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ランクレス・レガリア  作者: 下朴公脩
1章:太陽は影を射さない
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異物 その4

「……は……? なんだよ、それ……」


 維は、ドン引きするしかなかった。


「流石です、学園長」


 観月だけが、当然といった顔で頷いている。


「……それも、神律武装(レガリア)の力なんですか……?」


「さあの。ただ、儂は実装インストールはしておらん」


 学園長は、焦げひとつ付いていないキャンディを、再び口に放り込んだ。


「当然です」


 観月が、呆然とする維に告げる。


「常世学園長は、世界の中でも稀に見るSランク適合者。その中でも『最強格』と呼ばれる十人の中のお一人です。彼女がいる場所こそが、世界の安全地帯。……この学園の生徒が全員でかかっても、おそらく学園長一人には敵わないでしょう」


「……そんなことよりも」


 学園長は、観月を促す。


「解析結果はどうじゃった?」


「はい」


 観月は、解析ルームのメインスクリーンに、先ほどのマナの流れを映し出した。


「まず、天束くんが叫んだ通り、能力名は【模倣(イミテート)】で間違いないでしょう。そして、最大の発見はこれです」


 スクリーンに、観月の武装の設計図と、維の聖痕が映し出される。


「維くんの力は、私の神律武装レガリア)そのものには一切干渉していませんでした」


「なんじゃと?」


「彼の力が干渉していたのは、もっと深い場所……武装の核となっている、聖遺物そのものです」


 観月の声が、興奮に震える。


「人為的な制御システムを完全に無視して、聖遺物の根源に直接作用する……。そんな神律武装(レガリア)、私は見たことも聞いたこともありません」


 観月が興奮冷めやらぬ様子で報告を終えると、解析ルームは静寂に包まれた。


「……なるほど。『武装』ではなく、『聖遺物』そのものを模倣イミテートする力、か。危険度も、希少性も、既存のランクでは測れん」


 学園長は、じっと維の目を見つめていた。その瞳から、先ほどまでの研究者のような色は消えている。

 彼女は、椅子の上でちょこんと座り直し、おもむろに口を開いた。


「……小僧。おヌシに問う」


「え?」


「望まぬ形で、神律武装(レガリア)の適合者となった訳じゃが……おヌシは、その力で何を成したい? どうありたい?」


 それは、静かだが、有無を言わせぬ問いだった。

 観月が息を呑む。それは、天照学園の入学試験で行われる、最終面接と全く同じ問いかけだったからだ。

 聖遺物の力は強大だ。邪な心を持つ者は、いずれその力に呑まれる。

 適合者の社会的待遇は良いが、だからこそ、学園は使い手の「人となり」を何よりも重視する。

 維は、真っ直ぐに学園長を見返した。


「……歪象(ノイズ)を、撲滅したいです」


 しかし、学園長は即座にかぶりを振った。


「それは全適合者だけではなく、全人類が我らに望んでおることじゃ。儂は、おヌシが何をしたいかを聞いておる」


「俺が……」


 維は考える。脳裏に、あの日の光景が蘇る。友人の死。そして、自分を庇って血を流した東雲の姿。


(そうだ、彼女は言っていた)


「まずは、義務を果たします」


「……義務?」


「俺が手に入れたこの力が、誰かを守るためのものなら。……もう、佐藤や武田のような、歪象(ノイズ)の犠牲者を二度と出さない。そのために戦います」


 学園長は、やれやれと溜め息をつこうとした。


「……さっきと変わらぬではないか。それは『義務』であって、おヌシの『意思』では……」


「その上で!」


 維は、学園長の言葉を遮るように叫んだ。


神律武装こんなものに頼らなくてもいい世界を創る! 俺が、この手で!」


 シン、と静まり返った解析ルーム。

 維の荒い息遣いだけが響く。

 やがて、学園長の小さな肩が、プルプルと震え始めた。


「……くっ……」


「……くくく……ふ、ふはは……!」


「クァーーーーッハッハッハッハ!!」


 突然、学園長が腹を抱えて高笑いを始めた。


「世界を変えると来たか! 歪象(ノイズ)の撲滅どころか、神律武装(レガリア)の存在そのものを否定するとは! 面白い! 面白いぞ小僧!」


 学園長は、ガタリと椅子から立ち上がると、興奮した様子で観月の元へ駆け寄る。


「あい、分かった! 観月、例のものを!」


「は、はい!」


 学園長は、観月からマナデバイスを受け取ると、その小さな指で凄まじい速度で操作し、立体液晶のウィンドウを維の眼前に突き出した。

 そこに映し出されていたのは、維の顔写真が埋め込まれた、天照学園の『入学許可証』と『学生証』だった。


「ただ、聖遺物の判別がどうしても出来んかった故、そこのパーソナルデータだけは『不明』、ランクも暫定で『E』じゃ。特例処置じゃからの、これくらいは許せ」


 学園長は、イタズラっぽく笑う。


「……期待しておるぞ、小僧」


 維が、呆然と自分の学生証を見つめていた、まさにその時だった。

 けたたましいアラート音と共に、解析ルームの分厚い防護扉が、外側から強制的に開かれた。


「——何事じゃ!」


 観月がコンソールを操作しようとするが、アクセスがロックされている。


「——そこまでだ、常世 時子」


 ズカズカと踏み込んできたのは、黒い軍服のような、一切の無駄を削ぎ落とした制服に身を包んだ一団だった。その腕には、剣と天秤をあしらった徽章が縫い付けられている。


(あの徽章……剣と天秤。それに、あの黒い制服……見たことがある)


 維は息を呑んだ。


(そうだ、テレビだ。聖遺物が出土したっていうニュースの時、現地映像で厳重に現場を封鎖して、仕切っているのがいつもあいつらだった!)


 天照学園の運営母体、《天秤リブラ》。

 その中でも、聖遺物の回収を専門とする実働部隊。


(なんであいつらが、こんな所に? 聖遺物……? ということは……まさか、目的は俺か!?)

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