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9-2 両隣の世界は

「見てー!」


 スライドドアを思い切り開け、エレナちゃんが飛び込んでくる。私たちの元に小走りで駆け寄ると、その頭をずい、と差し出した。


「出来ましたの! どう?」


 その側頭部より少し下で揺れる三つ編みは、正直なところ、あまり上手くはない。私が結ったのよりももっと左右非対称で、上手く結べていないのか、根元の部分に寄った髪が膨らんでしまっていた。

 しかし、テルさんは微笑み頷いた。


「いいね、可愛いね」

「でしょお~」

「エレナが自分でやったってだけでこんな可愛いんだから、もっと練習すればもっと可愛くなるよ」

「ほんと? じゃあもっと頑張りますの!」


 ぴょんと跳ねるエレナちゃんに目を細める。エレナちゃんは嬉しそうに笑いながら手を揺らしている。そこに、テルさんが首を傾げて言う。


「しかし、エレナが自分で髪結べるようになっちまったら、番の仕事が無くなるなあ」


 その言葉に、エレナちゃんは心底不思議そうに目を丸くした。


「なんでですの?」

「だって自分で結べるんだから、結んでもらう必要ないだろ」

「ぜーんぜん、そんなことないですのよ」


 そして、至極当たり前のことを言うように、


「だってあたしがテルちゃんに結んでもらいたいから結んでもらってるんですもの!」


 そう言って、棚の上からテルさんを抱き上げた。


「ねぇテッちゃん、今日はなにしますの?」

「……うーん、そうだなあ」


 2人はソファに座り、向かい合って話し出す。

 あーあ、やれやれ。こちらに向いた猫のしっぽが、ゆらゆらと機嫌良さ気に振られている。私は肩をすくめた。


「2人、上手くやっていけそうね」

「王様」


 気が付けば、ドアの辺りに王様が立っている。王様はドアを閉めると、私にこっそり耳打ちした。


「あの子、結び終えるや否や飛び出していったの。すぐにでも見せたかったのね」

「みたいですね。本当に、エレナちゃんもテルさんが大好きみたいですから」


 さて、水槽の水換えも終わったし、この容器たちを片付けないと。まずはこの重たいものから、と水が入った容器を持ち上げようとすると、横から王様の手が添えられた。


「持ちましょう」


 王様は軽々と容器を持ち上げる。私は空になった容器にポンプやらブラシやらの小物を入れた。王様のお陰で一度に運びきれそうだ。


「すみません、ありがとうございます」

「これくらいはね。チアキには、多大な献身をもらってばかりだから」


 まったく、王様はいつもこれなんだから。

 私は苦笑し首を振る。


「いやいやいや。あの王様、献身って言いますけど、私別に……」

「私に、エレナに、テル。異世界の者を3人もその身で受け入れてくれているでしょう。その献身には、あなたの気苦労が付随しているというのに」

「それは……そうですけど」


 まぁ確かに、気苦労はあるっちゃある。

 今回のことだってそうだ。SNSに投稿するのは気が滅入って仕方がなかったし、目立たないための手段を色々考えるのも大変だった。挙句の果てに工事現場に不法侵入からの、巨人とのとんでもバトルの渦中に立って……気苦労どころか、物理的な苦労もたくさんある。


「でも王様、前も言いましたけど、私だって色々助けてもらってますから。王様にも、エレナちゃん達にも」


 今みたいにね。そう水の容器を指すと、王様は困ったように僅かに眉を下げた。

 こんなこと当然だ、王だから。そう言いたいんだろう。


「それに」


 そんな王様に私は言う。

 包み隠さず本当のことを。


「それに私も、好きみたいですからね。この生活が」



【終幕】

 

ここまでのご愛読、ありがとうございました。

いつかの第3章で再びお会いできれば嬉しいです。

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