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ランクレス・レガリア  作者: 下朴公脩
1章:太陽は影を射さない
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再会 その2

 入学式が終わり、維は割り当てられたクラス——1年B組の教室へと向かった。


(A組が、いわゆる特進クラスか……。俺は…B組だな)


 教室に入った維は、その設備に圧倒された。


「……うわ、まじかよ」


 壁一面が透過型のディスプレイになっており、窓の外の風景と、授業内容が同時に映し出されている。

 そして、生徒一人ひとりの机。それは、単なる机ではなかった。

 手元のタッチパネルで、空調はおろか、飲み物用の小型冷蔵庫までが個別に操作できる、最新鋭のコンソールだった。


(半年前は重力室で這いずってたのに、今は冷蔵庫付きの机かよ……あ、オロナミンCある)


 あまりのギャップに、この半年間張り詰めていた緊張の糸が、少しだけ緩むのを感じた。地獄のような訓練とは真逆の、希望に満ちた「学園生活」という響きに、毒気が抜かれるようだった。


「——はい、みんな席に着いてー」


 教室に入ってきたのは、あの解析室で見た白衣ではなく、パリッとした教師用のスーツに身を包んだ、観月千里だった。


「私が、この1年B組の担任になった、観月 千里です。専門は聖遺物解析とマナ制御理論。よろしくね」


 観月は、教卓に立つと、出席簿を確認しながら……維のところで一瞬だけ視線を止め、クスリと笑った。


「それじゃあ、まずは皆の自己紹介から始めましょうか。前の席から順番に」


 生徒たちが緊張しながらも、自分の名前や出身中学について語っていく。


「次、君ね」


「あ、はい」


 維は立ち上がる。


「……天束 維です。出身は……ええと、この辺りです。特技とかは特にありませんが、半年間の合宿は皆勤でした。よろしくお願いします」


 当たり障りのない自己紹介を済ませて、席に着く。


(……これでいいんだ。出来る限り、波風立てないように……)


 維が席に着くと、周囲の生徒たちがヒソヒソと囁き合っているのが耳に入った。


「……おい、今のやつ……天束 維って言ったっけ?」


「ああ。でも……合宿に、あんな奴いたか?」


「だよな? 俺も見た記憶ないんだけど……。特進の奴らは全員顔覚えたけど、一般の合宿にもいなかったような……」


 維は、その戸惑いの視線に気づかないふりをした。学園長が「他の生徒とは違う場所で合宿を行う」と言っていた言葉を思い出す。

 目立ちたくないのに、スタートラインの時点で、他の生徒たちとの間に「普通」ではない決定的なズレが生じてしまっている。

 ホームルームが滞りなく終わり、観月が教室を出ていく。最初の関門を突破し、維が息をついた、その時だった。


「おーい! B組ってここで合ってるー?」


 教室の入り口が、急に騒がしくなった。

 B組の生徒たちが「え?」「うそ……」とざわめく中、その声の主は、人垣をかき分けて堂々と教室に入ってきた。


「あ、いたいた!」


 夕陽色の髪。首席のオーラ。東雲一華だった。

 その瞬間、B組の教室が水を打ったように静まり返った。

 A組——いや、新入生首席の彼女が、なぜ一般クラスに?

 しかも、教室に入ってくるなり、脇目もふらずに……。

 クラス全員の視線が、驚愕、好奇、そしていくつかの嫉妬の色を帯びて、一華の向かう先——天束 維一人に突き刺さった。

 維が望んでいた「普通の学園生活」は、入学初日の、この瞬間に、良くも悪くも終わりを告げた。

 A組のはずの彼女は、まっすぐに維の席へと歩いてくると、机にドンと手をつき、顔を覗き込んできた。


「やっほー、天束くん! ……あれ?私の事、覚えてる?」


 彼女は、あの時のように、こっそりと悪戯っぽく微笑みかけてきた。忘れるものか。


「東雲……さん、だよな。ひさしぶ…」


「いーちーか! 私のことは一華って呼んでよ! 私も維くんって呼ぶから!」


「え、あ……うん」


 維が全方位からの視線に射抜かれてパニックになっていると、一華は屈託なく笑った。


「もう、大丈夫なの? 身体! 私、A組(あっち)の教室だったんだけど、B組に君がいるって名簿で見て、飛んできたんだから!」


「それは俺のセリフだよ。キミの方こそ、無事で良かった…」


「へーきへーき! 適合者は頑丈なんだって! それより、あの後、変な人たちに捕まったりしなかった? 心配してたんだよ!」


 彼女がそう言って顔を近づけた、まさにその時だった。


「——東雲さん」


 冷たい声が、二人の間に割って入った。

 いつの間にか、一華の後ろにA組の制服を着た男女数名の取り巻きが立っていた。


B組(こんなところ)で何を? 次のガイダンスが始まりますよ」


「あ、やば。ごめん、もう行かなきゃ」


「待ってください、東雲さん。……それで、そちらの方は?」


 取り巻きの一人が、品定めするような目で維を見る。

 あの入学試験の事件で、一華は街を救った英雄として、学園中の注目の的となっていた。当然、彼女の周囲には、常に人が集まっていた。


「ん? ああ、彼は維くん! 私の、えーっとね……」


 一華は、悪戯っぽく笑うと、とんでもない爆弾を投下した。


「命の恩人、かな!」


「「!?」」


 取り巻きだけでなく、聞き耳を立てていたB組の生徒たちも息を呑む。


「ちょ、おい、一華……!」


「じゃ、また来るね、維くん!」

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